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0098 親と子

「ぎゃーーあ、はっはっはーー! これさえもらえばお前達に用はねえ。てめーら、構えろ!!」


ツルツル坊主の声を聞くと手下全員が銃を構えた。


「オイサスト! シュヴァイン!!」


「あっ!!」


俺は驚きの声を出した。

オイサスト! シュヴァインと言ったのは、あずさだった。

クザンの体が、分裂して、あずさの体に装着される。

俺の体に合わせたサイズなので、あずさが装着すると少し余る。

クザンは、メイド服と背中にカバンのような物を作って、サイズを無理矢理合わせている。


「撃ち殺せーー!!!!」


銃撃が始まった。

弾丸の雨が降ってくる。

あずさは、俺の前で両手を広げると、銃弾の雨をその体に全部受けようとしている。


無理! 無理! お前の方が小さいんだから、とうさんは体が出てしまっているよ。

あずさの体をすり抜けたものは、自分で吸収して処理した。

銃弾は、あずさの体に当たると、コン、コン、カンと音を立てる。


「な、なん、なん、なんなんだ!! なんなんだーー! おまえたちわーーー!!!」


ツルツル坊主があせりだした。

銃撃の音は余り長く続かなかった。

弾丸も不足しているのだろう。


「ふふふ、何なんだお前達わってか? 俺の名前はアンナメーダーマン!」


うーーん、格好はどう見てもメイド姿の女の子だぞ。

まあ、いつもより声を、男っぽくしている為か少年のような声になっている。

あずさは、可愛い女の子も、かっこいい男の子の声も出来る声優のようだ。


「アンナメーダーマン?」


「そうだ。この黒い体を見ればわかるだろ。地獄からの使者だ。地獄に落ちたい奴からかかってこい」


うわあーーっ、なんか悪党のような台詞だよ。

ここは、正義の味方アンナメーダーマンでいいんじゃねえか?


「ふざけやあがって! てめーら構わねえやっちまえーーー!!」


相手は期待通りの悪党だった。


「うおおおおおおおおおーーーーーーーー!!!!!」


手下が、一斉に雄叫びを上げて向ってくる。

だが、あずさは、俺の真似をしているのか、襲いかかる男達の胸に張り手を合わせ次々倒していく。


倒れた男達は、何メートルも吹き飛ばされて口から泡を吹いて白目をむいている。


「くそがーーー!! おい!! あれを見ろ!」


ツルツル坊主が指をさした。

全員が動きを止めて指の先を見た。


「……!?」


そこには、肌着一枚の女性や下着だけの女性が十人程拘束されて引っ張り出された。頭に銃口を突きつけられている。

女性は体中傷だらけになっている。

全員、目に涙がたまっている。


「少しも動くな! 動けば女を殺す!」


「くっ!!」


あずさがだらんと両手を下げた。


「はああーーはっはっはっ!」


ツルツル坊主が勝ちを確信したようだ。

この隙に俺は糸のように細くした体を、慎重に女性の方に伸ばしている。


パン


乾いた銃声が響いた。

ツルツル坊主の頭が吹き飛んだ。


「もう、名古屋にあんたの居場所はねえ。そして親殺しをするような俺の居場所もねえ」


パン


竹田がこめかみを打ち抜いて天を仰ぎ倒れた。


「うわあああああああーーーーーーーー!!!!!!!!!」


俺は大声を出してひざまずいた。

くそう、俺は、一瞬判断が遅れた。

女性の方に気を取られていたから……。

それは、言い訳だ。今の俺なら、瞬間的に助ける動きをしていれば、竹田の命は助けられた。


「やってしまった。生きていてくれたら、きっと俺の役に立ってくれたはずだ。それを俺は見殺しにしてしまった。 くそおおーーー!!!!」


ドン!!


俺は拳を握りしめ、地面をたたいた。

たたいた瞬間、震動が地響きとなって広がり、大地をビリビリ揺らした。


ビーーーン


震動の周波数が、名古屋城の共振周波数だった為か、名古屋城が振動している。


「くそおおおおおおーーーーーーー!!!!!!」


俺はさっきよりも大きく振りかぶり、渾身の一撃を地面にたたき込もうとした。


「……!?」


振りかぶった腕を、あずさが両手で抱きかかえている。


「とうさん、そんな力で叩いたら。名古屋城が壊れてしまいます」


「あ、あずさ。俺は見殺しにしてしまった」


「もし、とうさんが暴走したら、私がとうさんを殺します。そして、その場で自殺します。もし、そこで助けられても、しばらく時を置いて、誰にも止められない場所で死にます。でも、本当はとうさんの横で死にたいと思うはずです」


「……」


俺は何も言えず、あずさの顔を見た。


「見てください。竹田さん。満足そうな顔をしていますよ」


俺も、竹田の顔を見た。

その顔には、微かな微笑みがあるように感じた。

俺は、あの瞬間、ここで死なせてやった方がいいのでは無いかと無意識に思ったのかもしれない。

いや、それでも死なしてはいけなかったと、俺は思っていた。


俺は暗い顔をしてのそりと立ち上がった。


「うおっ」


それだけで、全員がおびえた。

俺が大地を叩いたのを目の当たりにして、全員がおびえているようだ。


「全員武器を捨ててくれねえか」


ドサドサ!!


全員が、武器を下げると、そのまま地面に武器を落とした。


「あんたーー!! すごい地震だったねーーー!! 大丈夫だったかい?」


「凛、来るなと言っただろう」


「ふふふ、私も馬鹿じゃ無いよ。ちゃんと安全確認をしてから来ているさ。榎本!! うちの子達を助けてやっておくれ!」


凛の言葉で、榎本達が女性達の拘束をといている。


「あずさ、まずは飯の用意だ」


俺は黄色のジャージを拾って頭からかぶった。

なかなか着る事が出来ない。


「あっ、ズボンだった」


その後ちゃんと見て、赤い顔をして、こそこそジャージを着た。

そして、ジャージのポケットからテーブルを出した。

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