「みなちゃーん! ちずかにちてくだちゃーい!」
アメリ先生に続いて古賀校長が教室に入ってきました。
「ふー、やっとこのクラスの番ね。とても楽しみでした」
古賀先生は、天使のような笑顔で言いました。
もともと優しげな顔の古賀先生は女神の様に美しい人です。
その先生が心からうれしそうだと、女の私が見ても幸せな気分になります。
それにしても古賀先生はさすがですね。
初日にあんな騒ぎを起こしたクラスに来て、嫌な顔をするどころか心から楽しみにしていたように見えます。
「……」
教室中の生徒が古賀先生に見とれて静かになりました。
やっとこのクラスの番になったと言う事は、高校のA組から順番に回ってきたのでしょうか。
一日一クラスで、六日目にこのクラスに来たという事ですね。
「今日は、皆さんに木田家について説明したいと思います。テストには出ませんので、軽い気持ちで聞き流してくださいね。質問があればその都度聞いて下さい。極秘事項で無ければ説明出来ると思います」
古賀校長は、古賀忍軍の首領でもあります。
木田家の情報については誰よりも詳しいはずです。
古賀先生は、クラス全員の顔をゆっくり見ていきます。
全員の顔を記憶しているみたいです。
全員の顔を見終わると、話を続けました。
「まず、この場所ですが、尾張名古屋です。昔は愛知県名古屋市と呼んでいたところです。大殿はここを木田家の首都にしたいと考えているのですよ」
「えーーっ、なぜですか」
数人の生徒が聞きました。
もちろん私は知っています。
「うふふ、一言で言うと小さいからです。東京も大阪も大きすぎです。大殿いわく、大都市は砂漠と同じだと言っていました。不毛な大地がこうも広くては使い物にならないと。日本は、自国の食糧生産地を海外に求めました。結果、自国の食糧を自国で生産出来なくなりました。その結果が今のこの惨状です。名古屋の回りには田畑が充分にあります。その他の必要な、味噌や醤油、お酒に繊維の工場に、良い陶器も生産出来ます。ここから始めたいと言っていました」
「へーーっ」
「名古屋の東には、三河が有り、そこは今川家ですが、住んでいるのは天地海山教の信者です。そして、隣の遠江、駿河までが今川家が管理しています。この学校で一番多いのが今川家の生徒です。甲斐、伊豆、相模は北条家。相模を除いた関八州は木田家が管理しています。陸奥は伊達家。出羽、越後、越中が上杉家です。上杉家も天地海山教の信者が多いです。関東より北の生徒は東京の学校に行っています」
黒板に日本地図を開いて、一つずつ説明してくれました。
そして、質問が無いですかという表情で生徒の顔を見ました。
「先生、天地海山教とは何ですか?」
ライちゃんが聞きました。
関西の人は知らないのですね。
「いい質問ですね。天地海山教と書いて、テンチカイザンキョウ。教祖様が天地海山と書いて、アマチミサ。この教祖様は、超能力者です。隕石が落ちると発表があったときに、ただ一人大きな声で隕石は落ちないと予言しました。結果その通りになり、信者を多く集めた宗教です。教祖のミサさんは木田三柱のミサ様と同一人物です」
この世界は、隕石が百パーセント衝突すると発表されて、パニックで滅びかけています。
恐竜は直径二十キロの隕石で滅びましたが、人類は隕石が衝突すると広まったことにより絶滅しそうになっています。
食糧の奪い合いに明け暮れて、殺し合い人口が激減しています。
そこで、我がとうさんがぶつくさ言いながら、世界を救おうと立ち上がり今日があります。
何をかくそう昨日の赤いジャージのおデブさんこそが、救世主木田とうその人なのです。
「はい、わかりました」
ライちゃんが返事をしました。
「次に尾張の北の美濃ですが、ここは斎藤家が管理しています。そして、その北の飛騨は、私古賀家が管理しています。飛騨の隣の信濃は、北部を真田家、南部を戸田家が管理しています」
「先生、管理と言っていますが、領地ではないのですか」
今度はノブ君が質問しました。
「いい質問ですね。木田家では、民主主義を目指しています。日本が一つにまとまったときには、民主主義にする予定です。それまでの間、政府の代理で一時的に預かっているという考え方なので管理と言っています」
「なんだ。大殿が支配しちまった方が断然いい国になるとおもうけどなあ」
「私もそう思います。……こほん。……尾張の西の北伊勢は、このクラスの本多美代さんの本多家が桑名城で管理しています。南伊勢から志摩にかけては藤堂家、紀伊は清水家配下の熊野衆が管理しています。そして大和の地は柴井家が管理をしています。和泉、河内で清水家が賊を退治して平定中ですね。摂津の大阪城は木田家直轄で管理しています。ここまでが木田家とそれに同盟してくれている諸勢力です」
ライちゃんは大和の柴井家でお世話になっていました。
ノブ君は、かつて大阪を支配していた新政府軍から、物資を奪い生活をしていました。
でも、生きるためには仕方が無かったのです。
ノブ君は何人もの子供達を食べさせるために頑張って生きてきていたのです。