美術館の玄関を見ると、ポンの横にスラリとした超美形の男が立っている。
漫画やアニメのように、なんだかキラキラ星が見える。
着ている服は、いにしえの武神謙信公のまねをしているのか、何かの宗教のような白装束を着ている。
上杉は、地図の周りにいる俺達を、一通り見ると真田の前に進んだ。
そして、一礼をして言った
「私は、越後の上杉と申します。木田さ……」
「待ってくれ、私は木田の大殿では無い」
「はっ、も、申し訳ありません」
上杉は、もう一度周囲を見渡した。
だが、俺の方には尻を向けている。
この男、俺を木田家の大殿候補からいちはやく、取り除いたようだ。
良いもんね、豚顔でデブだから、大殿っぽくないもんね。
しゃーない、しゃーない。くそっ!
次に大殿候補にされたのは、今川だった。
って、おい!
良い顔の順に選んでいねーかー! この男。
なんだか、この男の顔は、俺の中の森蘭丸のように感じる。
男らしさが欠片も無く、美女のような雰囲気がある。
まあ、森蘭丸を見た事ねえけど、そんなイメージだ。
「まってください。私も、大殿ではありません。恐れ多いことです」
今川があいさつをされる前に、いちはやく違うことを告げた。
上杉は、困った顔になった。
だろうね、後は恐ろしい凶悪な顔をした奴ばかりだから。
その男達が、さっと俺の顔を見た。
それは、俺が木田家の当主と言っているようだった。
上杉は、えっ! と、いう驚いた顔をした。
ふふふ、あなたが一番最初に、この男だけは無いと思った男こそ木田さんですよ。
「し、失礼しました。わた、私が越後の上杉です」
俺の横でひざまずいた。
「越後の御館様が単身で、敵の真っただ中に来るとは恐ろしい胆力ですね」
「はっ、すでに上杉家は四面楚歌、このままでは滅亡を待つばかりです。木田家の温情にすがるしか、市民の命を守るすべがありません。市民が救われるのであれば、殺される覚悟も出来ております」
どうやら、ポンから俺の事は知らされているようだ。
満点の返事だ。
「四面楚歌とは?」
「はっ、北には海、そして東に木田家松本軍、南に真田家真田軍、西に織田家柴田軍が攻めてきています。柴田軍は、越中で、我軍の兵と市民を皆殺しにしました。その勢いのまま越後に進軍しています。真田軍は、松本で六百の兵士を瞬殺したと聞いています。海津城では赤い死神と恐れています。それに対し、木田の大殿は慈悲深く、日本人すべてを救いたいと考えるお方と伺いました」
「ふむ、織田軍とは?」
「はっ、越前の織田神社で旗揚げをし、東に柴田軍、南に羽柴軍、西に明智軍と勢力を拡大している軍団です。当主は織田吉法師を名乗り逆らう者は皆殺しにしながら、恐怖で支配する事により勢力を拡大しています」
「織田神社だと、あの織田一族発祥の地か。そこで旗揚げをするとは、織田家ゆかりのものかもしれんなあ。そうか、越前で織田家が旗揚げをしたのか」
織田神社とは、越前二の宮剣神社のことだ。
しかも、恐怖をもって支配をしている。
俺と真逆の方法だ。
こりゃあ、仲良くは出来なさそうだ。
越中方面に柴田軍
近江方面に羽柴軍
若狭、丹後方面に明智軍かよう。
本名は別にありそうだが。
どんな男達なのだろうか。
「真田!」
「はっ!!」
「えっ!?」
「ああ、上杉殿すみません。真田は、木田家中の信濃方面軍です。そして、この者が真田家当主です」
「なっ、何と!! 恐怖の真田軍は木田家の軍だったのですか。驚きました」
「真田、六百人も殺したのか?」
「はっ! 申し訳ありません」
真田は、言い訳をせず頭を下げた。
「お、おそれながら、真田殿は、重装鎧の強さがよく分からず、銃撃を受けた為に反撃をして、そうなったと聞いています。あれは事故だったのです」
戸田が、真田をかばっている。
殺されたのは、自分の所の兵だろうに。
「せめている訳ではありません。普通なら、敵兵六百人を討ち取ったと、自慢するところです。それをしなかったということで、俺の言いつけは良く理解してくれていると思っています。少し驚いて確認したかっただけです」
「はっ、も、申し訳ありません」
戸田が頭を床につけて謝っている。
どうやら戸田さんは、いい人のようだ。
「ポン!」
「はっ!!」
「柴田軍を迎え撃つ準備は出来ていますか」
「越中と越後の境界に、機動偵察陸鎧千五百で布陣を完了しています」
「どこですか」
「ここです」
ポンは地図上で場所を示してくれた。
そこは、北陸自動車道のパーキングエリアだった。
「決戦の場所は、朝日町でしょうか」
「そうですね」
「上杉殿、このあたりの稲刈りは終っていますか?」
「いえ、収穫はあきらめています」
「では、俺が収穫してもよろしいですね」
「は、はぁ」
ふふふ、まあキョトンとしますよね。
「柴田軍は今どこにいますか」
「高岡です」
「ならば、まだ時間的に余裕がありますね。上杉殿、仙台はお祭りです。今日はゆっくり楽しんでください。俺が案内します」
「とうさん、私達はもう時間なので、これを食べたら行きますね」
あずさ達は、朝からマグロ丼を食べていた。
俺達が話し込んでいる間に、朝食を済ましたようだ。
「ああ、みんな頑張ってな」
「はい!!!!!」
アイドル達が全員で元気に返事をしてくれた。
「俺達も、朝飯を食べましょうか」
俺がそう言うと、マグロ丼が運ばれてきた。
川中島の戦いかと思っていたが、どうやら越中朝日での戦いになりそうだ。