越中東部の、のどかな田園地帯に織田家と木田家両家が布陣した。
入善から朝日にかけての田園地帯だ。
木田軍は中央に真田隊の赤き重装歩兵三百を配置し、むかって右側にポン隊の銀色に輝く偵察機動陸鎧千五百、左には上杉隊緑色の機動陸鎧天地千五百が待機している。
真田隊の後ろに黒い具足の藤堂隊が五百、その後ろに木田家本陣がある。本陣を守るのは尾張の黒い具足隊が二百。
総勢五千人。
対する織田家柴田軍は、中央後部に柴田隊が三千で本陣を守備している。全てが甲冑を付け通常の槍を装備している。
柴田隊の前に前田隊が五千で真田隊にむかって槍を構え待ち構えている。構える槍は千五百本の三間槍である。重い三間槍は二名一組で持ち、前列は戦国時代の甲冑を身につけている。
槍の後ろに千五百の鉄砲隊が火縄銃を構えている。
残りの五百人が前田のまわりを固めている。
ポン隊の前に、羽柴軍が五千。陣の内容は前田隊と同じだ。
そして、上杉軍の前に明智軍が五千で対峙している。こちらも前田隊と陣立ては同じだ。
柴田軍の総勢は一万八千。
「一万八千対五千の戦い……」
九州島津家から視察に来た久美子さんが不安そうな表情をした。
どうせ、新政府もどこかで偵察をしているはずだ。
桜木が来ているのかもしれない。
俺は、この戦いを各勢力に見せつけようと考えている。
特に木田家最強の矛の真田隊がどれだけの強さなのかを。
「ふふふ、そうではありません。八千対三百です」
日の出前の越中は冷え込んでいる。
氷点下かもしれない。
木田家本陣に詰めている各大将の吐息が白い。
「おお!!」
声をあげた真田の吐息が、白く濃くなった。
俺の意図を理解したようだ。
久美子さんが赤い顔をして、真田の顔を見つめている。
木田家では、この真田と、今川そして上杉が三大美形だ。
今日は今川が来ていないのだが、二人の美形はそろっている。
「見てくれ、これを!」
俺は本陣の後ろの旗を指さした。
そこには丸に木と書いてある木田家の旗の横に、日の丸を掲げている。
「!?」
全員が俺の顔を見た。次に何をいうのかという顔だ。
「俺は今日ここに、日本人として私利私欲を捨て、日本国の為に戦うという固い誓いを立てた。日の丸はその意志の表れである」
「ひひひ」
「ふふふ」
しっ、失笑をかってしまった。久美子さん以外全員が笑っている。
な、何かおかしな事を言ってしまったか?
「大殿、そんなことはわざわざ宣言する必要はねえぜ。全員十分理解している。あんたのことは家臣一同、逐一見てきている。むしろもう少し私利私欲を持ってもらはねえと、俺達までいつまで経っても貧乏なままだ」
ポンが言った。
「間違いない」
藤吉が笑いながら言う。
この二人は、旧ゲン一家の四天王の二人だ。
二人ともすげー恐い顔をしている。
まあ、最近やっと慣れてきたけど。
久美子さんが少しおびえている。
二人に少し失礼ですよ。まあ気持ちは理解しますけどね。
「ちっ、だがそれは、俺だけじゃ無く、木田家全員で共有したいと言う事だ」
「また始まりました」
あきれたように真田が言った。
「敵もまた日本人だ。不殺をもって最上とする!!!」
旧ゲン一家のポンと藤吉、信州佐久の真田、越後の上杉、伊勢の藤堂、そして尾張の東と加藤、天地海山教教祖のミサ、上杉のお供のスケさん、カクさん、響子さん、カノンちゃんが声をそろえて言った。
「なーーーっ!?」
久美子さんと、熊野カンリ一族のオオエ、左近の二人が声を上げた。
「な、なんですか、それは? 戦争の相手を殺さないと言うことですか?」
久美子さんが驚いて聞いてきた。
「出来るだけ殺さないという事です」
「そ、そんな馬鹿な。敵の方が多いのですよ」
久美子さんとオオエと左近の声がそろった。
「まさか、敵は弱いのですか?」
久美子さんが聞いてきた。
「どうでしょう。あの柴田は新政府軍の二番隊の隊長を一騎打ちで倒し、二番隊を潰走させたくらいの強さです」
「し、新政府軍を負かしたのですか。滅茶苦茶強いじゃ無いですか」
久美子さんが、恐怖の為か両手で体を抱え込み寒そうにした。
その言葉と同時にあたりが明るくなってきた。
「日の出だ。そろそろ始まります。みなさん、持ち場へお願いします」
「おおっ!!」
ポンが、丸に本と書いた大将旗、藤吉が丸に藤と書いた大将旗を付けた、指揮官機で右翼の持ち場に向った。
真田は六つの丸の大将旗を付けて幸村と名付けた指揮官機で最前列にむかった。
上杉は、天地海山と書いた大将旗を背に掲げ左翼にむかう。
上杉は天地海山教徒だから、本陣を出る前に教祖のミサに深く一礼する事も忘れなかった。
天地海山と書いた旗は、風林火山とよく似ている。見間違えるのは俺だけか?
最後に丸に尾と書いた旗を付けて、尾張の加藤と東が本陣を出る。
「だあーーはっはっは。なんだそのおもちゃは!! 今なら一騎打ちに応じてやるぞ。ひゃあーーはっはっはーー!!!」
柴田が前田隊の前に出て来て大声を出している。
どうやらケガは全快しているようだ。
俺は、黒い指揮官機激豚君に乗って真田隊の前に出た。
ハッチを開けて外に出た俺は、ヘルメットに黒いジャージを着ている。
「うわああああーーー!!! アンナメーダーマンだーー!!!」
羽柴軍から悲鳴が上がった。
俺は、羽柴軍を牽制するためにわざわざこの姿を見せたのだ。
「誰が、てめーみたいな汚ねえ戦い方をする奴の一騎打ちをうけるかよー。木田の大殿は怒っている。てめーと口をきくのも嫌だとさ。俺が代理で出て来てやった。言いたい事はそれだけか」
「てめーは、一体何者だ?」
「ふふふ、羽柴隊にでも聞いておくんだな」
俺は、黒い指揮官機に乗り込み本陣に戻った。
羽柴軍はアンナメーダーマンの恐ろしさをよく知っているはずだ。アンナメーダーマンがいるとわかれば、羽柴軍はうかつに攻めてこないだろう。
柴田は唾を地面に吐き捨てると、本陣に向って歩きだした。
明智軍は、大将の横に左馬之助がいる。
うれしそうに、上杉とスケさん、カクさん、響子さん、カノンちゃんに手を振っている。
おいおい、柴田に見つかるぞ。
これなら、明智軍も動かないだろう。