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0095 ういろう

「お、おい! 大丈夫か」


若い奴が、少しよろけて倒れそうになった。

リーダーがすかさず腕を支え、倒れるのは防いだ。


「大丈夫です。少しめまいがしただけです」


「むりもねえ、もう一週間まともな物を食ってねえからな」


良く見ると、全員やつれて、頬がこけている。


「だ、大丈夫ですか」


俺が心配になって声をかけると


「ふふ、あんたに心配されるとわな。そのうち補給があると思うのだが……」


「見てください」


俺は腹を指さした。

そこにはミサに縫ってもらったポケットが付いている。

今日の俺の服装は黄色いジャージ姿だ。これが大田大の姿。

ちなみに、あずさは中学のセーラー服を着て、髪で顔を隠している。大田あずき姿だ。


その黄色いジャージの腹に同じく黄色い大きいポケットが付いている。

本当は何でも出来そうな、坂本さんにつけてもらいたかったのだが、江戸城へ連行されてしまったので困っていたら、ミサが「貸しなさいよ。私がやってあげるわよ」といって縫ってくれたのだ。

俺は今、その時の事を思い出している。


恥ずかしいからと隣の部屋へ行って縫っていた。

ふすまの向こうからは痛い、痛いと声が聞こえていた。

出来上がったポケットは隙間だらけのポケットだった

小銭を入れたら全部落ちそうなポケットである。

「ごめんなさい。裁縫って難しいのね。初めてだったからうまく出来なかったわ」そう言って、恥ずかしそうに渡してくれた、愛情たっぷりのポケットだ。


「で、その出来損ないのポケットがどうした?」


くそー、ミサの愛情ポケットを出来損ないだとーー。

ゆっるさーーん!!

心の中で叫んだ。


「ふん、そのポケットの凄さを見て見ろ」


俺はポケットに手を突っ込んで黒い固まりを出した。


「な、何だそれは。さっき調べた時は無かったぞ」


「これは、ういろうです」


「おい、なにが、ういろうだ。ようかんじゃねえか」


「えっ」


「えっ、じゃねえ。ようかんを名古屋で食えばういろうです。じゃねーんだ。しかも栗ようかんって、しっかり書いてあるじゃねえか」


「ういろう……」


「ようかんだ! それよりどうなっているんだ、お前のポケットは。二十一世紀の青い猫型ロボットのポケットかよ! って言うかお前そのロボットの妹みてーだな。たしかぶた美ちゃんだっけか?」


う、うるせーー!!

誰がぶた美ちゃんだーー!!

あずさが横でゲタゲタ大受けです。

俺は全員に一本ずつ渡した。


「ちょっと、見せてみろ!!」


リーダーが俺のポケットに手を突っ込んで、わさわさする。


「うひゃひゃひゃっ」


こ、こそばゆい。

リーダの指が時々ポケットからはみ出した。


「ひでーポケットだなー」


「ふん、あんたらにはわからないだろうが、このポケットは最高のポケットなんだよ」


リーダーがポケットから手を出すと、俺はもう一度手を突っ込んで水筒を出した。


「な、何で出てくるんだよー」


「二十一世紀の科学です」


「未来の科学かよ。そんなわけあるかー」


「未来では無く、今が二十一世紀ですけど」


「そ、そうだな。じゃあ発明されていたのか」


「まあ、そう言う事です」


「ふむ」


どうやら納得したようだ。


「うめーーーっ。か、体に染みこんでいくーー」


ようかんを食べて、全員が叫んでいる。


「水もうめーーっ」


水を飲んだ奴が叫んだ。


俺は一本目を喰い終わったリーダーに話しかけた。


「もう一本どうですか」


「お、おう」


「名古屋生まれなんですか」


「おおよ、中川の生まれよ」


「古屋一家の他にはどんな勢力があるのですか」


「熱田に一つ熱田一家、俺達の所属する栄一家、ドームを根城にする東一家の三つがある」


「水もどうぞ」


「おう、ありがてえ」


「ここで、何をしているのですか」


「古屋一家の見張りよ!」


「おい!! うまそうなもんを食ってるなあ。俺にもよこせや!」


不意に後ろから声が聞こえた。


「て、てめーは古屋一家の竹田」


竹田と呼ばれた男は、痩せた長髪の神経質そうな男でニヤニヤ笑いながら、拳銃をかまえている。


「榎本、もういくら待っても、補給は来ねえぜ」


こっちのリーダーの名前は榎本と言うらしい。

竹田は四人の部下を連れている。

そのうちの一人が、一人の女性の髪をつかんで前にだした。

女性は縄で後ろ手に縛られ、体もグルグル巻きにされている。

もう一人の男が頭に拳銃を突きつけた。


「てっ、てめーーっ」


「これがどういうことかわかるだろー」


竹田は勝ち誇った様にニヤニヤする。


「くそー」


「やれーー」


竹田が言うと三人の配下が、榎本を殴った。

榎本の配下が動こうとすると


「おいおい、これが見えねえのか」


竹田が女の方を見た。

女性は拳銃を頭に突きつけられ、髪を引っ張られながらも、鋭い刺すような視線を、竹田に向けている。

強い女の人だ。


榎本は、見る見るボロボロになる。

榎本を立てそうに無くなるまで痛めつけると、今度は配下を一人ずつ三人で囲んでボロボロにしていく。


「おい、デブ、てめーは何なんだ」


「やめろーー!! その人は何も俺達と関係ねえ、かたぎの人だ! ただの旅の人だ!!」


榎本は、俺をかばってくれているようだ。


「ふん、まあ、見た事がねえ野郎だ、関係ねえのは本当だろーなー。だが、さっき、食いもんを出していただろう。全部出せ! そうすれば助けてやる」


「逃げろー!! あんた達は俺達と関係ねえ。逃げてくれー」


榎本が叫んだ。


「うるせーー!!」


竹田は榎本の腹を蹴り上げた。


「やれやれだぜ!」


俺は、榎本達を助ける事にした。

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