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0200 心を打つ質問

爺さんと別れて、夜の山道を戻っていく。

途中で俺自身の透明化のため、あらたにアンナメーダーマンアクアのスーツを作った。

全体が、青色で、シャチのような黒い模様を付けた。

性能は、スケさん達と変わらない。


「アクアシャ……」


「アクアブラックですね」


俺がアクアシャチと言おうとしたら、響子さんがブラックとかぶせてきた。

アクアブラックか。まあいいか。

俺は姿を消して、山の中の落ち武者隊に近づいた。

落ち武者隊は、夜と言う事もあってグースカ眠っている。まあしょうが無い、疲れているのだろう

翌朝、早朝に起きるのかと思ったら、昼まで眠っている。こいつらの危機感のなさには感心する。


「良し、朝飯にしよう」


ブル伍長がリーダー気取りで全員に言った。

すでに、昼飯だぞ。


「みろー、このカバン。食い物が入っているぞ」


俺が置いていったバックパックの中身を見た男が大声を出した。


「おおすげー! チョコレートに、キャラメルもあるぞ!」


「じゃあ、チョコレートを全員にくばれー」


ブルが言った。

全員の手にチョコレートが配られた。

するとこの落ち武者達は、ペロリと一枚ずつ食べてしまった。


「おいおい、このまま何日さまようのか、わからんのにそんなに食ってどうするんだ。一欠片位にしておけよな」


「うふふ、たいした距離じゃ無いから大丈夫じゃ無いですか」


「響子さん、距離は無いですが、それだけに敵の警備も厳重になります。なかなか、この包囲を抜けるのは大変なはずですよ。昨日の夜までなら敵に会わずに移動出来たの出しょうけど、すでに昼だからなあ」


俺達は、姿を消して落ち武者隊の様子をうかがった。


「よーーし、ぼちぼちいくかーー。出発だーー」


ブル伍長が号令をかけた。

全員が、のそのそと立ち上がり隊列を組み歩き始めた。

季節は冬だが、何年かに一度位の暖冬なのだろう温かい。

木々がザワザワ揺れる。

隊列はいきなり西に向った。


「おい、バイパスだ。すぐ近くじゃねえか」


ブルは、バイパスを京都に向うつもりらしい。


「見ろ、見張りだ、すごい数だ。バイパスは使えねえぞ」


チンが、驚いた顔をして言った。

どうやら事の重大性にやっと気が付いたようだ。


「お、おい。見つからないように静かに戻るぞ」


ブルが指示をすると、さっきまでと違い、木々をザワつかせないように、気をつけながら歩き出した。

最初からやっておけよな。良く見つからなかったもんだ。

運だけは良いようだ。


結局、元の場所まで戻って来た。

貴重な時間を使って何をやっているのだか。


「よ、よっし、次は南へ行くぞ」


ブルが号令をかけた。

今度は全員、静かに移動を始めた。

だが、その分遅くなる。

一時間弱でまた舗装道路を発見する。


「道だ!! 道がある」


「見ろ、あそこに見張りがいる」


「くっそ!! だめだ! いける先がねえ!」


全員が、トボトボもと来た道を戻りだした。

戻った頃には、日が暮れかかり薄暗くなる。

時間は十六時を少し回ったぐらいだが、あたりはもう薄暗い。

昼間は少し歩いたら汗をかくぐらいの暖かさだったが、今日の夜は急に冷え込んできた。


彼らの脳裏に絶望が浮かんできた事であろう。


「うう、寒いぞー!!」


「腹が減ったー!」


「食べ物は節約しろ。晩飯はチョコレートひとかじりだけだー」


ブルが叫んだ。


「ふ、ふざけるなーー。そんなんでもつわけねーだろー」


「馬鹿野郎、死にてーのか。一日でも長く持たせるんだ。もう助けを待つしかねえ。食ったら眠るんだ。体を寄せ合って暖を取るんだー」


ブルがそう言うと、全員体を寄せ合って眠ってしまうようだ。


「おいおい、夜のうちに見張りの隙をついて逃げようとは思わねえのか。駄目な奴らだなあ」


思わず俺の口から出た。

時間が立てば立つほど、逃げる事は難しくなる。

分かっているのだろうか。


「くそーーっ!! 寒い!寒くて眠れねえ」


「腹が減ったー」


翌朝は、薄暗いうちから目を覚ましたようだ。


「全員、食べ物は配給制にする。それぞれに配るから、それだけで我慢してくれ」


「くそー、何だよ。これだけかよー!」


不平は出たが、皆納得して、食事を済ませた。


「今日は、手分けをして、逃げ道を探そう。東西南北に部隊を四つに分けて偵察だ」


夕方薄暗くなると、各部隊が帰って来た。


「どうだった。報告しろ」


「駄目だ、敵の警備が厳重すぎる。すでに別の部隊の兵士が何人も捕まっていた。殺されている奴もいた」


「そ、そうか」


あたりが重い空気に包まれた。

皆静かになり、声を出す者がいなくなった。

こうして、ブル達は、ここでさらに数日を過ごした。

数日が過ぎると、食べ物の配給がさらに少なくなり、とうとう不平が爆発した。


「てめー!! 食い物はねえ!! 逃げ道はねえ!! 一体どうするつもりなんだ!」


「そうだ! そうだ! こんなことなら、あの豚の言う通りにしていれば良かったんだ!!」


あの豚って俺の事か?

助ける気が失せるぜ!


「だったら、好きにすれば良いだろう。俺はもう知らねえ!!」


「何だと! この野郎!! ぶっ殺してやる!!」


険悪なムードになった。

まあ、頃合いでしょうか。

俺は透明化を解除して出て行ってやることにした。


「あー、お取り込み中、済みません。ここに俺のカバンがありませんでしたか? 忘れてしまって」


「うおーー!! 豚だーーーー!!!!」


全員が歓喜の声を出した。

まるで、獲物を見つけたみたいだ。


「おいおい、食うなよ!!」


俺は、食われそうな危機感を憶えた。


「て、てめー、何しに来た」


ブルは、まだこの期に及んでも威張っている。


「ああ、忘れ物を取りに来ただけだ。すぐに帰る」


「ま、待ってくれ助けてくれ!!」


チンは、ブルよりはまだましなようだ。


「俺の言う事など聞きたくなかったのでは?」


「聞きたい、聞かせてくれ」


「そうですね。時間もあることですし、これでも食べて話しますか」


俺は持って来たカバンから得意のゆで卵を出した。

ついでに、富士の湧水の水筒を出した。


「うめーー!!」


こいつらには、マヨネーズはもったいないので塩にしてやったが、うまそうに食っている。

まあ、ここのところまともな物を食っていなかったので、さぞかし美味しいだろう。


「では、まずは何から聞きたいのですか」


「じ、爺さん……金城軍曹は無事なのか?」


なるほど、最初の質問は良いですね。

少し心を打たれました。

この質問をしてくれたことで、俺はこいつらを助けても良いかと思えるようになった。

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