「謙之信、スケさん、カクさん! 手練れです。気をつけて下さい」
俺は、思わず声が出てしまった。
三人が身構える。
「覚悟しろーー!! 俺達は、肝属兼続様に次ぐ実力者だー!!」
「えっ?? あんたら、その見た目で、兼続より弱いの??」
「き、きさまー!! 兼続様を呼び捨てにするなーー!! 兼続様は肝属家で一番強い至高のお方よ。当たり前だろーが!!」
確かにそうだ。
強いからこそのボスなのだろう。
「でも、兼続様なら昨日やっつけましたよ」
「ば、ばかやろー! この豚ーー!! てめーらは不意打ちのうえ二人がかりと聞いているぞ。きたねー真似しやあがって!!」
しまったなあ、見た目が恐ろしいから手練れなんて言ってしまったよ。
「おりゃああーーっ」
肝属家三人衆が謙之信とスケさん、カクさんに襲いかかった。
「!?」
「嘘だろ!! あの三人が一撃かよ!!」
「あ、あいつら、無茶苦茶つえーんじゃねーのか?」
兼続の配下がざわめいている。
「ええーい、ひけーー!! 山頂まで引くんだーー!!」
重臣の薬丸が叫んだ。
「待てーー!!」
謙之信とスケさんとカクさんが、逃げる兼続の配下を追いかけようとした。
「追いかけないで下さい! 薬丸の逃げ方がどうにもあやしい。何か仕掛けていると思います」
「ふふふ、わかりました」
「ゆっくり行きましょう」
すでにあたりは暗くなっていたが、山頂に近づけば近づくほど、かがり火が多くなり明るくなっている。
兼続は何を仕込んでいるのだろうか。
右手に建物が見えてきたが、ここにはかがり火が無い。
さらに進むと左手に、広いスペースが見えてきた。
恐らく駐車場だろう。ここもかがり火は無く暗くて何も見えない。
かがり火が大量に用意されているのは、背の高い立派な展望台の前の広場のような場所だ。
「ぎゃははは、馬鹿が来やあがったか!!」
兼続が、展望台の一階の屋根の上で大笑いしている。
兼続の配下は広く中央を開けて、展望台の前に整列している。
「……」
謙之信とスケさん、カクさんが無言で前に進み出た。
「せっかくだからよー、全員仲良く前に来い」
兼続が言った。
罠とはわかっているが、行かなきゃ始まりそうに無いので素直に前に進む。
広場の中央には噴水が有り、俺達が噴水に近づいた時。
「馬鹿が!!」
兼続が吐き捨てるように言うと、兼続の横で隠れていた兵士達が立ち上がった。
「なるほど!」
つい声が出てしまった。
兼続の配下達の手には銃器が装備されている。
機関銃を持っている者までいる。
きっと、宝物のようにしまってあった物だろう。
同士討ちを避けるため、俺達の正面だけに兵士が隠れている。
塹壕も何も無いこの場所では、狙い撃ちにされてお終いだ。
「ちと、女はおしいが,しね」
兼続は静かに言った。
銃が一斉に火を噴く。
白煙がオレンジ色に染まりながら広がり、敵兵の姿を見えなくした。
乾いた銃の音を聞いていると、何だか催眠術のように俺の意識を別の世界に運んでいるような、不思議な感覚になった。
まわりから音が消え、まわりが暗黒になって何も見えないし音も聞こえなくなった。
――何だこれは? 俺はまさか撃たれて死んだのか?
いやいやそれは無い。
銃弾はミサがバリヤで防いでいるはずだ。
それに蜂蜜さんも働いてくれているはずだ。
俺は真っ暗な空間で静かにまわりを見た。
少し高いところに光の点が見える。
「な、何なんだ!! 何なんだこれはーー!!!!」
兼続の叫びで、俺のトリップは終わった。「何なんだこれはーー!!」は俺が言いたいよ。
来世でも見えたのかー?
「すごいです。いったい何が起きているのですか??」
久遠さんが俺の耳元でささやいた。
銃弾が全て空中で止まり、金色の蜘蛛の糸のような物が所々でかがり火をピカピカ反射している。そんな状態になっている。
「さあ、何が起きているのでしょうね」
俺はとぼけて、手のひらを前に出しそれを握った。
その瞬間、弾丸が消えて無くなった。
「は、八兵衛さん。す、すごい。すごすぎる」
久遠さんが少し興奮しているのか、首筋に強い鼻息を感じる。
「兼続様ーー!! 足りませんよーー!! ドンドン撃って下さーい!! ドンドンドンドン撃ってくださーーい!!!!」
「くそったれーー!! 準備した分は全部使い尽くしたわ!! もうこれで、肝属家に残っている弾丸が半分になったわ!!!! いったい何をしやあがった」
「ふっふっふっ! では、今度はこちらから反撃させてもらいますね。ここまで約束をまもって三人で戦ってきましたが、兼続様は約束を破って全員に攻撃しました。ここからはパンツとおっぱいも参加させます。文句はありませんね」
「はーーっ!!!! なにがパンツとおっぱいですかーーー!!!!!!」
文句は響子さんとカノンちゃん、そしてミサから出た。
「くくくくくっ」
背中で久遠さんが揺れている。
笑いを我慢しているようだ。
この状況で笑えるとは久遠さんもわかってきたようだ。
でも、油断はしないで下さいよ。
兼続はまだまだ悪だくみを用意しているかもしれません。
「オイサスト! シュヴァイン!」
青いアンナメーダーマンが、全員そろって兼続の配下にむかって走りだした。
銃による攻撃はもう無いようだが、いぜんとして配下が千人以上いる。
テレビドラマでも無いような敵の数だ。
「うわあああああああーーーーーーーー!!!!!!」
喚声が上がった。
「久遠さんも参加しますか?」
「うふふ、やめておきますわ。足手まといになるといけませんから」
言い終わると、久遠さんは俺の背中に体を預け密着してきた。
「おい、俺達は、あの豚を殺すぞ!!」
「おおそうだ。あの弱そうな豚を殺せーー!!!!」
兵士の一団が、後ろから現れた。
さっき倒した敵が息を吹き返して、坂を登って来たようだ。
「やっと、出番が来たようニャ」
「うお、忍者だ!!!!」
「忍者が出て来たぞ!!!!」
アド達が姿を現した。
「全員、蹴散らすニャ!!」
「はっ!!」
忍者隊が、後方の敵に戦いを挑んだ。
「すごい、すごい。忍者なんて初めて見ました。まだ残っていたのですねえ。恐ろしく強いです。一人可愛い子猫ちゃんがいます」
久遠さんが、忍者の登場にはしゃいでいる。
「あれは、アドと言って忍者のおさなのですよ」
「くっ、くそおーーーーっ!!!! て、てめーらは化けもんかーー!!」
兼続が夜空に向って吠えた。
兼続の配下は、もうまともに立っている者がいなくなっている。
「スケさん、カクさん。もう良いでしょう」
「しずまれーーー!!!! しずまれーーーーー!!!!」
掛け声を聞くと、次々動きを止めていく。
すげーなー。日本人だよなーー。
この状態でこの掛け声を聞くと、動きを止めちゃうんだよなーー。日本人は。