目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

0097 久々の激豚登場

「竹田、あんたは何で俺が食い物を出したのを知っていたんだ」


「それは、あっているのかどうかわからんが、深淵を覗くものは深淵からも覗かれる的な奴だ」


少し使い方が違う気がするが、意味はわかる気がする。つまり竹田は、名古屋城をのぞく榎本を監視していたと言う事らしい。

そして、榎本の目を盗んで、油断している栄一家を全滅させたのだろう。


「待てよ、それならあんたは、栄一家の全滅には参加していないんじゃ無いのか」


「行ってはいねーが、古屋一家がやった事は俺がやったのも一緒だ」


「そうか。直接はやっていねーのか」


榎本が小さくつぶやいた。


「なあ、竹田。俺を古屋一家の親分さんに会わせてくれねーか」


「はあーっ!!」


全員が箸を止めて驚いている。


「あんた、それは危険すぎるよ。死にに行くようなもんだ。やめておくれよ」


凛が慌てている。


「でーじょーぶだ。もし、殺そうとするなら、一暴れさせてもらう。のんきに殺されやしねえ」


「ひゅーーっ、大田さん、しぶいねー。しゃーねー! 俺もお伴するぜ!!」


「榎本!! 大田さんじゃないよ馬鹿! 親分だ!! うふふ」


「はぁーーっ、ちょっと何を言っているのかわからねえが、俺とあずさとクザンの三人で行く。あんたらは足手まといだ、ここでじっとしていてくれ。万が一の時の為に少し食い物を置いて行く」


俺はドサドサと米と保存のきく食糧を出した。


「本気なのか?」


竹田も心配そうな顔をしている。


「ああ、案内を頼む」


「わかった。後悔しねーでくれよ」


竹田がここまで心配すると言う事は、古屋という男は恐らくそういう男なのだろうな。

こえー顔していたらどうしよう。

少しビビっている。

あずさがどんな顔をしているのか気になって見てみた。


なーーっ。

嬉しそうな顔をして、目をキラキラさせている。

前世の魔王城というのは、相当すごいところだったのだろうか。

まるで遊園地に遊びに行くような顔をしている。


やれやれだぜ。


あずさが俺の視線に気が付いて、こっちを見てきた。


「怖かったら、ここにいても……」


「私はとうさんを守ります。絶対に死なせません。魔王城のメイドとはそういうものです」


あずさは、俺の言葉をさえぎり仮面をつけて、セーラー服からメイド服に着替えた。

魔王城のメイドとは、いざとなったら魔王を守って戦うものらしい。

遊園地に遊びに行くような顔では無くて、主人を守る事が出来るという顔だったようだ。


「うむ、よろしく頼む」


「はい! とうさん!!」


あずさはわざわざ、凛の間に割り込んで俺の腕にしがみついた。


「じゃあ、行こうか」


竹田が、行こうとする。


「もう、食事はいいのか」


「見てくれ,この腹を!!」


「ふふふ、じゃあ行こうか」


竹田と手下四人の腹は、はち切れんばかりに膨らんでいる。

命の限り食った。そんな感じがする。


竹田達に案内されて、名古屋城の門まで来た。


「ここで、少し待ってくれ」


竹田が、真剣な顔をして中に入っていった。

一時間程の時間が立った。


「あずさ大丈夫か」


俺は熱中症になっていないか心配になって、門の中からあずさに視線を移した。


「何?」


こ、こいつ、涼しい顔して、右手にアイス、左手にスポーツドリンクを持っている。

メイド服も脱いで、普通にスライム水着になっていやあがる。か、可愛いじゃねえか!

門番が、驚いた顔をしてこっちをジロジロ見ている。

そうか、さっき俺のポケットをごそごそしていたのは、アイスとドリンクを出していたのか。


「待たせたな。こっちだ」


「……」


竹田じゃ無い手下が来て、散々待たせたくせにえらそうに指図する。

少しムッとして、無言で顔を見てやった。


「うおっ!」


驚いている。俺も目力がついたようだ。

だが、案内の男の視線は俺を見ていなかった。

あずさのアイスをじっと見つめている。

どこからそんな物を的な感じだ。


あずさは俺にアイスとドリンクをさしだした。

仕方が無いのでそれを両手に受け取った。

そして、あずさは俺のポケットをゴソゴソしてメイド服を取り出すと、それを身につけた。

身につけ終るとアイスとドリンクを俺から取り上げて。


「行きましょう」


涼しい顔をして言うと、スタスタ歩き出した。

俺とクザンはあずさの後ろをついて行く形になった。

門をくぐると、少しひらけた所に出た。

そこに武装した男達が、五十人程立っている。

俺達は当然その中央に立たされた。


「ぎゃあーーはっはっはっ! 鴨がネギを背負ってやって来るとは、この事か。俺も運が向いてきたと言う事か」


頭がツルツル坊主の肥満した男が笑っている。

目の下の涙袋がとてつもなくでかい。

しかも、その涙袋の下に濃い太い影が落ちて、歌舞伎の隈取りのように見える。

おっそろしい顔だ。


しかも、この食糧不足の時に肥満とはどういうことだ。

まあ、俺が言えた義理では無いのだが。


「私は大田大商店の……」


「うるせーー!! ぶたーーっ!! てめーはしゃべるな! この場が養豚場臭くなるわ! さっさとそのジャージを脱いでこっちに渡せ」


くっ、くそーーっ!

何なんだこいつ。

ふと、目線を移すと、武装した男の先頭、ツルツル坊主の横に、リンチを受けたのかボロボロの竹田と手下の姿がある。


「やれやれだぜ」


俺は、ジャージのズボンを脱いだ。

久々の激豚の登場だ。

そして、たいして恥ずかしくないけど、くねくねして恥ずかしそうにしてみた。


「てめーは馬鹿なのか! デブー!! 上着を渡せと言っているんだよー! 誰がテメーの臭くて汚ねーパンツを見せろと言ったんだ!! もっと言やー、ポケットを渡せって事だよ! このうすら馬鹿野郎!!」


くそおおーー、デブとかうすら馬鹿とか、デブはてめーもだろーー!!

と、心の中で叫んだ。

だってあいつ、顔がこえーんだもん。

俺は、上着を脱いで、ツルツル坊主の前に投げてやった。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?