「あづち、あれが名古屋城だ」
あづちは、名古屋が初めてという事らしい。
目をキラキラさせて外の景色を見ている。
UFOには他にミサとシュラが乗っている。
帰りはミサのテレポートでは無くUFOにして信濃の様子を視察して、名古屋に入った。
こうして見ていると、本当に可愛らしい幼女だ。
この頃のあずさは、骨と皮だけのみすぼらしい幼女だったが、あづちは少し吊り目でまるで子猫のようだ。
子猫がかわいく感じ無い人はいないだろう。しかも、子猫の中でもとびっきりかわいい子猫だ。
今のこの姿を、SNSに上げるだけでバズるの間違いなしだ。
ただ、残念なのは表情が無い事だけだ。取り戻してやりたい。
まあ、幼女のうちは精一杯甘やかしてやろう。
俺に出来るのはその位だ。
「お帰りなさい!!!」
名古屋城につくとあずさとヒマリ、古賀さんが迎えてくれた。
「うわあああーーーーーー!!!!!」
「なんだ、何をする。離せーー!!」
あずさが、あづちに恐ろしい勢いで飛びつき抱きしめている。
だが、おかしい。
あづちがあずさを振りほどけないのだ。
手加減をしているのだろうか。
「とうさん、この子どうしたのですか」
そうか、あずさはあづちを見た事があるはずだが、幼くなってからは初めてだから分からないのか。
「はなせーー!!」
あづちがようやく振りほどいた。
だが、これも、あずさが力を弱めたから、ようやく振りほどけたように見える。
「んっ、はなせ? 離して下さいでしょ。いけない子ね」
「うるさいなー、おまえ。お前こそ私を何だと思っているのだ」
「ふふふ、あなたはアドでしょ。私のかわいい子猫ちゃん」
「はぁーーっ、頭がおかしいのか」
あずさの顔が険しくなった。
眉毛が吊り上がっている。
前世で飼っていた猫にでも似ているのだろうか。
あずさの様子がおかしい。
だが、いけない、あづちは強すぎる。
「あずさ、やめるんだ。あづちは強すぎる」
「いいえ、やめません。この子には、どちらが主人か教育する必要があります。あづちと言うのですか。あづちちゃん、勝負です。私が勝ったら、あなたの名前は今日からアドです。そして語尾にはニャをつけてもらいます。あと猫耳と尻尾も」
「いいでしょう。私が勝ったら私がお姉さんです。いいですか」
二人がにらみあった。
嫌な予感がしたので、少し広いところに移動した。
「あ、あづち……」
俺は、手加減するように小さな声で名前を呼び、あづちの顔を見た。
あづちはほんの少しだけ、うなずいた。
「ふふふ、相当じしんがあるようね。私の方がお姉さんだからいつでもいいわ。かかってきて」
あずさが妙に余裕だ。
相手が幼女だからって油断しすぎだ。
軽く俺を叩くだけで遠くまで吹き飛ばし、胃袋が口から出てしまうほどなんだぞ。
「いくぞーーっ!!」
あづちが、素早く動いた。
そして、軽くパンチを出した。
「うふふ、もう少し本気を出して下さい」
あずさは余裕でよける。
嘘だろ! あれを見切るのか。
「なっ!?」
あづちが驚きの声を出した。
だが、表情は変わらない。こういう時は便利だ。
あづちは次々攻撃をする。
その攻撃は、次第に強く速くなっていく。
だが、あずさは可愛らしい笑顔になり、こともなげにすべて避ける。
そこには、あづちの攻撃に対する恐怖心がまるで感じられなかった。
逆に俺が最大の恐怖を感じている。
それは、あずさにではない。
ハルラに対して恐怖を感じているのだ。
背中に冷たい汗が流れる。
ハルラと言う奴は、あずさの前世の世界の勇者だ。
きっと、王国の兵を引き連れ、魔王城を攻め、魔王軍を壊滅させたのだろう。
あずさはその魔王城の、メイドだったのだ。
その、メイドがあの強さだ。
そのあずさを、雑魚扱いして軽く殺し。
魔王六大魔将軍とかも倒し、最後にあのあずさの百倍位強いであろう魔王を殺してのけたのだ。
俺はそんな奴に喧嘩を売ったのだ。
どう考えても俺に勝ち目は無い。
俺は、ただのオタクだ。
しかも、あずさの話では、ハルラは魔王より残忍で無慈悲だったと聞いている。
――大阪いきたくねーーー。
あずさとあづちの戦いを見て、そんなことを考えている
「すごいなー、おまえ。いいだろう、私の本気の攻撃を見せてやる」
あづちがとうとう本気になってしまった。
「……」
あずさは手のひらを上にして、クイクイと曲げた。
うわあー、あおるのやめてもらえる。あずさちゃん。
俺はもう見ていられないよー。
あづちは、少しかがむと両足で大地を蹴った。
少し地面がえぐれている。
最早普通の人には、あづちの姿は消えてしまったように見えるだろう。
あずさはその攻撃を雑作なく避けると、あづちの両足をつかんだ。
そして、そのまま地面にビッタンビッタン叩き付けた。
「あーーっ」
俺は思わず声が出てしまった。
あずさの顔から表情が消え、昔の顔になっている。
三度ほど地面に容赦無く叩き付けるとあづちは、のびてしまったのか全身から力が抜けた。
あずさは、グニャグニャのあづちをポイと投げ捨てると、あづちに声をかけた。その姿は威風堂々としてかっこよかった。
「アド、ひざまずきなさい!!」
あづち、あらためアドはのそりと体を動かし、あずさの前にひざまずき額を地面に付けた。
「はい……」
アドは弱々しく返事をした。
「はいじゃありません。はいニャです」
「うっ、は、はいニャ」
あずさは笑顔になるとアドに近づき、アドを抱きしめ頭をなでた。
「猫耳と尻尾」
そして、アドの服のゴーレムに猫耳と尻尾を命令した。
もともと、ゴーレムを動かす魔力はあずさ由来のものだ。
ゴーレムが逆らえようはずも無い。
かわいい猫耳幼女が誕生した。
しかし、あずさの奴どんだけつえーんだよー。知らなかった。