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0139 恐ろしい悲鳴

独眼竜は笑いながら、しかし、注意深く俺の動きを見ている。

どうやら、格闘技を経験しているようだ。

俺はド素人だから、構えなんて分からない。

独眼竜は左手を前に出し、右手で首のあたりを守っている。


俺はゆっくり歩き、相手から二歩ほどの所で、一気に下にしゃがみ、視線を外し、スピードを上げて体を構えの間に入れて、胸当てをつかんだ。


「な、なにっ!!」


独眼竜が俺を見失った様だ。

そのまま、独眼竜の体を真上に上げて、胸当てをつかんだまま地面に投げた。

だが、このまま地面に叩き付けると大けがをする。

地面の手前で、ピタリと止めて、優しくコロンと地面に転がした。


「ふむ、少しハンデが無いと駄目かもなあ。ほらよ!」


どうやら、素手では少し速く動ける分、俺に分があるようだ。

俺は、地ベタに落ちている治安隊の、隊員の棒を独眼竜に蹴って前に転がした。


「くそう! 吠え面をかくなよ! 俺は剣道二段だ。棒を持てば三倍は強くなる」


「な、なにー!! そう言うことは先に言えー! 棒は無しだー!」


ちょっと余裕を持ちすぎた。

剣道有段者に棒を渡すなんて、鬼に金棒を渡すような物だ。


「きえぇぇぇーー!!」


上段に振りかぶると、打ち下ろしてきた。

俺は無しだと言ったのにーー。


あれ、おかしい。すげーゆっくりに見える。

これが、今の俺の動体視力か。

本当に止まって見える。

笑えるほどゆっくりの棒を、両手の平で挟んだ。

真剣白刃取りの要領だ。


「嘘だろうーー!!」


独眼竜が驚いている。

眼帯には、わかりにくいがちゃんと穴が空いていて、両目で俺のヘルメットの中の顔を見ようとしている。

まあスモークで見えないけどね。

俺は棒を握るとまた独眼竜の体を持ち上げて、地面に投げる。だが、地面の手前で、ピタリと止めて、優しくコロンと転がした。


「ふむ、これでもハンデが足りないか」


俺は、袖の内側から出していると、思えるように剣を出した。

それを、独眼竜の足下に投げた。

そして俺は短刀を手にして、それを抜き、鞘を投げ捨てた。


「はあーっはっはっーー!! 貴様の負けだー!」


独眼竜が、勝ちを確信したようだ。

くそう、剣にはさらに自信があるというのか。


「な、なんだと!」


「ふふふ、勝つ者が何ゆえに鞘を捨てたのだ?」


そ、そんな理由かよー。

頭にきたので、短刀も投げ捨てた。


「なめるなーー!!」


独眼竜が不意をついて斜め下から切り上げてきた。

うん、やっぱり止まって見える。

切っ先を人差し指と、中指で挟んで止めた。


「ぎゃあああぁああああーーーーー!!!!」


すげーー悲鳴だ。

どこかを痛めたようだ。

まあ、こんしんの力で切り上げたのだから、それが思わぬ所で止められれば、手を痛めるだろう。悪ければ指を骨折するかもしれない。


「手がーー!! 手がーー!!」


なんか、あのアニメの「目がー! 目がー!」みたいになっている。

転がって痛がっている独眼竜の頭を踏みつけて、今は俺の手にある剣を独眼竜の鼻先の地面に突き刺した。


「まだやりますか?」


丁寧に聞いてやった。


「お、お見それ致しました」


「まあ、良かろう! ついてまいれ!!」


あー、いかん! まるで時代劇だ。

まいれってなんだよ。

独眼竜が鎧なんかつけてくるからだよ。

俺は、独眼竜を引き連れて、二階の社長室に入った。


「うおーーー、ミサ殿ーー!! いつ見てもお美しいーー!!」


部屋に入るなり、ミサかよー。


「まあ」


ミサが体をしならせて、頬を赤くしている。

くそう、普通の男はなんでこうも上手に、女性を褒めるんだ。

俺なんか、女性にくせえし、汚えしか言ったことがねえ。

はーー、ミサに嫌われているとしか思えねえ。

俺は情けない表情でヘルメットを取った。


「うわああーーー!! 大殿ーーではなく大山殿ーー!!」


独眼竜が平伏した。


「な、なんだって!! あの伊達の殿様が平伏をした!!」


熊田が驚いている。


「き、貴様達は何をしている。控えろ、控えろ」


独眼竜がそう言って手の平を下に振った。

熊田とその手下はあわてて平伏した。


「はあぁーはっはっ。どうでい、正男。兄弟の強さわ」


「うおおお、げ、ゲン殿! 無茶苦茶です。陸奥最強をほしいままにしてきたこの俺が、子供扱いです。恐れ入りました」


ゲンの存在に気が付いていなかったようだ。


「お三人が、なぜこのような所に?」


「おい! どこに目を付けている。四人だ!!」


俺がそう言ったら。

シュラが俺の手に抱きついて来た。

シュラが自分の意志で勝手に動くのは初めての事だ。

まるで、本当の娘のように感じる。

意思のある人間にしか感じられない。そして美しくてかわいい。


「はっ、も、申し訳ありません!!」


「はー、兄弟のこういうところだ。兄弟にはかなわねえや」


ゲンが、小声で何か言っている。

だが、シュラがかわいすぎて、耳に入らなかった。


「あのー、何故ここに?」


「うむ、土日の祭りの為だ」


「はっ?」


「正男、わからんのか。このまま祭りをすれば、スリや泥棒、強盗、果ては誘拐まで起るだろう。ちいと治安が悪すぎる。伊達家の殿様は治安の為に働く兄弟に喧嘩を売る始末だ」


「う、も、申し訳ありません!」


伊達の殿様が、ひざまずいたまま、また頭を下げた。


「ひとまず、立ってくれ。そこの椅子に座ってくれ」


俺は、ひざまずく殿様をソファーに座るように薦めた。


「兄弟、熊公の腕を治してやってくれ」


「ああ、そうか」


そう言えば、熊田の腕がゲンに外されたままだ。

俺は熊田の橫へ行き、外れている腕をグイッと持ち上げた。


「ぎゃあああああああああああああああーーーーーーー!!」


聞いた事も無いような悲鳴が上がった。


「兄弟、腕の関節を治療したことがあるのか」


「いや! 無い!」


「はははは」


ゲンが表情を変えないまま笑った。


「いでぇーーー!! いでぇーーーー!!」


熊田が苦しんでいる。


「兄弟、魔法で治さねえと」


あっ、そうか、そういうことか。

ド素人が、外れている腕を動かしても、痛いだけのようだ。

ゲンの言う通り、腕が治るように念を込めて魔力を放出した。

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