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0096 名古屋大田一家

「やあ、お嬢さん。美しいねえ。俺の女にならねーかい」


俺は人質になっている女性と、髪をつかんでいる男の間に体を入れて、拳銃を持っている男の腕をひねり上げた。

女性は、少し目が吊り上がっているけど、美人ぎみの女性だ。

まあミサを百点とすると、坂本さんは九十九点、あずさは二百点、この人は七十三点ぐらいだ。


俺は、女性に話しを合わせるように、ウインクをバシバシした。

もちろん顔は、目一杯、目を見開いて渋く格好良く見えるようにした。

女性は頬を赤くして、コクンと頷いた。


「ふふふ、今からこの女は俺の女だ! きたねー手は離してもらおうか」


「あーやっちゃった」


あずさが小さな声でつぶやいた。

何だよやっちゃったって。


「馬鹿かてめーは、状況を考えろ」


竹田と手下が俺にかかってくる。


「うぎゃーーー!!!」


五人が崩れ落ちた。

うん、弱い。


「腕がーーっ!!」


拳銃を持つ手をひねり上げ、折っておいた。

ついでに拳銃は取り上げた。

取り上げた拳銃は榎本と手下の前に投げた。


「このやろーー!!」


「おい、おい。ほどほどにな!!」


榎本達が、えらい勢いで、竹田達を痛めつける。

ポカスカ殴ったり、蹴ったりしている。だが、表面は傷ついているが、気絶するほどではない。

ゲンなら、一撃で失神させているだろう。

普通の人間の攻撃力はこんなものなのだろう。


「おい、竹田! 俺達の一家はどうなったんだ」


「ひゃあーーはっはっはーー、皆殺しにしたよ。女以外はガキも全員皆殺しだーーーーー!!!!」


竹田は、死を覚悟したのか、口から大量の血を吐きながら笑い飛ばした。

榎本が銃口を向けて引き金を引こうとした。

俺は、その手を押さえつけた。

そして、竹田とその配下に手かせと足かせをつけた。


「あずき、こいつら全員のけがを治すことは出来るか」


「はい、出来ます」


「じゃあ、頼む」


俺は、助けた女性に視線を移すと、この人も結構な青たんが体中に出来ている。

その視線を見て、あずさは女性にもけがを治す魔法をかけた。


「ほら、ういろうだ。食え」


俺はポケットから黒い固まりを出した。


「てっ、てめーーっ、なめているのかーーー!! これはういろうじゃねえ。ようかんだーーーーー!!!!」


竹田が、すげーー剣幕で怒っている。

し、しまったー。また間違えた。

榎本達と、あずさが噴き出している。


「お嬢さんも食べるか? く、栗ようかんだ」


「はい、いただきます」


顔に似合わず可愛い声だ。

それを聞いて、榎本達がまた噴き出した。


「なあ、竹田。皆殺しなんてひでえ事を何でするんだ」


「しゃーねえじゃねえか、もう食い物がねえ。全員が餓死するより少しでも仲間が生きられる方がいい」


今の都市はまるで砂漠だ。

立派な建築物はあるが食べ物が無い。

それでも、都市にしがみついてしまった人間の末路なのかもしれない。

今は東京も人が住めない街になっている。

これはそんな中で、必死に生きようとした人達の結果なのか。


「なあ、榎本さん、どうしてもこいつらを許せないのか」


「許せるわけが無い!」


「えーのもーとーー!!!」


女性が、口からようかんを飛ばしながら叫んだ。

榎本の顔に黒いつぶつぶが張り付いた。


「は、はい。姐さん」


「うちの亭主が言いたい事があるようだ。だまって聞くんだよ」


姐さんが、俺の方を見た。

今度は、姐さんがウインクをバシバシしている。


「聞いてくれ、俺から見れば、榎本も竹田も全部ひっくるめて日本人だ。このままでは日本が滅んでしまう。一人の命も無駄にしたくねえ」


「そ、そんな、きれい事を言って! 食いもんはどうするんだーー!!! 食い物が無ければ始まらねえ!」


榎本が、激怒しているようだ。

俺の理想論が気にくわなかった様だ。

俺はポケットに手を入れると、ステンレス製の机を出した。


「あずき、食べ物を机一杯に並べてくれ」


あずさは机の上に収納している食べ物を、わざわざ俺のポケットに手を入れて出していく。

俺も、あずさが出す隙間を縫って、収納している食べ物を並べる。

それを見ている、全員の口からよだれが垂れはじめた。

人間の口から、これ程よだれが出るのを見るのは初めてだ。


「どうぞ」


あずさが、可愛い声ですすめた。

最早、敵も味方も無い、ガツガツ食べ始めた。

あずさもすかさず、食べている。


「うめーーーっ!!!」


全員が、食べながら泣いている。

俺は、コップを出すと水をついでそれぞれの前に置いてやった。


「あんた達はいったい何者なんだ」


「俺は、駿河の大田大商店の大田大だ。こっちはその娘のあずきだ。食糧は俺達が何とかする。矛を収めてはくれないだろうか」


「くっ、それでも、できねえ。親の敵だ」


榎本は、心が揺れているようだ。

だが、親分を殺された敵を許す事が引っかかっているようだ。


「あーーはっはっはっ!! すごい男だねえあたしの亭主わ!! 榎本! 一家の名前が今から名古屋大田一家に替わった。親の言う事は白でも黒になる世界だ。あんた、榎本に言ってやりな!!」


姐さんが俺を見て、ばしばしウインクしている。

だ、大丈夫なのだろうか? 深みにはまっているような気がする。


「榎本!!」


「だ、だめだ、あんたからは盃を受けてねえ。認められねえ」


「良く言うぜ。そんだけ俺の出した食いもん食っておいてよおー!!」


「……」


榎本は下を向いた。

姐さんが俺の腕にしがみついてきた。


「姐さん、もう演技はいいですよ」


「ふふふ、姐さんじゃ無いよ。凛と呼んでおくれ!」


「あーーあ」


あずさがため息をついた。

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