「なんなんですか! なんなんですかこれはー!!」
榎本と加藤の声がそろっている。
こいつら、意外と息が合っているのかもしれない。
「それはなー。明治、大正、昭和、平成、令昭と来て、名匠大田大作、当代具足、尾張黒鋼深山胴丸具足だ。美術館にも展示されているぞ」
美術館には、無理矢理置いてきただけですけど。
まあ、聞いているのは、名前では無い事ぐらいは分かっているけどボケて見た。
どうせ、具足に対するクレームだろう。
「名前なんか聞いているわけではありません」
仲いいなー。また声がそろっている。
「じゃあ、何なんだよ。文句があるならさっさと言いやがれ!」
「も、文句? ……め、滅相もございません。か、感動しているのです。まるで電動アシスト付き自転車のように走るのが楽です。ほんの少し足を動かすだけで、どんどん走れます。このくそ暑い日に具足の中は、滅茶苦茶涼しい! その上、銃弾もまるで効かない、いえ、それどころかキズ一つ付きません」
加藤が言い終わると、門がザワザワしている。
「とのーー!!! 熱田一家の熱田一郎です」
門をくぐって加藤の部下が、ひげもじゃの大男を背負って入ってきて大声を出した。
その顔は目のまわりが青く腫れ上がり、歯が何本も折れている。
気を失っているようだ。
部下が地べたに転がした。
「ひでーー。誰がやったんだ」
「加藤です」
「榎本です」
ここはそろわなかった。
「殺しちまったのか」
「いえ、生きています。ただ、殺そうとしてきましたので、少しかわいがってやりました」
「なら、いいか。使者を半殺しにするような奴は許せん。いくらごろつきとはいえ、礼節は重んじ無ければならない。使者は断るにしても丁重に扱わなくてはなー!」
「そう言えば、こいつらは何ですか」
榎本が分かっているくせに聞いて来た。
視線が平伏している東一家にむいている。
「こいつらは、東一家だ。降伏してきた」
「なんだ、今から行こうと思っていたのだがなーー」
「うっ」
東が、うめき声をあげ、下を向いた。
「との、そう言えばこの具足をつけると強くなるのですか?」
聞きながら、榎本と加藤の顔が悪い笑顔になる。
何か良からぬ事を考えている予感。
「ああ、そうなるようにしてあるなー」
「では、との、胸をお借りします」
そう言うと榎本と加藤が、俺に飛びかかってきた。
こいつら、俺を攻撃してきた。
「おりゃあああーーーー!!」
二人の息のピッタリ合った同時攻撃だった。
すげー、不意打ちだ。まあ、殺意が無いから楽しみたいだけなのだろう。
だが、気に入らないのは、顔が笑っていて最早勝ったと思っているところだ。
「ばか」
あずさが小さな声でつぶやいた。
俺は素早く弧を書くように右前に移動し二人の攻撃を避けた。
二人は勢い余って数歩前に進んで、俺の方を向いた。
その時点で、俺は榎本の腕を取っていた。
まだ、体制の崩れている榎本の腕を持ってぐるんと一周回って、榎本の体を加藤にぶつけた。
ちゃんと手加減してあるのに、二人は勢いよくぶつかり、大きな音がした。
グワシャアアン
まるで自動車が正面衝突した時の様な大きな音を出した。
二人は、そのまま体がからまって、ガラガラ回転しながら数十メートル転がった。
「うわあああああああーーーーーーーー!!!!!!」
二人が大声を出した。
けがでもしたのかなあ。
「おいだいじょーぶか? けがでもしたのか?」
「か、体はなんともありません。ですが、具足が、具足がーーーー」
二人の具足が、ベコンベコンとへこみ、キズキズになっている。
「武具のキズは勲章みたいなもんだ。あーこのキズは木曽川での戦いでついたものだ。これは岐阜城での戦いで付いた傷だ。などと、懐かしがることもできるしな」
「あー、これは殿につけられた傷だ。あーこれも殿につけられた傷だ。あーそれも殿につけられた傷だー……」
二人が光を失った死んだ魚のような目をして、ブツブツ言っている。
「わかった、わかった。まだ予備があるから、新品と交換していいよ」
「おーー、やったーー」
二人が予備の具足の方に喜んで走って行った。
いい年したおっさんが、子供の様に喜んでいる。
「ぐあああーーーっ! くそーーっ!!」
熱田が目を覚ましたようだ。