「二番隊が、攻撃を防いでいるうちに撤退する。被害を最小限にするぞ! 速やかに撤退せよーー!!」
さすがは、犬飼隊長だ。判断が速い。
「なっ!!」
だが二番隊は驚いた。全員目玉をひんむいて、鼻水まで出ている。
十一番隊が撤退したら、二番隊は柴田軍の前に置き去りになる。
「うわあああーーー、撤退だーー!!」
二番隊から悲鳴のような声があがった。
二番隊のボロ装備の者から真っ先に逃げ出す。
「さて、カクさん、響さん、カノンさん、俺達も行きましょう。まずはスケさんと合流です。ここが崩れれば、スケさんの所にも敵が攻撃を仕掛けてきます」
「はい」
人の流れは後方、西の京都方面だが、俺達は川沿いを南に向った。
もともと、俺達は最後尾にいるので、人の波に巻き込まれること無く、スケさんのいる京滋バイパスを目指すことが出来た。
川の対岸を見ると、移動する一群がいる。連絡隊だろう。
奴らより先に行かないと、スケさんが危ない。
「よーーい、あんちゃーん! 待ってくれーー!!」
そんなことを考えていると、後ろから声がした。
爺さんが、俺達の後を追ってきたのだ。
それだけじゃ無い、班の全員が追ってきている。
「おい皆、こっちじゃない。京都を目指すんだー!!」
「いや、あんちゃんと一緒がいい」
まずいなー。全員を引き連れて移動すると、時間がかかりすぎる。
「カクさん、対岸を見てください。奴らより速くスケさんの所へ急いでください。もう、俺達の力を隠す必要はありません。全力を出してください」
「はっ!!」
カクさんの姿は消えた。
「おおっ!」
それを見た、爺さん達から驚きの声が漏れた。
「あ、あんちゃん。あんたらは一体何者なんじゃ」
「ふふふ、ただの新政府群の足軽ですよ。さあ急ぎます。全力を出してください」
「わかった」
爺さんのいつものやる気の無さは影を潜め、真剣な顔になった。
真剣になって走ったところで、とてつもなく遅い。
「響さん、カノンさん、二人は先導してください。俺は最後尾で敵を防ぎます」
「はい」
後ろからの追っ手を心配したが、二番隊の壁が、敵を引きつけていてくれるので、追われることはなかった。
だが、二番隊は全滅だろう。
柴田のことだ、皆殺しにするかもしれない。
ここまで見てきたが、ハルラの新政府軍も、蓋を開けて見れば普通の日本人だ。
「ちっ、しょうがねえ」
俺は黒いジャージと黒いヘルメットを装着した。
「ひゃーーはっはっはっ、殺せーー!! 敵の日本人は皆殺しダーー!!」
橋の上では柴田が絶好調で笑っている。
俺は、二番隊と柴田の槍隊の間に入り、槍隊の槍をつかみ引き抜いて、二番隊に渡した。
「俺は、この隊の副隊長だ。あんたは一体何者だ」
「ふふふ、俺か。俺は、お尋ね者アンナメーダーマンだ。だが俺は、日本人を助ける正義のヒーローだ。助勢するここは俺に任せて逃げな!」
「日本人を助ける? あんたは新政府軍の敵ではないのか」
「俺は、ハルラの敵だ。奴は日本人を殺しすぎる。ついでに柴田も敵だ、あいつも日本人を殺し過ぎる」
「日本人を守る正義のヒーローか。面白いな。本当に任せても大丈夫か?」
「ああ!! ちょっと待ってな!!」
「ぐわあーーはっはっ!! ころせーーー!!」
「おい、柴田ーー! てめーは、少しうるせーんだよ」
「な、なんだてめーは!?」
柴田の前には槍隊がいない。
すんなり前に出る事が出来た。
「俺かー。俺は、正義のヒーローアンナメーダーマンだ。日本人を殺す奴は全部俺の敵だ。かかって来い」
「ひゃあーーはっはっ、正義のヒーローだとー! 馬鹿が死ねーーー!!」
柴田が、俺の頭に自慢のなぎなたを振り下ろした。
もちろん固い柄の部分で。俺の頭を叩き潰そうというのだろう。
「なっ!?」
この状況を見ていた者達全員に衝撃が走った。
「はあーはっはっ。俺のヘルメットは、安物だ。そんなもんで叩かれたら、壊れてしまう。やめてくれ無いかなー」
俺は、なぎなたの柄を片手でつかみ頭上で止めていた。
そして、その柄を軽く引っ張った。
柴田は、しっかりなぎなたを握っていたのだろう、体が俺の方に飛んでくる。
「ぐああっ」
「あんたはもう少し休んでいな!」
俺は、柴田の胸に掌底を合せて、吹飛ばした。
治りかけていた肋骨が、ふたたび折れる音がした。
数メートル吹飛ぶと、柴田が起き上がることはなかった。
その後、がら空きの槍隊の後ろに回り、槍兵を次々吹飛ばした。ちゃんと死なないように手加減をするのは忘れない。
槍隊のやる気がなくなったところで、槍隊の前に戻った。
最早、俺に攻撃しようとする者はいなくなった。
動きを止めた槍隊の前で、俺は腕を組み仁王立ちになり槍隊を牽制する。
「二番たーーい!! 正義のヒーロー、アンナメーダーマンが来てくれたー! 全軍てったーーい!!」
「おおーー」
少し弱い、「おおー」が帰って来た。
動きを止めた柴田軍を見て、二番隊の副隊長が号令し、二番隊は柴田軍に背を向けた。
だが大将を失った柴田軍が、動くことはなかった。
余計な事をしてしまったかな。
でも、柴田は日本人を憎んでいるからな。仕方が無い。下手をすれば皆殺しだ。
柴田め、恨むのならアンナメーダーマンがいた不運を恨むんだな。
振り返ると二番隊の副隊長が、深々と頭を下げている。
俺は右手を上げて、それに答えた。
俺はしばらくその場に止まり、爺さん達を追いかけた。
爺さん達と合流する前に、誰にも見られないよう服装を戻した。
爺さん達は丁度、京滋バイパスに登るところだった。
「貴様らの切り札二番隊は大将を失い全滅だー!! 降伏しろーー!!」
敵の士気は高い。こっちは今の一言で士気が下がっている。
新政府軍は、十二番隊百名ほどの守備隊だけだ。
十二番隊の副隊長が指揮をとっている。
降伏か撤退か迷っているようだ。
「スケさん、カクさん、いけますか?」
やっぱり、スケさん、カクさんがそろっているとしっくり来る。
なんだか、太ももがもぞもぞする。
どうやら、これまで姿を消して、スケさんを護衛していたアドが、透明なままスリスリしている様だ。
本当に猫みたいな奴だなあ。
俺は勘でアドの頭を撫でた。
「そこは、お尻ニャ。えっちニャ」
俺はとっさに手を引っ込めた。
いやいや、お前そんなに背が高くないだろう。
危うく騙されるところだった。いや、もう騙されたのか。
アドの笑い顔が思い浮か……ばない。
……だめだ、アドは表情が変わらないんだった。
「シュウさん!!」
スケさんとカクさんが暴れたくて、待ちきれない様子です。
「スケさん、カクさん、ちゃんと手加減してくださいよ。殺しちゃ駄目ですからね」
「ふふっ」
スケさんとカクさんの目がキラキラしています。
「では、少し暴れて来て下さい」
「はっ!!」
「アドも行って来ますか?」
「ニャー!」
三人が敵軍に向かって行った。