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0337 悪代官

雨は明け方まで降っていたが、朝日が昇る頃にはやんでいた。

朝食は、屋台の鉄板で目玉焼き、それと鶏肉と野菜を炒めたもので軽く済ませた。

もちろん、当番の番兵さんにも振る舞い、関所と道の駅、大きな牛の置物とお別れした。


国道をいったん東に進む。

歩くのは道のど真ん中だ。車がいないのであおり運転される心配も無い。

そう言えばあおり運転って日本人らしくないよなー。

あれって本当に日本人がやっているのかなあ。

道の両側には木々の緑が多い。とてものどかだ。

森林地帯を抜けると農地が見えてきた。


農地は見渡す限り、放置されていた。

残念すぎて肩がガックリ落ちた。

さらに歩き続けると、何故放置されているのかが判明した。

川に挟まれた中州で大勢の人が改修工事をしている。

ミサから地図を出してもらい確認したら、ここが伊藤家の最終防衛ラインというのがわかった。

本拠地を要塞化しているようだ。


伊藤家は、新政府軍にここまで攻め込まれると想定しているようだ。

食糧を作るより目先の戦争の対策をしている。

伊藤家もこのままでは、すぐに食糧難になるだろう。

いや、新政府軍に滅ぼされて終わるのが先かもしれない。


さらに進むと道は市街地に入って行く、そして山が近づいてくる。

まだ日は高いのだが少し早めに休む事にした。

山の中での夜道は、久美子さんや久遠さんには、まだ無理だろうと考えたのだ。

国道から目立つ団地が見えたのでそこの駐車場に、宿舎を設営してお風呂も設置した。

その後すぐに、晩ご飯の用意を始めた。贅沢は出来ないので、玉子料理と鶏肉のソテーだ。

すると料理の香りで人が集ってきた。だが、女性と子供ばかりだ。


宿舎は開放できないが、銭湯は解放して御飯は集った人にも振る舞った。

そんな事をしていたら、噂が広まったのか次々人が集り出してきた。


「すごい人の数ですねえ」


「本当じゃ! こんなに人が隠れておったとはのう」


「あの、ユウ様はまだいたのですか?」


「当たり前じゃ。一緒にいた方がうまいものが食える。日向におるうちは付きまとうぞよ」


人が大勢になってきたので、また祭りでも準備しなくちゃいけないのかと思っていると、騒ぎを聞きつけた役人のような奴らがやって来た。


「しずまれーー!! しずまれーー!!」


平役人が長い棒で、集っている人をかき分けた。


「!? お前達はこんな所で何をしている?」


平役人の後ろから髭を生やしたえらそうな役人が来た。


「あ、貴方は?」


ユウ様は何故か、人混みに消えてしまった。


「きさまーー!! お代官様に失礼であろう。先に質問にこたえよ!! このブター!!」


「いたっ!!」


痛くは無いけど、平役人が棒で殴ったので言っておいた。


「暴力はおやめ下さい。八兵衛も、勝手にしゃべるものではありません。私達はあやしい者ではありません。豊前の島津軍への慰問のものです。お代官様これを!」


久美子さんが、お代官様の前に出て通行手形を見せた。

手形には、関所の印が押されている。

正式な手続きが終わっているので、これで良いはずだ。


「ほう、見せてみよ。ふむ、おかしいのう不備がある」


「えっ!?」


久美子さんが驚いている。

不備などあるはずが無い。

関所の番兵さんは信用できるはずだ。


「あやしい奴らじゃ。取り調べをしないとなあ」


代官は嫌な笑みを顔に浮かべると舌なめずりをした。


「お前達!! あそこの女二人を引っ捕らえよ!!」


代官が指をさした先には響子さんとカノンちゃん、そしてミサと久遠さんがいる。


「はっ!!」


手下の役人が久遠さんを捕らえようとした。


「ちがうだろーーーうがーーーーっ!!!!!!」


代官が恐ろしい剣幕で怒った。


「!?」


手下の役人が硬直している。


「そんなブスでは無い、そっちのデカパイと美形の女だ!! わかるだろうがよっ!! あーーっ!!」


「ははっ!!」


平役人は、あわてて響子さんとミサの腕をつかんだ。


「おい、おい。その女はもう俺の物だ!! 勝手に触るんじゃねえ!!」


「悪代官だ。ふふっ」

「悪代官だ。くくっ」

「悪代官だ。ぷっ!」


おーーい、謙之信、スケさん、カクさん、小声で言っていますけど、聞こえちゃいますよー。

しかも、なんでうれしそうなんですかーー。


「お前達、この住民共も命令違反をしている。引っ捕らえよ」


役人達がぞくぞくと集って来て、住民達に殴る蹴るなどの暴力をふるった。


「大人しくしろ!!」


いやいや、全員抵抗していませんよ。

大人しいですよ。


「陣屋まで連行しろ!!!!」


「あの、ユウ様」


隠れているユウ様に話しかけた。


「な、なんじゃ」


「陣屋ってどこにあるのですか?」


「ふむ、ここからすこし離れた裏手にあるのう」


「住民が違反をしていると、言っていましたがどういうことですか」


「ああ、それは、身長140センチ以上の男子は徴兵される。見たところ何人もいたようじゃからな、そのことを言っておるのじゃろう」


「では、女性は関係ないのでは?」


「それは、それじゃろう! おぬしも男ならわかるじゃろう」


「伊藤家もやはりこんなもんですか」


「いやいや、伊藤家はこんなもんでは無い。主要人物は今、延岡におる。残った心ない者が勝手にやっているだけじゃ」


「では、こらしめちゃっても良さそうですね」


「いやいや、やめておけ。多勢に無勢じゃ。殺されるだけじゃぞ」


「なるほど! と言う事ですが久美子様どうしましょう」


「八兵衛さん、そんな事は決まっています」


久美子さんが少しうつむいて、顔に影を落とした。

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