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0198 山の中へ

「うわああーーー!!! なっ、何なんだこいつら、滅茶苦茶つえーーぞ!!」


敵軍が、スケさんとカクさんの強さに驚いて、動けなくなっている。

実はもう一人いる透明のアドには気が付いていないようだ。


「副隊長、スケさんとカクさんが戦っているうちに、撤退するのか降伏するのかを決めて下さい。ただし降伏はお勧めしません。敵に柴田がいます。あいつは日本人を憎んでいますので、降伏しても皆殺しにされる恐れがあります。撤退するのなら、足の速い者はすべての持ち物を捨てて身軽にして、道路を一心不乱に走ることをおすすめします。足の遅い者や、スタミナのないものは、食糧を持って山に逃げる事をおすすめします」


俺がイライラしながら判断を迫っているのに、この十二番隊の副隊長はどうしようかまだ迷っている。

まあ、俺が足軽だから、俺の言う事など聞きたく無いというのが本当のところだろうか。

その時だった、北から勝ちどきの声が聞こえた。


「我が柴田軍の勝ちだーー!! エイ! エイ! オー!!!」


どうやら、アンナメーダーマンの事は無かった事にして、柴田軍の完全勝利にしたようだ。


「我らは織田家、羽柴軍、浅野隊だーー!!! 賊軍めー、尋常に勝負しろー!!」


バイパスの下の川沿いを、千人ほどの一軍が走ってくるのが見える。


「浅野って奴、でかい声だなー。だがおかげで良く聞こえた。羽柴軍か。柴田軍で無ければ一か八か降伏しても良いかもしれません。自分たちの命です勝手に決めて下さい。俺達は十一番隊の犬飼隊長から撤退を言われています。撤退しますので……。響さんカノンさん行きましょう」


「はい」


「スケさーーん、カクさーーん、アドも、もう良いでしょう。もどってくださーい」


三人を呼び戻した。

俺はここで、スケさんとカクさん、響子さんとカノンちゃんそしてアドの六人で山に入り、行方をくらまそうと考えていた。


「ててて、撤退だーー!!」


遅い!! 撤退するなら、スケさんとカクさんが戦っているうちに撤退しろよな!

副隊長がやっと撤退を決めたようだ。

ここら辺が、隊長に出世出来ないところなのだろう。

十二番隊の百人ほどが道路を京都方面へ逃げて行った。

おいおい、俺が言ってやったことをもう忘れてやあがる。

足の遅い奴が遅れているぞ。それに荷物を一杯持っている。

それじゃあ追いつかれるぞ。


「シュウさん、お待たせしました」


スケさんとカクさんがもどってきた。アドも戻っているだろう。

三人が一瞬で戻った為に敵兵はまだ混乱したままだ。


「では、行きますか……って、爺さん、速く逃げねえか」


「あんちゃん,わしはあんちゃんと一緒に行くと決めておるのじゃ」


「げえーーっ!! まじでー!!」


「シュウ様、嫌そうな顔をしすぎです」


俺はそうとう嫌そうな顔をしてしまったのだろう、響子さんにたしなめられた。


「しゃーねーなー! じゃあ行こうか……って、あんた達もついて来るのかよう!!」


「シュウ様!!」


くそう! 金城班の配下達が一緒に来るつもりらしい。

足手まといなので嫌な顔をしたら、響子さんにまた、たしなめられた。

響子さんは、まるで俺のお母さんみたいだ。

良く見たら、スケさん達の部下もいて、三十人ぐらいが残っている。


「スケさん! カクさん! アド! 後ろを頼みます」


この三人に後ろを任せれば、敵もうかつに追いかけてこられないだろう。

後ろを三人に任せ、道路を京都方面に向った。

数キロ走れば山に逃げ込める。

全員に全力疾走してもらっている。


「ひぃー、ひぃー」


爺さんがすぐにグロッキーになった。

やれやれだぜ。


「うぎゃああーーー!!!」


後ろでは、スケさんとカクさんが、追いついてきた敵と交戦中だ。


「ほら! 爺さん」


俺は爺さんの前でしゃがんだ。


「いいのか?」


「速く!」


爺さんをおぶって、走り出した。

爺さん以外は響子さんの先導で、すでに山に入っている。

山に分けいると、すぐにスケさんとカクさんが合流した。

追っ手でこっちに来る者はいない。

浅野隊が、道路をそのまま走って行くのが見える。

俺達には気が付かず、道路を走っていった。


「何とか振り切れたようですね」


「ぎゃーーー!!」


「じ、爺さんどうした。あんまり大きな声を出すな」


「手、手が、手が開かねえ、開かねえんじゃ!!」


「ちっ、今頃かよ。待っていろ開けてやるから」


「いや、響さんにやってもらう」


爺さんは、固く握られて開かなくなった拳を、響子さんの前に出した。

響子さんはどうしようかと、俺の方を見た。


「響さん、頼む」


「は、はい」


俺が頼むと、響子さんは爺さんの手を取り、指を一本ずつ伸ばした。


「うひひ」


爺さんが頬を赤らめている。

まさか、このエロ爺、響子さんを女と感づいているのか。

そうだとしたら、よくわかるよな。俺には、どう見ても男にしか見えない。

まあ、見破った御褒美にそっとしておこう。


「しばらく、じっとして、敵の気配が無くなったら移動しよう」


「……」


皆、黙ってうなずいた。


このあたりは、雑木が生い茂り潜り込んだら、千や二千の兵士では捜しきれないだろう。

ただし、こっちの移動も大変になる。

道路なら二日もあれば京都に着けるのだろうが、道無き道ではどの位かかるかわからない。


「少し様子を見てくる。皆はここでじっとしていてくれ」


「はい」


響子さんが爺さんの手をほぐしながら、返事をしてくれた。

返事を確認し、俺は道路の状態を見ようと移動した。

手入れされていない山は、木が滅茶苦茶に生えていて、移動するのが厄介だ。なるべく音をさせないように道路を目指した。


道路までは、たいして距離が無いので時間はかからなかった。

木の葉の間から、のぞいて見ると、すでに道路は、兵士が等間隔に配置され、監視体制が出来上がっている。

少し先も見てみようと、道路沿いの生い茂る木の中を、見つからないよう細心の注意をはらって進んだ。


「ちっ、だから言ったのに」


「そうニャ。グズグズしていたからこうなるニャ」


「アドも来ていたのか。お前はすごいな、全く気配がわからない。良くこんな木の中を、音も立てずついてこられたものだよ」


「ニャハハ」


アドは、褒められて笑っている。

だが、俺にはお前の表情の変わらない顔が思い浮かぶ。きっと声だけで笑っているのだろう。今はそれでいい、いつかきっとかわいい笑顔を見せてくれ。


道路には、足の遅い者達がすでに捕まっていた。


「浅野隊が、捕虜を無慈悲に殺さないことを祈ろう」


俺が言うと、アドがスリスリしてきた。

居場所がわかったので、俺も頭を撫でてやった。


「な、何をするニャ! そ、そこは、おっぱいニャ」


「また、うそだろ、ぺっちゃんこだぞ! ぎゃあああーーーー!!!」


アドが俺の尻をつねった。

俺はたいてい、誰の攻撃も効かないはずだが、あずさとアドの攻撃は普通に効く。

大声が出てしまった。


「な、なんだ、叫び声が聞こえたぞ」


「こんな所で大声を出す馬鹿はいない。猿か鹿だろ」


「そ、そうだな」


浅野隊の兵士はいい方に勘違いしてくれた。

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