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0207 大坂冬の陣への決意

「ゲン、聞いてくれるか。俺が見てきた、大阪の状況を説明したい」


「丁度、腹も膨れた。説明してくれ」


「柳川、大きめの大阪の地図はあるか?」


シュウ様が言うと、ゲン様の斜め後ろの目つきの悪い男の人が、声を出し右手を少し上に上げた。


「おい!!」


柳川様が声を出すと、壁際に控えていたメイドさん二人が、折りたたんだ白い布を持ってパタパタと運んで来ました。


それを部屋の中央で広げました。

その布は、ベッドのシーツを縫い合わせた物のようです。左右に分れて座っている重臣達の中央に、丁度収まる寸法です。


「さすが、柳川だな。最初からこれを想定しての配置だったのか。妙に中央が空いていて、おかしいなーと思っていたんだ。ミサ! 大阪の地図を頼む」


広げられたシーツには、墨で大阪の輪郭と大阪城のマークが書かれています。

シュウ様はそれを見ると、さらに地図を要求しました。


「はい、はーーい!」


嬉しそうに、巨乳の女性が走ってきました。

胸が、飛んで行きそうに弾んでいます。

なんて、すごい胸でしょう。

ドレスの胸が大きく空いていて、わざと目立つようにしてあります。


――なーーっ


ち、地図をその胸の隙間から出しました。

まさか、秀吉のわらじを温めておいたのと同じでしょうか。

冬だから、シュウ様の手が冷えないようにしたのでしょう。

きっと、入れる時は「つめた!」って言ったでしょうね。

愛を感じます。まさか、この人もシュウ様の事を……。


――うわっ


胸ばかり見ていたから気が付きませんでしたが、顔が、顔がすごく素敵です。

フージコちゃーーんみたいな、セクシーな感じの美女です。

私には無い魅力が一杯あります。すごく、負けた感じがします。

私の隣でカノンがシュンとしています。

私達は、顔の作りが良いだけ、後は何も無いですからね。

ミサさんは、悔しいですけど、とても素敵な女性です。


「これで、良いかしら」


「さすがだ、欲しかった大阪の詳細地図だ。ミサがいなくて大阪では、苦労したんだよ」


「そ、それって、私が必要だったってこと」


「ああ」


ミサさんが顔を真っ赤にして、とても嬉しそうです。

セクシーな上にかわいい女性です。

女の私でもほれてしまいそうです。

でも、シュウ様はさすがです。そんなミサ様を見ることも無く、詳細地図に集中しています。


「響子さん、そこのフキンを取ってください」


「はい」


シュウ様に私は、足下にあったフキンを渡しました。

たったこれだけの事なのに嬉しく感じました。


「しかし、こうしてみると、大阪城はすごい場所に作られているなー」


「おっおおーーー!!!」


シュウ様は言いながら、右手にフキンをかぶせると、その中から大阪城の模型を、マジックのように取り出しました。

食事中の重臣の席から、歓声が上がりました。余興のマジックショーとでも思ったのでしょうか。


それにしても、よく出来た大阪城です。

かわらの模様まで作り込んであります。まさか、シュウ様はオタクなのでしょうか。

鉄製なのでしょうか銀色にピカピカ光って美しいです。

それを、大きな地図の上に置きます。


「後は、ここにこんな感じかな」


詳細地図を見ながら、青い金属の板を出しました。

妙にくねくねしています。

地図の上に置くと、それは川の模型でした。

そして、お城の少し右上に、ビル群の模型を置きました。

あれは、私にもわかります。遊郭のあった地区です。


とてもわかりやすい地図になりました。

大阪城は、東西と北を川が囲んでいます。

天然の堀になっています。開いているのは南側のみです。

そう言えば堀を作っていると言っていましたが、この南側に作ろうとしているのでしょう。


「すげー、大阪のジオラマの完成ですか。でも他の建物は?」


柳川様がそう言うと、目をキラキラさせて、地図を見つめています。


「大阪城のまわり二キロくらいは、荒野になっている。ハルラは大阪城で、俺達を迎え撃つ気らしい」


「なるほどなあ。おい! 皆注目してくれ! 兄弟が聞かせたいことがあるようだ」


ゲン様はここから、シュウ様が説明を始めると思ったのでしょう、皆に声をかけました。

あうんの呼吸なのでしょうね。さすがです。


「全員食事はしたままでいい、聞いてくれ。今の大阪は、ここに堀を作ろうとしている。川も拡幅している。完成すれば難攻不落の城になる」


シュウ様は、大阪城の南側を指し示して言いました。


「……」


全員が、思わず箸を止め地図に注目しました。


「ハルラの新政府は、軍を十二部隊に分けている。その内、主力の一から八番隊は、四国、中国方面の攻略に行っている。九番隊は山城で織田家の羽柴軍と交戦中だ。十番隊は大阪城の守備、十一番隊は食糧の探索など雑用を担当し、十二番隊は街道の警備だ」


「なるほど」


柳川様が、答えました。


「俺が大阪に入った時は、大和も支配していたのだが、今は解放軍の反乱で失っている。さらに、二番隊を山城の攻防戦に投入したが、織田家の柴田軍に敗れ将を失った。恐らく今頃は、京都で苦戦しているだろう」


シュウ様は自分がやったことは、何一つ言いませんでした。

大和の解放軍はシュウ様が組織して、新政府軍を追い出したのです。

それに、織田家の柴田は、シュウ様が橋の上でやっつけています。

カノンと私は、ちゃんと見ていました。

ここにいる人達に、私が言ってあげたい。ですが、シュウ様が言わないのだからと我慢しています。


「ふふっ、どうせ解放軍は兄弟が作ったんだろ。織田家の柴田はぶっ飛ばしちまったんじゃねえのか」


「なっ!?」


思わず声が出てしまいました。

驚きました。ゲン様はすべて見抜いてしまいました。


「そんな事を、こんな短期間で出来る訳がねえ。ゲンの買いかぶりすぎだ」


「ふふふ」


ゲン一家の大幹部でしょうか数人が笑っています。

もうこれは、バレていますね。

さすがですね。私の方が嬉しくなりました。


「俺は、時は今だと思っている。チャンスに動かなければ後はない」


「ほう」


ゲンさんが少し驚きの声を出した。

でも、表情は少しも変化がありません。恐いです。


「木田家の大坂冬の陣です。敵はハルラ、そして目標のもう一つは、遊郭から女性の救出です」


「遊郭からの救出ですか?」


柳川様が質問しました。


「そうだ。ハルラは女性を捕まえると、奴隷のように無理矢理遊郭で働かせている。その女性を救出したい」


「兄弟らしいぜ。どうせ、それだけが目的のはずだ」


「はーーっ、それだけじゃねーーっ!」


ぷっ、私もそう思えてきました。

シュウ様が真っ赤になっています。

わかりやすいですね。でもその優しさが最高です。


「ゲン、今回は木田家全軍で行きたいが、留守番がいる」


「ちっ、そうきたか」


「留守番は、ゲン一家だ。それ以外は、全軍出陣の準備をしてくれ。二月一日、大阪城に総攻撃をする。遅れるなよ!!」


「おおおおおーーーー!!!!!」


会場全体がビリビリ震えた。

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