手毬 茉莉花(夜霞)
異世界恋愛ロマファン
2024年08月10日
公開日
28.1万字
連載中
長きに渡り戦争が続く二つの国。
身分社会の王政国家・ペルフェクト王国。
国民の代表たる議員によって成り立つ議会制の国・シュタルクヘルト共和国。
ペルフェクト王国軍の少将・オルキデア・アシャ・ラナンキュラスは、上官の命令で、自軍が破壊した敵国・シュタルクヘルト共和国の軍事施設と軍事医療施設跡にいた。
目的はこの地で捕虜となっていた自軍の兵士を解放することだった。
けれども捕虜となっていた自軍の兵士は、既に移送されており、残っていたのは医療施設で治療を受けていたシュタルクヘルト共和国軍の兵士と関係者ーーの死体だった。
そんな中、オルキデアは唯一の生存者を見つける。
菫色の瞳と藤色の髪を持った女性だったが、襲撃時の怪我とショックから記憶を失っていた。
そんな女性に「アリーシャ」と名付けて捕虜としたオルキデアだったが、とある事件に巻き込まれたのをきっかけにアリーシャに興味を持つ。
けれどもアリーシャは敵国の娘、オルキデアの好きには出来ない。
それならせめてアリーシャを国に帰そうとするが、頑なに帰りたがらず、とうとう部屋に引きこもってしまったのだった。
どうにかしてアリーシャを説得出来ないかと悩んでいたオルキデアの元に、突然、疎遠になっている母親が、縁組の話を持ってやって来たのだった。
「なあ、俺の妻と恋人、どっちがいい?」
縁組を回避するためにオルキデアが提案したのは、この国でのアリーシャの生活と引き換えにした「契約結婚」。
縁組の話と同時期に記憶を取り戻したアリーシャには、どうしても国に帰りたくない理由があるようだったーー。
一方シュタルクヘルト共和国では、襲撃の際にその場に居合わせていた、とある女性が行方不明となっていた。
その女性の名前は、アリサ・リリーベル・シュタルクヘルト。
今は廃止されたシュタルクヘルト共和国の王族の血を引く女性であったーー。
縁組回避から始まる契約結婚、そしてーー真実の愛。
これは「愛」を知る物語。
王道ファンタジー風の恋愛物語。
ロマンスファンタジーが好きな貴方へ。
※ゆっくり更新します。
※他サイトにも掲載中
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夜半になって、風向きが変わったようだった。
ダークブラウンの長めの髪が、火の粉を纏った風に吹かれて宙を舞う。
宵闇と同じ色をした軍服を纏った青年は、風に靡く長めの髪を手で払うと、濃い紫色の瞳で眼下をじっと見下ろした。
視線の先では、とある二棟の建物を目掛けて一方的な激しい銃撃と、建物を破壊する爆破の音が続いていた。
青年が腰に付けた通信無線機からは、繰り返される銃声音と、幾重にも重なった音の雨に掻き消されないように、喉がはち切れんばかりに攻撃を指示する指揮官の声が流れていた。
両者が交差して飛び交う様は、まるで一種の交響曲を奏でているようであり、ある種の戦場の華と言えるかもしれなかった。
そんな戦場を賑わす交響曲が絶えず腰から流れ続けており、高みから指示を出す青年はそれに聴き入っていたのだった。
「ラナンキュラス少将」
青年の後ろから、同じ色の軍服姿の部下が声を掛けてくる。
先程まで眼下の戦場で指揮を執っていた部下からは、硝煙と汗が混ざった不快な臭いがしていた。
「風向きが変わりました。ここにいては、我々も襲撃の巻き添えをくらいかねません」
「そうだな」
額に汗の玉を浮かべた部下に促されて、ラナンキュラス少将と呼ばれた青年は、もう一度、眼下に視線を向ける。
通信機からは銃声音と指揮官の声に紛れるように、微かに建物内の人々の泣き叫ぶ声が聞こえてくる気がした。
自分たちーーペルフェクト軍に向けられた恨みの声さえも。
「気のせいか」
「はっ?」
「いや、なんでもない」
それを冷たく一瞥すると、二人の青年はその場を後にしたのだった。
◆◆◆