「ぐあああーーー」
兵士が住民に剣を刺した。
「おい、やめねえか!! 俺達の仕事は食糧調達だ! 住民を無駄に殺すんじゃねえ! 全くよう、四国の連中は自分たちがやられた事を九州で仕返しをしやあがる。仕方がねえ奴らだ」
どうやら俺達は、新政府軍の乱取りの連中に出会ったようだ。
俺は、田植えのめどが立ったので久美子さんの案内で九州の前線に来ている。
前線には雄藩連合軍として、島津家の歳久、家久兄弟が兵千五百人ずつで参加している。
この島津家久殿が久美子さんの父親なので、その手助けをするつもりで来たのだ。
「よーし、リヤカーが一杯になったらすぐに運べーー!! ふふふ、今回も大量だなあ。他の者はリヤカーが帰って来るまで休憩だーー!! 暇なら次の分を探しておけーー!! 住民は殺すなよ! 逃がしてやれ!」
この声はどこかで聞いた事がある。
俺達は、町の建物の屋根に隠れてこの様子を見ている。
俺以外は姿を消しているが、俺だけは黒いジャージと黒いヘルメットで、夜の闇に紛れている。
「おおと……シュウさん、あれは……」
どうやら、カクさんも気が付いたようだ。
いや、響子さんもカノンちゃんもスケさんも気が付いたようだ。目がウルウルしている。懐かしい。
同行者はこの他に、上杉謙信、ミサ、フォリスさん、久美子さんだ。
フォリスさんは見た目がアンドロイドなので、目立ちすぎるため普段は姿を消してもらっている。
アドとオオエも古賀忍軍も数名は来ているはずだが、この人達は隠密だ。俺達の前ですら呼ばないと姿を現わさない。
そして九州では、木田とう、というのを隠すため、久美子さんの家来の十田シュウという名で通す事にした。
そのため、全員名字を十田として、上杉謙信だけは、十田謙之信と言う名前にした。
「爺さん!! まだしぶとく生きていたのか?」
俺は新政府軍の乱取りの隊長に声をかけた。
配下の若い兵士が武器をかまえ、俺に襲いかかろうとした。
「やめねえか!! この人は俺達の命の恩人だ!!」
ブルが武器を構える兵士達の頭を軽く叩いた。
ブルはすぐに俺が誰だかわかった様だ。目に涙をためて一礼した。
配下の兵士が数十人いる。
「うおおおおおおおおおーーーーーーーー!!!!! あんちゃん!! そ、それは、こっちのセリフだーーーー!!!! 生きていたのかーー!!」
「金城爺さん!! お久しぶり!!」
「お爺さん!! お久しぶりです!!」
四人がそれぞれ爺さんにあいさつをした。
「おお、スケさん、カクさん、カノンちゃん?? この子は誰じゃ?」
「嫌ですわ。私が響子で、カノンがこの子です」
爺さんは響子さんをカノンちゃんと間違えていたようだ。
「この子がカノンちゃんだと!? こんなに小さかったかのう?」
スケさんもカクさんも響子さん、カノンちゃん、そしてミサも、熊野の神域の力で5~6才ほど若返っている。
カノンちゃんは今や中学一年生か小学六年生くらいの美少女にしか見えない。
「うふふ、女は三日会わなければ、若返るといいますわ」
「そうか、そうじゃのう。爺になってボケたのかもしれん。爺は三日で何でも忘れてしまうからなあ」
「爺さんは、相変わらず食糧調達か?」
「おお、そうじゃ。九州は豊だ。大量に調達出来る。おかげで出世して、今や中尉様じゃ! こいつらは四国で徴兵した新兵達だ。全員十二才と言っているがそれ以下の子供達だろう。可哀想だからわしが配下にした」
新政府は、男は兵隊、女は城へ、子供は放置する。
新政府は十二才から成人として扱うため、男は十二才にならない子供が十二才と言って兵士になり、女は十二才を越えていても十一才と言って連れて行かれないようにする。
「そうか、爺さんが新政府軍にいてよかった」
爺さんは、あきらかに若い子供達を自分の隊に拾い上げているようだ。
「あんちゃんは、こんな所で何をしているのじゃ?」
「話せば長くなります」
俺は、目で兵士を見て人払いをしてほしいと伝えた。
「うむ、そうじゃのう。立ち話もなんじゃ、茶でも出そう。こっちじゃ」
一軒の立派なビルの応接室に案内された。
爺さんは椅子に座り、全員の前にお茶が出そろうと、人払いをして俺達だけにしてくれた。
「俺は、逃げる途中大けがをおって川に落ちたんだ。そのおかげか、見つかる事無く生き延びた。そして、たまたま居合わせた、この女性久美子さんに助けられたんだ。それから、久美子さんの使用人になっている」
「ほお、そうだったのか」
爺さんはさっきから上の空だ。俺の話はどうでもいいようだ。
視線が、ミサの胸しか見ていない。完全に固定されている。
ミサはそれが分っているのか、何この爺!! という表情をしている。
「この人は、ミサさんだ」
「おおっ!! 美しいのう。金はある。どうじゃ?」
だめだーー!!
この爺、エロ爺だったーー。
爺さん胸じゃ無くて、顔、顔を見るんだー。
こえー顔をしているぞー鬼の顔だ。
「申し訳ありませーーん。今晩のお相手はすでに決まっていまーーす。ねえシュウさん」
ミサの目が冷たい。
嫌悪の目だ。ミサがこわーい。
あっ、ミサがこっちを見た。しまった!! こいつ心の声を聞く事が出来るんだった。俺にも怒っているようだ。とんだとばっちりだよー。
「な、なにっ! シュウというのが相手か! うらやましいのう」
シュ、シュウって俺じゃねえか。やめろよなーそういう冗談。
爺さんの視線が久美子さんに移った。
顔がやらしい。
こ、この爺、恥も外聞もないなー。
いっそ、清々しい。うらやましいぜ。
「この方は、島津久美子さんだ!」
「なに! 島津だと!!」
爺さんの顔が一瞬で険しくなった。
「はい」
久美子さんが、返事をした。
「まさか、雄藩連合軍の薩摩島津家の家中の者か?」
「そうだ。家中どころか島津家久様の娘さんだ」
「なんと!!」
「爺さんどうする」
「どうもせんさ。あんちゃんの命の恩人なら、わしの恩人と同じだ。ありがとう」
爺さんはここがチャンスと、久美子さんの右手を両手で握った。
そして、鼻の下をのばして赤い顔をしている。
久美子さんの顔がみるみる嫌悪の表情に変わる。
やめろよなー、じゃじゃ馬を怒らすのはよう。
「お爺さま……」
久美子さんが爺さんの手のひらを左手でつねった。
「いだだだだ! おおそうだ!! こんなことをしている場合じゃ無いぞ。大変じゃ!!」
爺さんが真面目な顔をして俺達を見た。