とうさんがハルラのことを、魔王を超える勇者と言ったとたんに、久美子さんが薄気味悪い笑顔を顔に浮かべました。
この人はポーカーフェイスという言葉を知らないのでしょうか。
どうやら性根は腐っているようですが、思っている事が顔に出てしまうタイプの人のようです。
とうさんは人を信じやすいのですが、あまり神経質になる必要はなさそうです。
「とうさん、ロボにあれは付いているの?」
あずさちゃんが、話しの隙間に絶妙に割り込みました。
あれって何でしょう? まさか、た……
「もちろんだ!!」
えっ!
「さすがですぞ!!」
あっ、あずさちゃんの話し方がオタクになりました。
オタクな何かですね。よかった。
「ヒマリちゃん行きますぞ」
「えっ!?」
「今からすぐに行くのか?」
「当たり前ですぞ。子供は遊ぶことが仕事ですぞ」
「き、きえたーー!!!!」
最後は久美子さんでしょうか。
私はあずさちゃんのテレポートで巨大ロボの前に移動しました。
「オイサスト! シュヴァイン!」
あずさちゃんが言いました。
つられて私も言いました。
あずさちゃんは当然青い方の巨大ロボジグリオ、私は赤い方の巨大ロボバムードの前で言いました。
ロボはのそのそ片ヒザをつくと、私達を手の上に乗せて胸の前に運びました。
オイサストシュヴァインの意味は無いようです。
胸のハッチが開き、乗り込みました。
どうやら、これが付いているのか聞いていたみたいですね。
たまたまの事では、なさそうです。
中はメーターや操縦桿があるわけでは無く、人型にくりぬかれたようなスペースがあるだけです。
そこに体をはめ込むとハッチが閉まり、体全体が包み込まれます。
体を動かすとその通りに動くみたいです。
足の裏に、地面の感覚が伝わってきます。
すぐにまわりが透明になると、あずさちゃんの青いジグリオの姿が見えました。
ピーツインの振り付けで踊っています。
「ヒマリ氏、行きますぞ!!」
そう言うと私に襲いかかりました。
私は、後ろに飛び退きました。
すごいです。
体に、ギュイーン、シュゴゴゴーンというような感じの力がかかります。
「やりますな、ヒマリ氏!」
あずさちゃんは、私に向き直るとまた襲いかかります。
私は横に飛びました。
今度はギュオーーンと体に力がかかります。
「たっ、楽しーーい!!」
思わず声が出ました。
遊園地のどんなアトラクションより楽しいです。
「ヒマリ氏!! 最高ですぞ!!!」
うん、でもあずさちゃん、そのしゃべり方いつまで続けるつもりなのでしょうか。やれやれです。
私とあずさちゃんは、くたくたになるまで、ジグリオとバムードで遊びました。全身汗でびっしょりです。
楽しすぎて時間を忘れてしまいました。
お風呂に入るとすぐに夕食の時間でした。
美味しい食事でしたが、まったり時間が過ぎると黒いもやもやが頭をもたげてきます。
夜、お布団に入ると昼の疲れからか、あっという間に眠ってしまいました。
朝の食事はまるで味がしませんでした。
私の黒いもやもやの正体はとうさんとの別れです。
和歌山の事があったので、一緒の時間が長くなりましたが、とうとうこの時が来てしまいました。
「二人は、よく眠れたみたいだな」
あとでシュラちゃんに聞きましたが、この日の夜にとうさんはずっと私とあずさちゃんの枕元にいてくれたそうです。
とうさんは「ドラマでよく、金持ちの子供が親にかまってもらえなくてグレてしまうけど、俺の方がおかしくなりそうだ」そう言ってさみしそうにしていたと聞きました。
でも、別れの朝はとても元気で楽しそうでした。
まるで、いなくなってせいせいするって感じでした。
私達は、天守閣の最上階に集っています。
大阪の荒野が、とてもよく見えます。
とうさんは、堀を完成させたら、まわりを田んぼにすると言っています。ジグリオとバムードがいればあっという間に出来るでしょう。
「うわーーーん!! うわーーーん!!!」
いたずら小娘のあずさちゃんが大泣きです。
「う、ううっ」
私も我慢出来ずに涙が出ました。
「うごーーーん!、うごーーーん!」
とうさんの胸に顔を埋めたので「うごーーん」になっています。
私は初めて泣きながら笑ってしまいました。
「ヒバリしゃん、おねーちゃんの私がこんなに泣いちゃってごめんなざい」
顔をグチャグチャにしています。
大丈夫です。本当はあずさちゃんが妹なのですから。
一瞬で移動出来るのは、とても別れが早いです。
「二人とも、会いに行くからな」
「はい!!」
こうして、あずさちゃんのテレポートでとうさんとは泣きながら笑顔でお別れしました。
「ふー、行ってしまったな」
あずさとヒマリがいなくなった、暗黒の魔王城ことシン大阪城の天守閣最上階には、ミサと古賀さん、坂本さん、オオエさん、左近、そして上杉家一行、さらに薩摩島津家の久美子さんがいる。
今度は、坂本さんと古賀さんとお別れだ。
実はこの二人には、学校の校長をお願いしている。
東京校が坂本さん、名古屋が古賀さんだ。
そして俺は、いよいよ越中に入って、織田家柴田軍との戦いだ。
百八十日の停戦がいよいよ終るのだ。
「ミサ、まずは俺と上杉を越中へ送ってくれ」
「わかったわ」