「とのーー!! うおっ!」
くそーーっ! 何てタイミングだーー!!
俺は今、名古屋城天守閣最上階を自分のプライベートルームにしている。
窓にコインを入れると、遠くが見える双眼鏡が設置されている。
中央に土産物屋の残骸があったので、蜂蜜さんに吸収してもらった。後に残ったのはガランとした空間だ。
部屋は、下から見るより広く感じない。その中央で俺は、俺史上最高傑作のフィギュア、シュラに新しい白い下着をはかせてじっと見つめていたのだ。
シュラとはオリハルコンで作った八頭身スレンダーで、美しい理想の女性型実物大フィギュアで、ゴーレム化して命を吹き込んだメイドだ。
シュラはメイド服のロングのスカートを胸まで上げて、パンツを丸出しにしていた。
シュラは加藤の視線を感じて、恥ずかしそうにスカートを下ろした。
「ば、ばか、おめー! ノックをしねーか!!」
「ノ、ノックと言われましても、ドアがありません」
そうだった。ここは展望室だから、階段を上がるとそのまま部屋の中だ。ドアなどない。
「こんな所で、シュラちゃんのパンツを見つめている人が悪いです」
後ろから、あずさの声がした。
「うわあ!! あずき、いつからいたんだー?」
「そうですねー。やっぱり、パンツは白が美しいの所からです」
「最初からじゃねえかー」
「うふふ」
あずさが悪戯っぽく、とても嬉しそうに笑った。
滅茶苦茶可愛いはずなのだが、今は髪で顔を半分隠しているので、その可愛い顔は見ることが出来なかった。
「で、加藤何の用だ」
「はっ、関東木田家の使者を名乗る者が訪問してきました」
「ふむ、どんな奴だ」
「はっ、鋭い吊り上がった目にメガネをかけて、インテリ風を装っていますが、あれはやばいです。何人も残忍に人殺しをした、殺人鬼のような男です。何人もワルを見てきましたが、ありゃあ格が違います」
柳川だ。
柳川しかいねえ。
「使者ならば、殺人鬼だろうと丁重にお迎えしろ!! 丁重とはそういう意味じゃねえからな」
「分かっていますとも」
殺人鬼がつぼだったのか、あずさが声を出さないように我慢して笑っている。あずさも柳川と気が付いているようだ。
肩がガタガタ震えている。
やはり柳川だった。
榎本、加藤、東、そして胴丸具足にアダマンタイトの剣を装備した護衛が四人で、柳川を囲み天守へ入ってきた。
「ほう、良い眺めですな。あっ、失礼しました。私は関東木田家の柳川と申します」
柳川は、すました表情で名乗ると深々と頭を下げた。
しばらく頭をさげたまま止まると、ゆっくり頭を上げ、もう一度景色を楽しんでいる。
「俺が、尾張大田家の大田だ! なんの御用でしょうか」
俺は話しを合せるようにと、柳川に目配せをした。
柳川は分かっていますよと、誰にも分からない程度に頭を少しだけ動かした。
「まあ、単刀直入に申し上げます。木田家の傘下にお入り下さい」
「な、なにーーーっ!!!」
加藤達の顔色が変わった。
後ろの護衛の男達が、剣に手をかけた。
部屋が一瞬で緊迫感に包まれた。
「控えろ!! 護衛はもういい階下へ下がれ!!!」
俺は素早く強く言った。
具足を装備した護衛が、加藤の顔を見た。
加藤はゆっくりと、うなずいた。
それを見て、護衛は階段を降りていく。
「柳川殿、少し木田家について教えてもらえませんか」
「分かりました……」
柳川は、しばらく木田家について語った。
驚いたのは、加藤達でさえゲン一家の事を知っていたことだ。
そして、柳川がゲン一家の柳川と分かると、加藤達の態度が急変した。
俺の方が柳川の事を知っているつもりだったのに、こいつらの方が柳川の事をよく知っているようだった。
「あのゲン一家を配下にしておられるのか。木田の大殿とは恐ろしいお方のようですなあ」
加藤達が、木田家の事を認めたようだ。
「誠に、すごいお方でございます。まあ、至高の殿様とはあの方を置いて他にはございません」
「や、柳川殿がその様に言われるなら、素晴らしいお方なのでしょう。ですが、我らが殿も、至高のお方です。我らが命をかけるに値するお方です。たとえ木田家と言えども、殿なら戦えば勝ちを収めることでしょう」
「ふふふ、大田様は良い家臣を持たれているようだ。羨ましい」
「加藤、榎本、東。俺は木田家の傘下に入ることに疑問を持たねえ。もともと俺は駿河の商人だ。駿河はすでに木田家の傘下に入っている。皆よろしくやっている。むしろ暮らしやすくなっているくらいだ。おめえ達は反対なのか」
「はい、俺達は、殿こそ天下を取るにふさわしいお方と思っています。木田家こそ殿の傘下に入るべきだと思います」
「ははは、買いかぶりすぎだ。加藤、さっき見ただろう。俺はオタクで変態の豚野郎だ。小心者で底辺根性の抜けない男だぜ」
「……」
加藤達は、熱のこもった視線を俺に向けて、無言で首を振った。
俺は頭を掻いた。
「柳川殿、俺は木田家の傘下に入ることを拒まねえ。それが尾張の為ならな、だが、尾張に住む人が少しでも悲しむようなことがあるのなら、木田家といえども断固戦う、それでも良いのだろうか」
俺は、柳川の顔では無く、加藤達の顔を見て答えた。
「……」
加藤達は無言で俺の顔を見つめる。
「ふふふ、決りですね」
柳川が、笑いながら……。顔は少しも笑顔を作らず、加藤達に視線を向けた。
これ以上、お前達程度がガタガタ言ううんじゃねえ。
そんな迫力があった。
加藤達はその迫力に気圧された。
俺はそれを見てすかさず言った。
「柳川殿、よろしくお願いします」
「よかった。これで使者の役目を無事、はたすことが出来ました。それでは太田殿、木田家が持つ極秘の情報をお話しします。情報の共有ということです……」
柳川が今度は本当の敵意の無い笑顔を俺に向けた。
「うむ、皆、少し席を外してくれ、柳川殿が何やら二人で話したいことがあるらしい」
俺は、加藤達に階下に行くように視線を送った。
三人は心配そうにしていたが、俺が心配はいらないと表情を作ると、ゆっくり階段を降りていった。