「ゲン、聞いてくれるか。俺が見てきた、大阪の状況を説明したい」
「丁度、腹も膨れた。説明してくれ」
「柳川、大きめの大阪の地図はあるか?」
シュウ様が言うと、ゲン様の斜め後ろの目つきの悪い男の人が、声を出し右手を少し上に上げた。
「おい!!」
柳川様が声を出すと、壁際に控えていたメイドさん二人が、折りたたんだ白い布を持ってパタパタと運んで来ました。
それを部屋の中央で広げました。
その布は、ベッドのシーツを縫い合わせた物のようです。左右に分れて座っている重臣達の中央に、丁度収まる寸法です。
「さすが、柳川だな。最初からこれを想定しての配置だったのか。妙に中央が空いていて、おかしいなーと思っていたんだ。ミサ! 大阪の地図を頼む」
広げられたシーツには、墨で大阪の輪郭と大阪城のマークが書かれています。
シュウ様はそれを見ると、さらに地図を要求しました。
「はい、はーーい!」
嬉しそうに、巨乳の女性が走ってきました。
胸が、飛んで行きそうに弾んでいます。
なんて、すごい胸でしょう。
ドレスの胸が大きく空いていて、わざと目立つようにしてあります。
――なーーっ
ち、地図をその胸の隙間から出しました。
まさか、秀吉のわらじを温めておいたのと同じでしょうか。
冬だから、シュウ様の手が冷えないようにしたのでしょう。
きっと、入れる時は「つめた!」って言ったでしょうね。
愛を感じます。まさか、この人もシュウ様の事を……。
――うわっ
胸ばかり見ていたから気が付きませんでしたが、顔が、顔がすごく素敵です。
フージコちゃーーんみたいな、セクシーな感じの美女です。
私には無い魅力が一杯あります。すごく、負けた感じがします。
私の隣でカノンがシュンとしています。
私達は、顔の作りが良いだけ、後は何も無いですからね。
ミサさんは、悔しいですけど、とても素敵な女性です。
「これで、良いかしら」
「さすがだ、欲しかった大阪の詳細地図だ。ミサがいなくて大阪では、苦労したんだよ」
「そ、それって、私が必要だったってこと」
「ああ」
ミサさんが顔を真っ赤にして、とても嬉しそうです。
セクシーな上にかわいい女性です。
女の私でもほれてしまいそうです。
でも、シュウ様はさすがです。そんなミサ様を見ることも無く、詳細地図に集中しています。
「響子さん、そこのフキンを取ってください」
「はい」
シュウ様に私は、足下にあったフキンを渡しました。
たったこれだけの事なのに嬉しく感じました。
「しかし、こうしてみると、大阪城はすごい場所に作られているなー」
「おっおおーーー!!!」
シュウ様は言いながら、右手にフキンをかぶせると、その中から大阪城の模型を、マジックのように取り出しました。
食事中の重臣の席から、歓声が上がりました。余興のマジックショーとでも思ったのでしょうか。
それにしても、よく出来た大阪城です。
かわらの模様まで作り込んであります。まさか、シュウ様はオタクなのでしょうか。
鉄製なのでしょうか銀色にピカピカ光って美しいです。
それを、大きな地図の上に置きます。
「後は、ここにこんな感じかな」
詳細地図を見ながら、青い金属の板を出しました。
妙にくねくねしています。
地図の上に置くと、それは川の模型でした。
そして、お城の少し右上に、ビル群の模型を置きました。
あれは、私にもわかります。遊郭のあった地区です。
とてもわかりやすい地図になりました。
大阪城は、東西と北を川が囲んでいます。
天然の堀になっています。開いているのは南側のみです。
そう言えば堀を作っていると言っていましたが、この南側に作ろうとしているのでしょう。
「すげー、大阪のジオラマの完成ですか。でも他の建物は?」
柳川様がそう言うと、目をキラキラさせて、地図を見つめています。
「大阪城のまわり二キロくらいは、荒野になっている。ハルラは大阪城で、俺達を迎え撃つ気らしい」
「なるほどなあ。おい! 皆注目してくれ! 兄弟が聞かせたいことがあるようだ」
ゲン様はここから、シュウ様が説明を始めると思ったのでしょう、皆に声をかけました。
あうんの呼吸なのでしょうね。さすがです。
「全員食事はしたままでいい、聞いてくれ。今の大阪は、ここに堀を作ろうとしている。川も拡幅している。完成すれば難攻不落の城になる」
シュウ様は、大阪城の南側を指し示して言いました。
「……」
全員が、思わず箸を止め地図に注目しました。
「ハルラの新政府は、軍を十二部隊に分けている。その内、主力の一から八番隊は、四国、中国方面の攻略に行っている。九番隊は山城で織田家の羽柴軍と交戦中だ。十番隊は大阪城の守備、十一番隊は食糧の探索など雑用を担当し、十二番隊は街道の警備だ」
「なるほど」
柳川様が、答えました。
「俺が大阪に入った時は、大和も支配していたのだが、今は解放軍の反乱で失っている。さらに、二番隊を山城の攻防戦に投入したが、織田家の柴田軍に敗れ将を失った。恐らく今頃は、京都で苦戦しているだろう」
シュウ様は自分がやったことは、何一つ言いませんでした。
大和の解放軍はシュウ様が組織して、新政府軍を追い出したのです。
それに、織田家の柴田は、シュウ様が橋の上でやっつけています。
カノンと私は、ちゃんと見ていました。
ここにいる人達に、私が言ってあげたい。ですが、シュウ様が言わないのだからと我慢しています。
「ふふっ、どうせ解放軍は兄弟が作ったんだろ。織田家の柴田はぶっ飛ばしちまったんじゃねえのか」
「なっ!?」
思わず声が出てしまいました。
驚きました。ゲン様はすべて見抜いてしまいました。
「そんな事を、こんな短期間で出来る訳がねえ。ゲンの買いかぶりすぎだ」
「ふふふ」
ゲン一家の大幹部でしょうか数人が笑っています。
もうこれは、バレていますね。
さすがですね。私の方が嬉しくなりました。
「俺は、時は今だと思っている。チャンスに動かなければ後はない」
「ほう」
ゲンさんが少し驚きの声を出した。
でも、表情は少しも変化がありません。恐いです。
「木田家の大坂冬の陣です。敵はハルラ、そして目標のもう一つは、遊郭から女性の救出です」
「遊郭からの救出ですか?」
柳川様が質問しました。
「そうだ。ハルラは女性を捕まえると、奴隷のように無理矢理遊郭で働かせている。その女性を救出したい」
「兄弟らしいぜ。どうせ、それだけが目的のはずだ」
「はーーっ、それだけじゃねーーっ!」
ぷっ、私もそう思えてきました。
シュウ様が真っ赤になっています。
わかりやすいですね。でもその優しさが最高です。
「ゲン、今回は木田家全軍で行きたいが、留守番がいる」
「ちっ、そうきたか」
「留守番は、ゲン一家だ。それ以外は、全軍出陣の準備をしてくれ。二月一日、大阪城に総攻撃をする。遅れるなよ!!」
「おおおおおーーーー!!!!!」
会場全体がビリビリ震えた。