「いでーーっ、くっそーー!!」
熊男は左腕を痛がりながら、フラフラ歩く。
「うるせーな! 歯も全部折っちまうか」
ゲンが少し切れている……。のかどうかは分からない。
「ひっ!」
熊男が小さく悲鳴を上げた。
そして静かになった。
屋台村から、そうとう歩いたがまだ着かない。
「いったい、どこまで歩くんだ。てめー。両足折っちまうぞ」
ゲンが切れている……。のかどうか分からない。
表情が読めない。
だから、余計に怖い。
「ひいっ!!」
「ゲン、両足を折ったら。アジトへいけなくなっちまう」
「ははは、冗談に決まっているだろ兄弟。暇だから冗談を言ったんだ」
冗談だったらしい。
機嫌はそんなに悪くなさそうだ。
「おい、デブ、こいつを何とかしろ。怖すぎるだろう」
こいつは、失神していたせいで、俺の活躍を見ていない。
俺をただのデブだと思っているらしい。
俺には高圧的だ。
「おい、熊、てめー、兄弟をなめたら、舌を切り落とすぞ」
ゲンが、熊男の頬を右手でつまみあげ口を開け、力一杯舌を引っ張った。
「ガーー、ぬげる、ぬげるーーっ」
どうやら舌が抜けそうになっているらしい。
熊男の目から涙が流れた。
ミリッ
あっ、熊男の舌の奥から聞こえてはいけない音が聞こえた。
しかしゲンの怪力には驚いてしまう。
「おい、ゲン、やり過ぎだ」
「おっと、わりー、わりー。なめた口をききゃあがるからよ」
「……」
熊男はもう何もいわなくなった。
少し体が震えている。
ゲンが本当に怖いようだ。
その代わり、俺に血走った目で鋭い視線を向けてくる。
まるで「てめーは後でぶっ殺す」と、言っているようだ。
黙々と真っ暗な道を歩いていると、白く明るい場所が見えてきた。
師純興業と看板が出ている。
二階建ての平たい面積の大きい会社だ。
屋根に蓄電式太陽光発電が付いているようで、電気が使える様だ。
「しじゅんこうぎょう?」
「ばかめ! もろずみこうぎょうと言うんだよ。ぎゃーーっ! いでーーっ!」
ゲンがまた、舌を引っ張った。
ゲンが手を離すと、熊男は走り出し建物に駆け込んだ。
と、同時に人相の悪い男達が出て来た。
手には武器を持っている。
チェーンや、鉄パイプ、サバイバルナイフなどだ。
会社は、もともと運送会社だったのか、駐車場が広い。
ゾロゾロ、出て来たが二十人ほどだ。
さっきの屋台村が、三十人ほどいたので、こっちの方が人数は少ない。それだけ精鋭ぞろいということだろうか。
建物の中を見ていると、熊男は二階に登って行く。
ボスは二階にいるようだ。
「ゲン、ボスは二階のようだ!」
「兄弟! ちゃっ、ちゃっと、済まそうぜ!」
「ああ、どんなこえーボスが出てくるか、楽しみだ」
「うおーーーっ!!!」
師純の社員が襲いかかってきた。
ゴッ、ゴッ、ゴッ、ゴッ
ゲンが、社員の頬を殴った。あっという間に四人が吹き飛び、後ろにいた男達を巻き込んで倒れた。
ゲンの動きが速すぎて、相手の武器はまるで役に立たなかった。
俺もその隙に数人倒した。
まともに立っている奴は、五人になっている。
「な、何なんだ、こいつらは? おい、近くに衛兵がいただろう呼んでこい!!」
その言葉を聞くと、四人が敷地から大急ぎで出て行った。
衛兵っていったら、城の兵隊か?
なら、伊達家の兵士という事になる。
伊達家は、こいつらとつるんでいるということか。
ふむ、面白いことになりそうだ。
残った一人は、建物に向った。
ボスに報告するのだろうか。
「兄弟、俺達も行こうか!」
「ああ」
ゲンと俺は、慌てる必要も無いので、ゆっくり歩いて建物に入った。
ガラスのドアを開けて、すぐの階段を上ると、熊と、さっきの社員が社長室と書いたドアの横で立っている。
黒の背広を着たグラサン男がドアの前にいて、二人を中に入らないようににらみ付けている。
どうやらこのグラサン男の方が、格が上なのだろう。
「なっ!? お前達、もう、あいつらを倒したのか」
熊男が、驚いている。
俺が、社長室のドアのノブに手をかけたら、その手をグラサン男がつかんだ。
ゴッ!!
グラサン男がゲンに殴られて吹き飛び階段から落ちて、動かなくなった。
階段から落ちて、気絶したわけではない。
最初の一撃で意識は吹き飛んでいたようだ。
階段を人型のこんにゃくが落ちって行ったから間違いない。
「く、熊田さん、こいつら、な、なんですか!! 強すぎます! な、何なんですかー?」
熊男は、熊田というらしい。
恐い顔をした社員が、おびえながらいった。
「……」
今日は、名乗るチャンスが、結構あるなー。
今回は少しためてみた。
「このお方はなあ、関東から東海まで知らねえ人間はいねえ、正義のヒーロー、アンナメーダーマン様だ!!」
あっ、やられた。
ゲンに取られた。
「ア、アンナメーダーマン!?」
俺が言ったら馬鹿にするくせに、ゲンが言ったら、一発で覚えやあがった。
ま、まあいいや。慣れているしな。
速く言わねえ方がわるいんだしな。
俺はドアのノブを回そうとした。
「や、やめろ。そのドアを開けちゃーいけない!!」
熊田が、あせって俺を止めた。
「へへへ、猛獣でも飛び出してくるのか。脅かすんじゃねえよ」
俺は背中に一筋冷たい汗が流れた。