国道一号線は、豊橋で天地海山教のバリアの中に入る。そのため東名高速を使って、名古屋を目指す事にした。
だが、その前に、やらねばならない事がある。
「とうさん、お金は大丈夫?」
「ふっふっふ、心配ご無用。ミサから五万円ほどもらった」
「えーーっ、女の人から力ずくで奪ったの」
「こ、こらこら、人聞きの悪い事を言うもんじゃありません。クーラ用のミスリルロッドと照明用のミスリルロッド、冷蔵庫にウォーターサーバーを売った代金だ」
「ミサさんも来たそうでしたよ」
「うむ、だが、やはり知らない土地だからな危険すぎる」
「私は大丈夫って事ですか?」
「ふふふ、あずさは、魔王城のメイドだからな。もう、強いのは分かっている」
「あっ、ウナギって書いてあります」
浜松城の近くの道で、すぐに看板を見つける事が出来た。
「よし、そこにしよう」
店では、炭でウナギを焼いていた。
だが、おかしい。白焼きなのだ。
「あの、蒲焼きは無いのですか」
「すまないねえ。もうタレが品切れなのさ」
そうか、たれに使う材料が手に入らないのか。
これは、うまいうな重を食べようと思ったら、醤油など調味料から何とかしないといけないようだ。
「はいよ。おまたせ」
「あっ、ありがとうございます」
俺とあずさは、パラパラと塩をふって、ウナギの白焼きを食べた。
「……」
たしかにうまいのだが、あずさの異世界うな重の、ウナギの方が、身が厚くて濃厚でうまい気がする。
「と、とうさん、私のうな重のウナギの方が美味しいよね」
あずさが小声で聞いてくる。
「うむ、あずさのウナギの方がうまい気がする」
油でギトギトが好みでなければこっちの方がうまいのだろうが、俺とあずさはギトギトのウナギが好物なので、あずさの異世界うな重のウナギの方が勝ちだと思った。
「おかわりーー!!」
あずさはお替わりをこの後三回した。
「おいおい」
なんだかんだ言って、気に入ったんじゃねえかよー。
「しょうが無いわよね。美味しいのですから」
まあ、一匹四百円と安いのでお金が足りなくなる事はなかった。
物価が安い。俺は物価など安い方がいいと改めて思った。
ウナギだけでおなかを満腹にしたあずさと、浜名湖で激豚君を回収し、高速道路の上を飛んだ。
車の走っていない高速道路は、それだけで不気味な雰囲気がある。
時速六百キロ程で飛ばしていたら、木曽川が見えてきた。
どうやら名古屋を通りすぎてしまったようだ。
名古屋の高速道路はややこしすぎる。
「どこで通りすぎたのかなあ」
「もっと、ゆっくり飛ばないとまた、変なところへ行ってしまいます」
高速道路だろうと今はユーターンが出来る。
Uターンをして線路と交差したところで、線路に降りた。
線路を移動したらすぐに名古屋駅にでた。
名駅に名物のでかい人形があったので、その前に激豚君を置いて、後は自力で移動する事にした。
「とーさん、ついでです。あそこに行きましょう」
「大須観音でありますか」
「そうです。あのコスプレパレードの大須観音です」
毎年八月の最初の日曜日に行われるイベントだ。
年々パレード参加者が少なくなっているあのパレードだ。
なんとか昔のように、沢山の参加者が集まるように願っている。
本当ならもうじき開催されるはずなのに、今年は無理だろう。
俺とあずさは、誰もいない大須観音の境内を少し散歩した。
その後少し、名古屋を空から見て、様子を目に焼き付けた。
そして、今回の最終目的地、名古屋城に向う事にした。
大須からは、北に移動するだけだ。
「立派なお城です」
「うむ、誰も住んでいなければ、今日から俺とあずさの家になる」
「えっ」
「さっき、上空から見たが、名古屋は丁度良い大きさの街だ。東京は都市が巨大すぎる。その点名古屋は、東京に比べれば都心部が小さい。まわりに農地も多い。最初に都市として回復させるなら、東京や大阪では無く名古屋だと思う」
「じゃあ、ここから始めるのですね」
「そう、ここから始まる日本復興だ」
「おいおいおい! お前ら、よそもんかーー。命は助けてやる。食い物を全部置いてさっさと消えなー」
俺と、あずさが仲良く会話をしていると邪魔が入った。
ガラの悪い連中が四人で俺達のまわりを囲んだ。
少し前なら、おびえていただろう。だが今は、こいつらより迫力のある怖い方々ばかりを見ている。そこから比べれば全然たいしたことが無い。悪いけど全然怖くない。
「全部と言われても、何も持っていません」
「なにーーっ! そんなにふくれているんだ! 服の下に何か持っているだろう。だしゃーがれ!!」
「お疑いなら、調べてみて下さい」
俺は両手を挙げて身体検査を受ける意を示した。
「ふんっ、おい、やれ」
リーダーが、あごをクイッと動かした。
「へ、へい」
「あーーひゃひゃひゃひゃ」
くそう、なんだこいつ、手つきがいやらしい。
そして、くすぐったい。
「こ、こいつ、何も持っていません。ただのデブです」
な、なにーっ、やかましいわ!
「こ、こっちは、なんか金属のように固い体で気味が悪い」
クザンを調べた奴が驚いている。
そりゃあそうだ。全身金属だからな。
あずさをもう一人の男がいやらしい手つきで触ろうとした。
「嬢ちゃんが持っているようには見えない。検査は不要だ」
リーダーが止めた。
こいつ、ひょっとしていい奴なのか。
「くそー、腹減ったー。また、空振りかよー」
一番若そうな奴がぼやいた。
「あんたら、手ぶらでどこへ行くつもりだ。このあたりには食べる物は何も無いぞ」
リーダーはいい奴なのか、俺達の心配をしている。
「俺達は、お城に行こうと思っています」
「や、やめろ! それだけはやめた方がいい。城には俺達より数倍恐ろしい古屋一家がいる」
「そうですか。でも、ゼロって何倍してもゼロですよね」
「はーーっ! おまえ何を言っているんだ。ちょっと何を言っているのかわからねえぞ」
四人が頭をかしげている。
いい奴のようだが頭は少し足りないようである。
さて、どうしたもんか?