「あいつらが、来る前に報告があるニャ」
アドは、宿舎から出て来て眠そうにしている、薄着のミサを見て言った。
「ほう、興味深いな。最新情報というわけだな」
「二つあるけど、どっちも中途半端ニャ。いと、にが有るけど、どっちから先がいいニャ?」
「じゃあ、い、から頼むかな」
「では、私から報告します」
姿を消していた、古賀忍軍い組の組頭桃井さんが姿を見せた。
なるほどそれで、い、か。
「組頭みずからとは、それほど重要なのですか?」
「はい。筑前の戦いで、安東常久様の奥方様とお嬢様を救出いたしました」
「そっ、それは、中途半端ではなく、素晴らしい報告じゃ無いですか!!」
「きゃああああーーー!!!!!」
――あっ! やべーー!!
つい、うれしくて桃井さんを抱きしめてしまった。
しかし、そんなに大声を出して拒絶しなくてもいいのになあ。
確かに豚顔でデブな、どこを取っても醜いオタクのおっさんですが、そこまで拒絶されると傷つくなあ。
「それはセクハラにゃ!!」
「桃井さんすみません。ついうれしすぎて、しでかしました。反省しています」
「い、いいえ。うれしすぎて……いえ、私こそ驚きすぎました。申し訳ありません」
桃井さんは、赤い顔をして恥ずかしそうにしている。
「でも、それなら良い知らせではありませんか、中途半端というのはどういうことですか?」
「はい。お嬢様の旦那様と、その息子様、常久様から見ればお孫さんをお救いできませんでした」
「なるほど、男はその場で処刑されますから……そうですか」
どうやら、奥さんと娘さんを広島へ送られる途中で救い出してくれたようだ。
きっと、少人数だったはずだから救出は、とてつもなく大変だったはずだ。
「申し訳ありません」
にもかかわらず、暗い顔で頭を下げている。
「謝らないで下さい。よくやって下さいました。俺は桃井さんの優秀さに心から感謝しています。桃井さんで無ければ救出だって難しかったはずです。きっと常久殿も喜ぶ事でしょう。アド、この事は常久殿には伝えたのですか?」
「もう、引き合わせたニャ」
「うん、さすがはアドだ」
俺は桃井さんの代わりに、アドを抱きしめて頭を撫でた。
アドが目を細めてうれしそうにしている。
その状態で、桃井さんを見て笑顔でうなずいた。
何だか桃井さんが、手を前に出して指がワキワキ動いている。
え、どうゆうこと?
「赤穂、次はお前ニャ」
「はっ」
古賀忍軍に組の組頭赤穂さんが姿を現した。
そのかわりに桃井さんが姿を消した。
「北海道に新たに独立国が誕生しました」
「何だって! いったいどこに」
「はい。函館五稜郭です。首相は榎本武揚を名のっています。陸軍大臣は土方歳三を名のっています」
「なるほど、新たな国の出現は厄介だが、これで北海道は三国鼎立時代に突入したと言う事か」
「はい」
「そうですか、悪いような、良いような、微妙な話ですね」
「だから、最初からそう言っているニャ」
「赤穂さん、わざわざ遠くからありがとうございます。それでゲンは何と言っていますか?」
「はい。『戦いは膠着状態になる。ここは動かず、防御に徹して農業中心で進める』と言われました」
「さすがゲンだ。人手が足りないようならアリスを優先して投入する。必要数を言って欲しいと伝えて下さい」
「はい」
赤穂さんは、赤い顔をしてうつむいた。
「そう言えば、豊久が言っていましたが、四人で四万もの北海道軍と戦ったのですか?」
「あっ! その件でしたら、私は姿を消していましたので実質は三人です」
「全くゲンは無茶をする。姿を消していたとはいえ、恐かったでしょう?」
「いいえ。その様な事は全くありませんでした」
「大殿!!!!!」
突然、後ろから声がした。
屋上に、島津四兄弟と安東常久殿が来ていた。
常久殿が薄ら涙を浮かべている。
「あっ、ありがとうございました!!」
常久殿が深々と頭を下げている。
「息子さんと、お孫さんは残念だった」
「いいえ。あの敵ばかりの中で家内と娘を助けるのは、さぞかし大変だったでしょう。察するに余りあります。感謝しかありません」
常久殿は深々と頭を下げたまま、ずっと動きを止めている。
「そう言ってもらえれば、配下も報われる思いであろう」
もういないかもしれないが、桃井さんが消えたあたりを見て、肩の有ったあたりをポンポンと叩いてみた。
あっ、なにか柔らかい物にあたった。
「……そ、そこは……胸です」
恥ずかしそうな小さな声が聞こえた。
――ぎゃあああああーーー!!
またやってしまったーー。
俺は何てことをしてしまったんだー、とんだセクハラ野郎だよーー。泣けるぜ!!
「しかし、凄いものですなー。銀色の鎧が朝日を反射して、まぶしい。肥後の戦場が思い浮かびます」
家久が目を細めて、銀色の具足を見つめている。
「こらこら、次の戦は俺が出陣する。今度は家久と歳久が留守番だ」
義弘がニヤリと笑った。
「おーーーい! いつまでそこにいるんだよーー!! そろそろいくよーー」
宿舎の前から、ミサが呼んだ。
ここに来る気は無いようだ。
「食事は終ったのかーー?」
「終ったよーー」
俺は屋上から降りると、島津久美子御一行に合流した。