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0321 優しい人達

屋上で五人のおじさんに見送られて、目の前の国道十号線をまずは霧島目指して徒歩の旅だ。

右を見ても左を見ても美女で、ほんのりハーレム気分だ。

だがよう、ハーレムってうれしいか。俺ははなはだ疑問である。


金や権力で集めた女に囲まれてうれしいかねー?

無理矢理家族と引き離されたりした女性達は、憎んでいるのじゃ無いかなあ。

自分を憎んだり、嫌っていたり、悲しんでいたりする女性に囲まれるのは、俺は嫌だけどなあ。

美女は幸せそうな笑顔をしている時が一番美しい。

それを誰にも内緒で作り出し、見守っていられる男になりたいものだ。


「おーーい!! 久美子ー!」


海岸線で潮風を感じながら、歩いていると後ろで呼ぶ声がする。

声の方を見ると、赤い機動陸鎧天夕改が近づいてくる。


「あれは豊久兄様だわ」


豊久の天夕改はオリジナルの特別性だ。

島津家の家紋が前立て物として額に付けてある。

これを、新たに新造してプレゼントした。

まあ、北海道国軍撃退の褒美だ。


「久美子、この旅に一人御供を加えてくれ」


天夕改から、豊久と共に一人の女性が降りてきた。

うわあ! 目つきが悪い。

最初にあったときの久美子さんみたいだ。

だが、整った顔はしている。誰なんだろうか?


「私は、安東久遠。安東常久の娘です」


あんどうくおんさんか、家族を失った傷心旅行という訳か。

いや、まて、この旅はそんな生やさしいものじゃないぞ。


「豊久様、この旅は危険です」


俺は思わず口を挟んでしまった。


「あなたは?」


久遠さんが、汚い物を見るような目で俺を見た。


「はい、私は使用人の八兵衛です」


「下郎が、主人の許しも無く勝手に口を開くな!!」


久遠さんが、嫌悪の表情で言った。

何て酷い言われようだろう。

きっと、この人は心が壊れてしまっているのだろう。

家族を失っていればそうなるのだろうね。しょうが無い。

何とか、笑顔をとりもどしたいものだな。


「なっ!!!!!」


あ、全員が眉毛をつり上げて声を上げた。

怒ってらっしゃる。

久美子さんの顔が久遠さんの顔と同じに見える。


「こ、このか……」


久美子さんが言おうとしたので、俺は首を振った。

俺の心は悲しさで一杯になっている。

と言う事は自分では見えないが悲しげな表情だ。

きっと、気持ちの悪い豚の化け物の様な顔になっているはずだ。


久美子さんが驚いた顔をして硬直している。

そして、久遠さんは吐くのを我慢しているように手で口を押さえた。


豊久が久美子さんの耳元で何かをささやいた。

その小声は、俺と久遠さんには聞こえなかったが、久美子さん一行には聞こえたようだ。全員がうなずいている。

豊久は俺にこくりとうなずいた。

俺の身分は久遠さんには内緒にすると言う事だろう。


まあ、俺もそのつもりだ。

この状態で、久遠さんの心を優しく溶かさないと意味が無い。

ふふ、木田の大殿である。ははーーでは無意味だ。

俺は常久が、「大殿! 久遠を、娘をどうかよろしくお願いします」と言ったように聞こえた。

下手をすれば自殺すら考えそうな心情だろう、甘やかす気は無いが立ち直る手伝いをしなければと考えた。


「久遠さん、私の御供は加賀で配下にした十田一族です。私の横にいるのがリーダーの十田謙之信です」


十田謙之信とは上杉謙信のことだ。


「まあ、背が高くて美しい方ですね。私の夫に少し似ています」


そう言うと、暗い顔をしてうつむいた。


「えーと、その横が、十田格之進、通称カクさん。その横が十田助三郎、通称スケさん。そしてその横が、十田響子さんと娘のカノンちゃんです。最後に十田ミサさんです」


久遠さんが顔を上げて、全員の顔を順番に見ていきます。

目が合うと、一人ずつ深く頭を下げた。


「どういうこと。いい男と超美人しかいないわ」


「まあ」


響子さんとカノンちゃんが赤くなった。

親子だなあ、仕草がそっくりだ。


「あっ、忘れていました。使用人の八兵衛です。そして姿を隠していますが、忍びの者が数人います」


久遠さんがキョロキョロしますが、当然姿は見えません。

気配すら感じません。

でも、アドとフォリスさん、カンリ一族の者、古賀忍軍の者数名がいるはずだ。


「八兵衛!!」


「はっ、はい」


「歩くのがおっくうじゃ、背中をかしなさい!」


「えっ!?」


「使用人が、聞き返すものではない。返事はハイじゃ」


「は、はい」


俺は、仕方が無いので久遠さんをおんぶした。


しばらくは右手に海が続き、後ろには桜島が見える。

実は俺は、皆には内緒にしているがオタクだ。

外を出歩くのはあまり好きではない。

家でゴソゴソしている方が楽しい。


だが、そんな俺でも「すげー!! なんて景色だ!!」と感動している。

なんだか、すごく夏休み感がある。まあ春なんですが、そんな感じがすると言う事だ。

響子さんとカノンちゃんも道から体を乗り出し何度も海を見て、桜島を見ている。

どうやら、はしゃいでいるようだ。

ミサは、風に髪を揺らしながら、歩く度に木田家一の胸を揺らしている。顔はすました美人顔だが胸は、はしゃいでいるようだ。


俺が心の中ではしゃいでいると、背中に濡れている感触がある。


「あ、あの。大丈夫ですか?」


「う、うるさい。下郎が話しかけるな!!」


どうやら、久遠さんからは、心底嫌われているようだ。

まあ、豚顔は治る事はないので好きになるのは無理でも、はやく慣れてほしいなあ。


初日は、海岸線を抜けたところにある開けた場所に、宿舎を出して休む事にした。

俺は黄色いジャージに着替えると、腹の大きな白いポケットから宿舎をだした。


「な、何これ、すごい!!」


「あー、私はこう見えて未来から来た豚型ロボットなので、出来て当たり前です。全然すごくありません」


ちょっと、青いヤツの声真似をして言ってみた。


「あっ、そう」


我に返ったのか、久遠さんが通常モードに戻ってしまった。

せっかく可愛かったのに失敗した。

豚型ロボットが駄目だったのかな。それとも声真似が似ていなかったからなのか。


宿舎は個室にして、部屋風呂にした。

俺も実は温泉とか、大勢の人と風呂に入るのが嫌いだ。

しかし、入れ無い事はない。

だが、謙之信とスケさんとカクさんは何だか事情があるようで、一人でしか入らない。

人数が少ないときは、個室にするようにしている。


だが、食事は別だ、大勢の方がうまい。

今日はお外でバーベキューだ。

全員はしゃいでくれている。

いや、一名集団から離れて、さみしげな人がいる。

まあ、皿は山盛りにしているので、少なくとも飢死する事は無いだろう。

皆、気が付いているようだが、今はそっとしている。

優しい人達だ。

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