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0322 霧島の美女会議

「さあ、出発しますよ」


朝食を済ませて、しばらく休んだ後に久美子さんが声をかけた。

全員が荷物を持って歩き出す。

荷物はお飾りだが、手ぶらではおかしいので手荷物は持つ事にした。

だが、久遠さんは突っ立ったまま動こうとしない。

俺は久遠さんの方をみた。


「八兵衛! あなたは私の、ぶ……馬でしょ!」


あきらかに豚と言おうとしましたよね。

俺は両手に荷物を持っている。おんぶは出来ない。

仕方が無いので、荷物を大きめのバックパックに替えて、体の前に持ち両手をフリーにして、背中に久遠さんをおぶった。

バックパックを背中にして、お姫様抱っこにしようかとも思ったが、それは新婚さんみたいだからやめた。


久遠さんは無言のまま、当たり前の様に背中に乗った。

無人の街を過ぎると、川の手前に関所が設けられている。

ここを過ぎると道は山の中に消えている。


「止まれーー!!」


「お役目ご苦労様です」


「おお、久美子様!!」


「通らせてもらうわ」


「それは、よろしいのですが……」


「どうしました」


「この橋を越えると、肝属家の領地となります」


「知っていますよ。そんな事は」


「はあ、ならばよろしいのですが……」


うーーん、歯切れが悪い。何か言いたい事があるようだが、言い出せないようだ。

誰か深掘りして聞いてくれないかなあ


「あのー。何か、問題でもあるのですか?」


さ、さすがは、ミサだ。ナイスタイミング。

って、あいつは俺の心を読んだだけだな。

てへぺろ、頭こつんって、かわいいなあおい。

そんで、赤くなるんじゃ無い。


「はい。肝属家は、もともとゴロツキ達がおこした国です。今も中身は変わっていません。これだけ綺麗な女性が領地に入れば、必ず良からぬ事をしてきます」


「私は、島津の当主の姪ですよ」


「それが通れば良いのですが、全員死んでしまえば死人に口なしです」


「なっ!!」


これには、俺の背中の久遠さんが驚いている。


「ふふふ、もとより覚悟の上です。むしろそのよからぬ事をされに行くのです」


「えっ!?」


番兵と久遠さんが同時に声を上げた。


「久遠さん、引き返しますか? ここから先は地獄の一丁目です」


久美子さんが意地の悪い笑顔をした。

この子、こういう顔がとっても似合うなあ。本職じゃ無いのか。

あーっ! ミサに、にらまれた。

さーせん! 失礼な事を考えすぎました。

って、お前も人の心読むんじゃねーよ。


「いいえ、私も安東常久の娘です。島津の生け贄になる事が出来るのなら本望です」


久遠さんは全てを理解したつもりになっているようだ。

どうやら、肝属家に殺される生け贄と考えたようだ。

それが、島津家と肝属家の戦争の火種になると考えたのだろう。

だが、戦いの火種になるつもりなのは同じだが、戦うのは俺達自身だ。まあ、勝つか負けるかは時の運だが、負けそうなら俺が生け贄になり全員を逃がすつもりだ。


「では、通してもらいます」


「どうぞ」


番兵は道を開けて、頭を下げたまま通してくれた。

小さな川なのですぐに橋は渡り終える。

肝属家の関所は、さらに進んだ山を越えたところにあった。

ここだと、島津家からは全く見えない。

よからぬ事をするにはもってこいだ。


「げへへへ」

「ぐひひひ」


山賊の追い剥ぎのような奴らが、行く手を阻んだ。

下品な笑いを浮かべながら近づいて来る。


「おい、べっぴんさん、何の用だ」


「はい、私達は島津家の者で、豊前まで陣中見舞いです」


「ほう、体でご奉仕ってやつか」

「ひひひひ」

「げひひひひ」


あーっ、こいつら最悪だ。

門番の言う事を聞いて、引き返せば良かった。


「えっ!?」


ミサが驚いて俺の顔を見て、青くなっている。

だってみて見ろよ、どいつもこいつも山賊にしか見えんぞ。

滅茶苦茶こえーだろー。


「あの、通してもらってよろしいですか?」


「そうはいかねえ。まずは身体検査だ。パンツの中まで調べる」

「ひひひ」

「ぐへへへへ」


「おっと!!」


久美子さんが後ろを見た。

そのとたん男達が、道の後ろをふさいだ。

完全に囲まれてしまった。

関所には五十人ほど詰めていたようだ。

前方にドライブインの様な建物があり、そこにいたようだ。


「八兵衛、囲まれてしまいました。うっ……」


背中で久遠さんが、ガタガタ震えながら俺の耳元で小さな声で言った。

どうやら泣いているようだ。

筑前であんなことがあったばかりだ無理もない。


「大丈夫ですよ。十田一族は、驚くほど強いです。安心してみていて下さい」


俺がそう言うと、ミサが落ち着きを取り戻した。


「すげーー、食い物が一杯入っているぞ」

「馬鹿ヤロー、この女を見ろ美女過ぎるぞ」

「でけーー! でけーーー!」


山賊達が大喜びだ。


「お前達は、本当に肝属家の番兵なのか?」


謙之信が荒い口調で言った。


「それ以外に、何に見えるって言うんだ」


「山賊だ!!」


謙之信があきれたようにいった。


「ぎゃはははは」

「バカヤロー笑っているんじゃねえ!! まあ、そう見えるかもしれねえが俺達は歴とした肝属兼続様の家臣だ。反抗すれば関所破りの重罪人だ。大人しくして置いた方が身のためだぜ」


「こ、これが、島津家の通行手形です。これで、通していただけないのなら、ルール違反はあなた達です」


久美子さんが震える手で手形を見せた。

だが、頭と呼ばれた男はルール違反と言う言葉が気に入らなかったのか、ゆでだこのような顔になり大声を出した。


「いいか、よくきけーー!! ここじゃあなあ!! 俺がルールなんだよ。だまってされるがままになりゃあがれ!!!!」


「なっ!?」


「女は全員裸にしろ! 一番いい女は兼続様に後は俺達の自由だ」


「か、頭! 一番いい女はどれですか? わかりません」


「ば、ばっきゃあろー! そんなもん……????」


「でしょーー!」


「くそー! こう言うときは消去法だ。手形女と、豚の背中はそろってブスだ」


いやいや、いやいやいや、そろって美人ですよ。

まあ、この三人が、美し過ぎるだけですよ。

久美子さんの拳がプルプル震えている。

見て見ろ、顔も目が吊り上がっちゃってるぜ。

俺は知らんからな。


「兼続様は、巨乳はどうだった?」


「たしか、大好物だったかと」


「ふむ、子供はどうだ超美少女だ」


「好物だと思いますが、倫理的どうかと」


「あー、カノンちゃん……その美少女は、こう見えて十八才を越えていますよ」


「なにーー!! 合法じゃねえか」


「こ、こら!! 八兵衛さん、何を言うのですか!!」


響子さんにたしなめられてしまった。


「だって、誰が一番に選ばれるか興味があるじゃないですかー」


賊達は、一生懸命相談を始めた。

さしずめ霧島の美女会議と言うところだろう。

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