雨は明け方まで降っていたが、朝日が昇る頃にはやんでいた。
朝食は、屋台の鉄板で目玉焼き、それと鶏肉と野菜を炒めたもので軽く済ませた。
もちろん、当番の番兵さんにも振る舞い、関所と道の駅、大きな牛の置物とお別れした。
国道をいったん東に進む。
歩くのは道のど真ん中だ。車がいないのであおり運転される心配も無い。
そう言えばあおり運転って日本人らしくないよなー。
あれって本当に日本人がやっているのかなあ。
道の両側には木々の緑が多い。とてものどかだ。
森林地帯を抜けると農地が見えてきた。
農地は見渡す限り、放置されていた。
残念すぎて肩がガックリ落ちた。
さらに歩き続けると、何故放置されているのかが判明した。
川に挟まれた中州で大勢の人が改修工事をしている。
ミサから地図を出してもらい確認したら、ここが伊藤家の最終防衛ラインというのがわかった。
本拠地を要塞化しているようだ。
伊藤家は、新政府軍にここまで攻め込まれると想定しているようだ。
食糧を作るより目先の戦争の対策をしている。
伊藤家もこのままでは、すぐに食糧難になるだろう。
いや、新政府軍に滅ぼされて終わるのが先かもしれない。
さらに進むと道は市街地に入って行く、そして山が近づいてくる。
まだ日は高いのだが少し早めに休む事にした。
山の中での夜道は、久美子さんや久遠さんには、まだ無理だろうと考えたのだ。
国道から目立つ団地が見えたのでそこの駐車場に、宿舎を設営してお風呂も設置した。
その後すぐに、晩ご飯の用意を始めた。贅沢は出来ないので、玉子料理と鶏肉のソテーだ。
すると料理の香りで人が集ってきた。だが、女性と子供ばかりだ。
宿舎は開放できないが、銭湯は解放して御飯は集った人にも振る舞った。
そんな事をしていたら、噂が広まったのか次々人が集り出してきた。
「すごい人の数ですねえ」
「本当じゃ! こんなに人が隠れておったとはのう」
「あの、ユウ様はまだいたのですか?」
「当たり前じゃ。一緒にいた方がうまいものが食える。日向におるうちは付きまとうぞよ」
人が大勢になってきたので、また祭りでも準備しなくちゃいけないのかと思っていると、騒ぎを聞きつけた役人のような奴らがやって来た。
「しずまれーー!! しずまれーー!!」
平役人が長い棒で、集っている人をかき分けた。
「!? お前達はこんな所で何をしている?」
平役人の後ろから髭を生やしたえらそうな役人が来た。
「あ、貴方は?」
ユウ様は何故か、人混みに消えてしまった。
「きさまーー!! お代官様に失礼であろう。先に質問にこたえよ!! このブター!!」
「いたっ!!」
痛くは無いけど、平役人が棒で殴ったので言っておいた。
「暴力はおやめ下さい。八兵衛も、勝手にしゃべるものではありません。私達はあやしい者ではありません。豊前の島津軍への慰問のものです。お代官様これを!」
久美子さんが、お代官様の前に出て通行手形を見せた。
手形には、関所の印が押されている。
正式な手続きが終わっているので、これで良いはずだ。
「ほう、見せてみよ。ふむ、おかしいのう不備がある」
「えっ!?」
久美子さんが驚いている。
不備などあるはずが無い。
関所の番兵さんは信用できるはずだ。
「あやしい奴らじゃ。取り調べをしないとなあ」
代官は嫌な笑みを顔に浮かべると舌なめずりをした。
「お前達!! あそこの女二人を引っ捕らえよ!!」
代官が指をさした先には響子さんとカノンちゃん、そしてミサと久遠さんがいる。
「はっ!!」
手下の役人が久遠さんを捕らえようとした。
「ちがうだろーーーうがーーーーっ!!!!!!」
代官が恐ろしい剣幕で怒った。
「!?」
手下の役人が硬直している。
「そんなブスでは無い、そっちのデカパイと美形の女だ!! わかるだろうがよっ!! あーーっ!!」
「ははっ!!」
平役人は、あわてて響子さんとミサの腕をつかんだ。
「おい、おい。その女はもう俺の物だ!! 勝手に触るんじゃねえ!!」
「悪代官だ。ふふっ」
「悪代官だ。くくっ」
「悪代官だ。ぷっ!」
おーーい、謙之信、スケさん、カクさん、小声で言っていますけど、聞こえちゃいますよー。
しかも、なんでうれしそうなんですかーー。
「お前達、この住民共も命令違反をしている。引っ捕らえよ」
役人達がぞくぞくと集って来て、住民達に殴る蹴るなどの暴力をふるった。
「大人しくしろ!!」
いやいや、全員抵抗していませんよ。
大人しいですよ。
「陣屋まで連行しろ!!!!」
「あの、ユウ様」
隠れているユウ様に話しかけた。
「な、なんじゃ」
「陣屋ってどこにあるのですか?」
「ふむ、ここからすこし離れた裏手にあるのう」
「住民が違反をしていると、言っていましたがどういうことですか」
「ああ、それは、身長140センチ以上の男子は徴兵される。見たところ何人もいたようじゃからな、そのことを言っておるのじゃろう」
「では、女性は関係ないのでは?」
「それは、それじゃろう! おぬしも男ならわかるじゃろう」
「伊藤家もやはりこんなもんですか」
「いやいや、伊藤家はこんなもんでは無い。主要人物は今、延岡におる。残った心ない者が勝手にやっているだけじゃ」
「では、こらしめちゃっても良さそうですね」
「いやいや、やめておけ。多勢に無勢じゃ。殺されるだけじゃぞ」
「なるほど! と言う事ですが久美子様どうしましょう」
「八兵衛さん、そんな事は決まっています」
久美子さんが少しうつむいて、顔に影を落とした。