「兼続様ー! 不意打ちは卑怯でしたね。遊びはここまでです。パンツがどうとか、おっぱいがどうとか言われるのは不本意です。次は男だけで攻めさせてもらいます。お互いに手加減無しで戦いましょう」
「な、なにーーっ!! 遊びだとー!!」
兼続は倒れている配下を見回すと、真剣な目になり俺を見つめてきた。
さっきまでのなめた態度を、後悔しているようだ。
さすがに、状況判断は出来る様だ。
「ふふふ、兼続様。これでお終いでは、お互い中途半端ではありませんか。全兵力で油断なく準備をして下さい。俺達は、ゆっくり食事をして兼続様のお屋敷に訪問します」
「ふふふ、本気で言っているのか。肝属軍にはまだ千五百人以上はいるぞ」
兼続は笑いを見られないようにするためうつむいた。
戦いは守って戦う方が、条件的に有利になる。
すでに勝ちを確信したのだろう。
うつむいた為、顔に影が落ちニヤニヤ笑う兼続の顔は不気味に歪んだ。
「実はこの三人はアンナメーダーマンスリーと言って、一騎当千の、もののふです。ちとこっちが有利です。ハンデとして素手で戦いましょう。但し、そちらが卑怯な手を使ったら、こちらも自由に戦わせてもらいます」
そう言えば昔は三人のヒーロー物が結構あったなー。
サンバルカン、トリプルファイター、新しい物ではアキバレンジャー。
なつかしいなー。
サンナメーダーマンにすればよかったかなー?
「い、一騎当千……」
兼続はゴクリと唾を飲んだ。
「と、殿……」
重臣の薬丸が、心配そうに兼続の顔をのぞき込んだ。
「薬丸ー心配するな! 我が家臣団も猛者ばかりだ、やったろうじゃねえか! 全員ひきあげだーー!!!! 準備をして待っている。死んで後悔するなよーー!!」
そう言うと、肝属家の一団は帰って行った。
「久美子様。申し訳ありません。私ごときが出過ぎた真似を」
「いいえ。こうなってしまえば、肝属家と十田家の戦いです。八兵衛さんに全てをお任せします。私は、のんびり見学させてもらいます」
「ありがとうございます。兼続は準備に時間がかかるでしょう。こちらはゆっくり食事でも楽しみましょうか。久遠さん何か食べたい物がありますか?」
「えっ!?」
「ああ、といっても、用意出来る物は限られますけどね」
「あの、唐揚げ! おいしい唐揚げが食べたいです!!」
「おおー、何と言う事だーー!!」
俺は大げさに残念そうな顔をした。
「あ、ああ、あの、無理なら良いです」
久遠さんが申し訳なさそうに少しあせって言った。
「冗談です。材料が最も多いのが鶏肉です。腹がはち切れるほど食べて下さい」
「もーーー!!」
久遠さんが俺の腕をペチペチ叩いてくる。
膨らましたほっぺが可愛い。
俺は、大鍋を出して油を温めて、ここで揚げて出来たてを食べてもらう事にした。
ついでに揚げ物も作って振る舞った。
ただ、とんかつだけは作れなかった。豚がいないからだ。
北海道にはまだ豚がいたという事だが、しばらくは全国に供給は出来ないらしい。もうしばらくの辛抱だ。
「さて、もう良いでしょう。ぼちぼち行きましょうか」
食事が終わって、充分休んだので出発する事にした。
久遠さんはいつもの様に俺の背中に、おんぶしようとしたが少しちゅうちょした。だが、強引におぶった。
肝属兼続は、街の東の山の上を本拠地にしている。
ここから真東に街の中央を縦断すれば到着する。
ほっとするような町並みに、有名な店が続く。
木田の街にどことなく似ている。
「見てーー牛丼屋さん! それにコンビニ!!」
カノンちゃんがはしゃいでいる。
店の外観はそのままだが、人の気配が無い。
まだ朽ちていない街は人がいないと、とてもさみしく感じる。
ここに、かつては何万もの人が住んでいたと思うと、命のはかなさを感じる。
あたりが薄暗くなると、オレンジの光がはっきり見えてきた。
――ここにおいで、おいで
そういうように、かがり火が焚かれている。
道は、建物が無くなり両側が木々に覆われてくる。
いよいよ敵の本拠地だ。
道の横に駐車スペースだろうか、開けた場所がある。
木の柵が設けられたその中に、大勢の兵士が控えている。
「謙之信、スケさん、カクさん。お出ましです。用意はいいですか?」
「はっ!!!」
悪の組織のアジトに向う気分だ。
緊張してきた。
さしずめ敵は、小手調べの戦闘員というところだろうか。
「みなのものーー!! 敵はアンナメーダーマンスリーだ。あの先頭の三人だけだ。他の者には手を出すな。おっぱいとかパンツとかややこしくなる。あの三人をまずは血祭りに上げよーーーー!!」
薬丸のおっさんだ。
賢明な判断だ。
「おおおおーーーーっっ!!!!」
兼続軍が大声を上げた。きっとこの声は山頂まで届いているはずだ。
総勢は五百名というところだろうか。
俺なら、一カ所に兵はまとめて戦うが、兼続は三人の強さをまだこの程度と考えているのだろうか?
それとも、なにか秘策でも考えているのか。
アンナメーダーマンスリーはゆっくり柵に近づく。
柵から長い棒がニューッと出て来て、三人の体を突いたり叩いたりする。
だが、その棒は織田家のような鋼の棒では無く木の棒だ。
中にはモップまである。
それは、もはや武器では無く掃除道具だ。
それでも、アンナメーダーマンスリーで無ければ、それなりの効果があるだろう。
「はーーっ!!」
アンナメーダーマンスリーは、攻撃を無視して高く飛び上がった。
かがり火のオレンジの光を反射して、シルエットが美しい。
飛び上がった頂点で、くるりと回転すると柵を跳び越え、敵兵の中に飛び込んだ。
「うぎゃあああーーーーーー!!!!」
密集している敵兵は、悲鳴と共に次々倒されて行く。
一騎当千の敵三人を密集して囲んで戦うのは意外と難しそうだ。
身動きが取れなくて面白いように倒されて行く。
「引けーー、次の陣まで引けーー!!!!」
薬丸の声で、敵兵は一目散に道をかけ上っていく。
半数以上の兵が失神して取り残されている。
「すごい!! すごーーい!!」
久遠さんが俺の背中で歓声を上げている。
「さあ、慌てる必要はありません。ゆっくり進みましょう」
俺達は、背中を見せて走る敵兵を追いかける事も無く、山道を上へ進んだ。
しばらく進むと道をふさぐように柵が有り、柵の前に不敵な面構えの男が三人立っている。
手にしている武器は、立派な日本刀だ。
どこかの家宝じゃ無いだろうか。
「ふふふ、やるなあ!! お前達、相手に取って不足無しだ。俺達は肝属家三人衆! いざ尋常に勝負!!」
そう言うと、謙之信、スケさん、カクさんにむかって、それぞれ走り出した。
抜き身の日本刀が、キラリと光った。