「他にもあるぞ。どちらかが仕事で忙しい時や落ち込んでいる時は、もう一人が美味しい食事と温かい風呂を用意して笑顔で出迎える。
どちらかが寂しい時や悲しい時は、もう一人が話を聞く。励まさず、慰めなくていい。
ただ話を聞いて、側にいるだけでいい。とかな」
「そうだったのか……」
結婚前なら、「面倒な約束だな」と一言で終わらせるところだったが、今は違う。
お互いに相手を思いやる心、仕事ですれ違いそうな生活を送る二人にとって、その約束は常に相手について考えるきっかけとなるだろう。
「でも、一番はお互いに健康でいることだな。
セシリアは一度、流行病が悪化して入院した経験があるし、おれも軍人という職業柄、いつ戦場に駆り出されて、いつ死んでもおかしくない。
おれたち夫婦にとって、健康は何にも勝らない宝物だ」
「そうだな……」
クシャースラだけではない。
同じ軍人であるオルキデアも、いつ戦場に駆り出されて、いつ死んでもおかしくない。
きっと、アリーシャも親友夫婦と同じことを考えているだろう。オルキデア自身だってーー。
しんみりとした空気を感じたのか、「悪い。変な話を聞かせて」とクシャースラは話題を変える。
「それで、話したいことがあると言っていたが、アリーシャ嬢の件か?」
「お前たち二人にはアリーシャの移送時から世話になったし、これまで迷惑もかけたからな。報告といったところだ」
「報告ね。いつもの店でいいか?」
「ああ、知る人ぞ知る店だからな」
士官学生時代に戻ったように、二人は足取り早く行きつけの店に向かったのだった。