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0102 やれやれだぜ

目を覚ました熱田のまわりには、殴られて伸びている子分が運ばれて横たわっている。

全員ボロボロで、たいてい顔に青たんを作り、歯が数本無くなっている。


「榎本! 加藤! おめーたちはやり過ぎじゃねえのか」


「いやー、力加減がわからなかったもんですから」


ちっ、具足のせいにしやあがった。


「て、てめーらはぜってー許さん」


言い終わると、熱田が強く歯を噛みしめた。

目には憎悪が宿っている。血走り、すこし目玉が飛び出している。


「なあ、あんた、大丈夫か?」


「うるせーぶたーー!!! 豚はあっちでブヒブヒいっていろーー!! くそが!!」


俺が話しかけたのが良くなかったのか、余計に怒らせてしまったようだ。


「おい、熱田のー、おめーさん、誰に何を言っているのか分かっているのかー」


東が、あきれたように熱田に話しかけた。


「うるせーー!! 古屋を出せーー!!」


この状況でもこれだけ元気があるのは賞賛に値する。

東は熱田の言葉を聞いて、やれやれという表情になった。


「榎本、こいつにこの食糧を渡して出て行ってもらえ。尾張追放の刑だ。次に尾張で見かけたら、殺してかまわねえ」


俺はコンビニのレジ袋に入ったちょっぴりの食糧を熱田の親分に渡す事にした。


「ふふ、わかりました。こっちにこい!!」


榎本は俺の差し出したレジ袋を取ると、熱田の襟首を持つとズルズル引きずって、門へ向った。


「あずき、食事の準備をしてくれ、東一家の皆さんに食べてもらおう」


「はい、とうさん」


「東、またして悪かった。立ってくれ。大田家はあんたを歓迎する」


「はっ、ありがたきしゅあわせ」


普段使い慣れない言葉を使った為か、大事なところで噛んだ。


「あの、熱田を行かせてしまって良かったのですか」


東が心配そうな顔をしている。


「うむ」


「そうですか。なら良いのですが。あの男は執念深いです。いつか災いとならなければ良いのですが……」


「ふふふ、熱田も日本人だ、一度は許すよ。気が向いたら二度目も三度目も許すかもしれねえけどな。俺は、ゆるしてえんだ。こんな世界に生き残った残り少ねえ日本人じゃねえか」


「そうですか、わかりました。ですが殿や、殿の家族、いや大田家に手を出した時は、俺が奴を許しません」


東は、俺に忠義を尽くす決心をしてくれたようだ。

恐らく今までは、熱田一家の長に対して、それなりの畏怖があった。だが、今日の様子を見て、熱田に対しての考え方が変わったのだろう。


「ああ、よろしく頼む」


「はっ!!」


「あずきーー!!」


「何? とうさん。私は食事の準備で忙しいんだから。あんまり呼ばないでください」


でも、表情は嬉しそうなのがいい。

今はメイド服になって、あずきとして顔は髪で鼻まで隠しているが、口角が上がっているからすぐに分かる。


「あのな、熱田一家の子分のけがを治してやりたいんだ」


「そんなこと自分でやって下さい」


そう言い捨てると、さっさと行ってしまった。

いや、出来るのか?

やった事無いのですけど。


――まあ、ものは試しだ! こいつから人体実験してしまおう。


俺は一番近くにいる、熱田一家のボロボロになっている子分に手の平を向けた。

恐らく言葉だけじゃ駄目だ。

ゴーレムを作る時のように、どうしたい、こうしたいを頭の中で考えて魔力を注入する感じだ。


「すごいですなー。殿はその様な事まで出来るのですか」


けがが、見る見る治っていく様子を見て、東が感心している。


「いや、たまたま出来たって感じだ。何しろ初めての経験だしな。手足がウニュウニュってなって、タコみたいになったらどうしようかと思っていたよ」


「ひっ」


その言葉を聞いて、けがの治った子分が小さく悲鳴を上げた。


「はあーはっはっ」


東が笑っている。


「なあ、あんた、選択肢をやる。一つ目は、今すぐここの門を出て、熱田の親分を追いかける。今すぐ追いかければ追いつけるだろう。二つ目は、ここで飯だけ食ってどこかへ行く、その時はそこのスポーツバッグの食糧をやるから、自由に暮らしてくれ。まあ、かたぎになってくれと言う事だ。三つ目は大田家の家臣になるだ。その時は礼節を重んじ、自分が恥ずかしくない行動をしてもらう。二つ目か三つ目なら、食事が用意してある。遠慮無くやってくれ」


「みんなー、聞いたかー! 今からけがを治してやるー、選択して行動しろーー!!」


東がいいサポートをしてくれる。

俺が、次々治療すると、治ったものが行動を起こした。

三人ほどの幹部だろうか、ごっつい恐い顔をした男が三人すぐに門を出ようとした。

そいつらを引き留め、スポーツバッグの食糧をせんべつに渡してやった。


他のものは、食事を始めた。

食後にスポーツバッグの食糧を持っていく者はやはり何人かいた。

平和に暮らしたいと思っているのだろう。

驚いたのは、東一家の子分にもいたことだ。

東の子分は、東にあいさつをすると、出て行った。


恐らく、その者達は、俺に対して信用していないと言うのがあるのだろう。ちらちら俺の顔を見ていた。

いつかこいつらが、もう一度家臣にして下さいというような男に、ならなくては……


いやいや、いやいやいや、いつからだ、いつからこうなった。

俺は、俺は、オタクだーー。

簡単な仕事を適当にして、一日が終れば良いと思っている。

底辺おじさんだぞーー。殿ってなんだよーー。家臣ってーー……


やれやれだぜ。

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