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おまけ

おまけ アイザック、苦悩は続くよどこまでも

 結婚式を挙げ、名実共に伴侶となったアイザックとリティス。

 その翌日は、昼食の時間が近付く頃にはじまった。

 目覚めたアイザックは、まず腕の中にいるリティスに視線を移す。

 彼女は、こちらの身じろぎにも気付くことなく眠っている。

 昨日は疲れただろうから、自然に起きるまで待つつもりだった。

 結婚式の一ヶ月前、薔薇庭園で会った時のことを思い出して、アイザックは静かに微笑んだ。

 リティスの挙動不審ぶりに、何があったのかはすぐに察することができた。

 夫婦の営みの詳細を知って恥ずかしがっているなんて、可愛すぎる。からかいたい気持ちを抑えるのに苦労した。

 ——妻が可愛すぎて困るのだが。

 しかも今は、愛おしいリティスが無防備に寝顔をさらしているのだ。

 アイザックの妻となったリティスが。

 妻。とてもよい響きではないか。

「ん……」

 リティスが何やらむにゃむにゃと寝言を呟く。可愛い。

 アイザックの胸元に頭を寄せる。可愛い。

 だが、可愛いばかりではないから困ってしまう。

 薄い夜着しか身に着けていないリティスは、魅力的すぎるのだ。

 絹の夜着のせいで体の曲線がくっきりと強調され、目に毒なほど。

 ——さすがに、連日無理をさせるわけには……。

 アイザックもリティスも初心者なのだ。

 男性側が欲望のまま振る舞うわけにはいかない。

 それでも、四六時中一緒にいたいという願望は止められない。

 公務も執務も全部無視して、ずっとこのままくっついていたい。何日でも、何ヶ月でも、何年でも。

 昨晩も、アイザックは欲望を抑えるのに必死だった。

 潤んだ深緑色の瞳、しっとりと上気した頬。どこもかしこも柔らかい体。

 アイザックに必死に応えようとする健気さも、名前を呼ぶ声の甘さも、何もかも愛おしくてたまらなかった。自制ができた自分を褒めてやりたい。

 とはいえ、今日は二人揃って休み。

 婚姻後三日は公休とされているから、もしかしたら連休中にもう一度……あわよくば二度……と、アイザックが邪なことを考えている時、リティスがぽかりと目を覚ました。

 寝ぼけているのか、視線が定まっていない。可愛い。何ということだ。奇跡か。

「アイザック様、おはようございます」

「あぁ。おはよう、リティス」

 起床して真っ先にリティスと挨拶を交わす幸福。これが新婚というものかと噛み締める。

「初夜は、無事に乗り越えました。これで、本当の夫婦になれました」

「あぁ」

「夫婦の営み、しっかりやり遂げることができて、本当によかった……」

「……うん?」

 やり遂げる、とはどういうことだろう。

 何も遂げていない。むしろこれからがはじまりで、夫婦の営みとは、愛のままに毎日でも何度でも求め合うことだと思っているのだが。

 ——いやいや。リティスはこれでも一応閨係をしていたのだ。何度も閨に呼ばれるということは、つまり何度も行為に及ぶものだと理解しているはず。

 だが、相手はリティスだ。

 閨での突飛な行動は数知れず。彼女の偏った知識を信用するには不安が残る。

 アイザックは確かめるために急いでリティスを見下ろし――がくっと項垂れた。

 やはり寝ぼけていたらしく、彼女は再び眠りについている。

 ——気になる……! だが、眠りを妨げるわけには……!

 愛らしい寝顔を前に、アイザックはしばらく煩悶するのだった。


 ……アイザックの苦悩は、この先も続く。


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