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東部最大のギルド集団・白亜の暗部


 シェリーと翡翠、そしてモモカは、凛九の同業仲間ということになった。彼が機転を利かせたのだ。



「見て分かるだろ!大がかりな移動基地、それに形は個性的だが、ロボットみたいなやつ、……」


「モモカは人工知能なのです、ロボットではないのです」


「とにかくだ。お前達、注意喚起は忘れたか?こんな時間に出歩くな。ここは、俺達みたいな人間の溜まり場だ。今日とてやつらを一日も早く掃除する作戦を練るんだよ」



 凛九の嘘に、村人達は納得した。彼らはシェリー達に詫びて、慇懃に感謝や要求を残していった。


 雨が降ればひとたまりもないような各々の家に戻っていった彼らを見届けると、シェリー達は大男に付いて酒場に入った。


 中では、彼の仲間──…つまり白亜の暗部のメンバーが、賑やかな酒宴を始めていた。



「いらっしゃい!おや、女性連れかい?どっちがお前さんのこれだい?」



 彼の母親くらいの年端の店主が、凛九を席に案内しながらからかった。シェリー達も彼女に一礼する。三人がテーブルに着くと、注文を取りに来たオーナーに、彼が「いつもの」と愛想のいい笑顔を向けた。



「はいよ。姉さん達は?」


「えっと……」



 シェリー達がお品書きに目を通していると、奥でジョッキを傾けていた青年が、声を張り上げてきた。



「好きなの頼みな!ボスが奢ってくれるから!」


「お前……っ、そんなことは言っていないぞ!」



 奥の色白な青年を、間髪入れず、凛九が咎めた。そんな二人に、客席中から温かな笑い声が上がる。


* * * * * * *


 結局、シェリーと翡翠は凛九達に馳走になった。二人とも、久し振りに苦しいくらい腹を満たした。揚げ物など何年振りかと考え込んだ翡翠に対して、シェリーは思い出すのも恐ろしくなると言って苦笑した。


 食事が終わると、酒の匂いをこれでもかと言わんばかりに振り撒きながら、体格のいい青年達が、新参者に注目した。



「本当のところ、君らは何?」


「村のやつらには黙ってるからさ、僕達には聞かせてよ」


「強いんだろう?!ボスから聞いたぜ!シェリーさん、あのザースの親父さんから斧奪ったんだってな!」


「なぁ、そんなに強いならさ──…」



 二次会にでも誘うような軽い調子で、一人の青年が声を潜めた。さっき奥でジョッキを傾けていた彼だ。内緒話の格好で、彼が続ける。



「僕達が手を焼いているロボット、倒してみない?」


「ヒロタ!」


「彼女達はそういうのじゃないって言ってるだろう!」



 青年の名前は、ヒロタというらしい。おそらくこの中では若年に入るヒロタは、仲間の抗議の対象になった。ただし、凛九はそこに加わらなかった。いつからか沈黙していた彼は、ヒロタの発言のあと、しばらく何か考えていた。



「いいな」


「え?」


「三人とも、今朝のネットニュースは見ただろう?」


「ええ」


「見たのです」


「なら、話は早い。ウチは今、日が暮れると下りてくる、ロボットの集団に苦戦している。普通じゃないんだ。シェリーさんや翡翠さんが何と戦ってきたかは知らないが、もしやつらを殲滅してくれれば、君達の望むことをしよう」


「どういうことですか?!」


「凛九?!」


「ボス!」



 一同は、今度は凛九に抗議し出した。


 だが彼の提案は、ともすればシェリー達の狙いを見抜いていたかのようだった。


 読まれていたなら、切り出すチャンスだ。


 シェリーは、凛九達に村を訪ねてきた経緯を話した。

 西への旅に必要な装備を整えたいこと、そのために採掘場へ行きたいが、今の移動基地では無理があること。…………



 白亜の暗部は、ざっと三十人前後いる。別の集団らしいと顔触れもいて、酒場もよく繁盛している。


 前者の三十人が、シェリー達の事情を知ると、凛九の思いつきに頷き出した。


 シェリー達はロボットを討つ。そして彼らは、鉱物を採掘する。


 利害一致の交換条件が成立した。


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