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0160 木田家敗北

「あづち、これをやる」


俺はアダマンタイト製のゴーレム黒猫を出した。


「これは……?」


「服だ。オイサスト! シュヴァイン! と、言ってみてくれ」


「は、はい。オイサスト! シュヴァイン!」


あづちの体に、黒い糸が大量に巻き付き、黒い服を形成する。

あづちは、黄色の模様が入ったメイド服になった。


「ザワザワ」


この光景を見た柴田軍から驚きのざわめきが起った。

さっきまでは、驚きすぎて声が出なかったのだが、ここへきてやっと声が出るようになったようだ。


「後はこれだ」


俺は、あずさの小さい頃に使わなかった新品の服の中から、一枚のパンツを出して渡した。

あづちが手を離した為、パンツが地面に落ちているからだ。

自分の足下を見て、あづちが真っ赤になっている。


俺はあづちの事を済ますと戦場を見渡した。


「……こほん。この戦い、柴田軍の勝利とする!!」


「えーーっ!!!!」


柴田軍の方から声が出た。

どうやら自分たちが負けたと思っていたらしい。


「一騎打ちに、俺が乱入したから、木田軍の反則負けだーー!!」


「ざわざわ……」


柴田軍からまた、ざわめきが起っている。


「兄弟は腹黒れー」


ゲンがつぶやいた。

どうやら、俺の考えを読んだようだ。


「ふふふ、ポン! 前田を離してやってくれ!」


「!?」


ポンの天夕改に捕まっていた前田が驚いている。

ポンは俺の指示通り前田を解放した。

開放された前田は柴田の方へ歩き出す。


「まえだーー!! 聞いてくれー。木田軍は越中の国境まで兵を引き、六ヶ月……六ヶ月ではわかりにくいな、今日より百八十日間攻め込まないことを約束しよう。これは、日本人の誇りにかけて約束する。柴田は日本人を悪人と決めつけているようだが、日本人はもともと義に厚く約束を守る民族だ」


前田はペコリと頭を下げた。

柴田よりも話しは通じそうだ。


「ああ、もう一つ。日本人は我慢強く、一見軟弱に見えるが、ひとたび牙をむけば、狼の様に勇猛果敢になる民族性も秘めている。次に戦う時は、一騎打ちは無い。そのまま攻めさせてもらう。覚悟をしておけと伝えてくれ」


前田は、ニヤリと笑って今度は頭を下げなかった。


「木田軍、撤退だーーー!!!」


ゲンが大きな声で言ってくれた。


「真田隊は、笹津の砦まで撤退、木田軍は朝日の本陣まで撤退だ。すぐに評定を始める、朝日の本陣に幹部は集ってくれーー!!」


しょうがねえから俺も、大声を出した。




朝日の本陣に、木田家の家老と呼べる者達が集っている。

木田家大老、ゲン。

木田家家老、ポン、藤吉、伊達、真田、加藤

そして、ミサとあづちとシュラが参加している。


「まずは、何から聞きたい?」


俺は、ニヤニヤしながら上機嫌で聞いて見た。

皆がどの位理解しているか聞きたかったのだ。


「あの、撤退が朝日と笹津では、県境では無いと思いますが」


真田が聞いて来た。


「ふむ、さすがだ。県境まで下がると、次に攻める時に山の横を細い一本道で進軍しないといけない、機関銃でも設置されたら狙い放題だ。それを避けた。あえて富山県と新潟県の県境と言わず越中の国境と言っておいた。あやふやな場所だから、これでも文句は出ないだろう」


「き、汚いですね」


「他には、あるか」


「あの一騎打ちは、柴田の反則負けではありませんか?」


今度は藤吉が聞いて来た。


「それはだな、すでに越中を速く取り戻す意味が無いので、負けるが勝ちと判断したのだ」


「負けるが勝ちとは?」


「うむ、越中の住民は殺されて住んでいない。農作物は俺がすべて収穫した。もう何も無い。そんな場所を支配してくれるというのだ。越前から人を入れてくれるつもりなのだろう。その後から、攻めた方が大勢の日本人を保護できるはずだ」


「なるほど」


「それだけじゃねえ、ここからが肝心な所だ。今から百八十日の停戦になれば、ここに兵士は不要となる。すると恐らく、このあたりの兵士は近江の羽柴軍の援軍になる。そうなれば羽柴軍は、京都への進軍が速くなる。そして京都にいるハルラ軍と羽柴軍の戦闘が始まるだろう」


「なるほど、織田とハルラを戦わせるつもりなのですね」


「うむ、停戦している冬の間に木田軍は、北海道の様子を探り春に備える。友好的なら良いが、日本人が苦しんでいるようなら、春から北海道に兵を進めないといけないかもしれない。織田とハルラがやり合ってくれれば、木田家も北海道に集中出来るという訳だ。北海道が終れば越中に集中出来る。ハルラとやり合いながら、木田ともたたかう事になり織田は辛い戦いをする事になるだろう」


「すげーー、それが負けて勝つと言うことですか」


伊達が、目をキラキラさせて驚いている。


「ふむ、本当にそうですな。あの一騎打ちの不意打ちの間にそれだけのことを、お考えだったのですね」


真田まで伊達に同調している。


「まあ、そう言うことなので、真田もポンも、国境は守るだけ、決して攻め込まないようにな」


「はっ!!」


「じゃあ、ゲンと伊達と上杉は北海道について、共同で対応してくれ」


「はっ!」


「そして、尾張の加藤」


「はっ!!」


「尾張勢は、美濃の防衛、そして伊勢攻略だ。俺は大阪に潜入する」


「えっ!?」


全員が驚いた。


「ふふふ、ハルラの元で、住民がどんな暮らしをしているのか知りたいんだ」


ミサの目が輝いた。


「ミサ、残念だが大阪は危険すぎる。俺一人で行く」


「……」


全員が黙り込んだ。


「以上だ。この事は木田家中で共有してくれ」


「はっ!!」


俺の大阪行きは、反対しても無駄と判断してか、もう誰も何も言わなかった。

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