狼が涎を散らして疾駆する。
迫る狼の牙を躱し、私はカウンター気味に矢を放つ。殆ど零距離で射られた矢は狼の腹部に当たるが、貫くまでには至らない。野生を超えた魔性の動物であれば、まだ戦闘続行が可能な浅い傷だ。だけど、着地した狼は苦しそうに息を荒げ、足元をふらつかせていた。
狼は再び私に飛び掛かるが、その動きは精彩を欠いていた。あっさりと回避する。諦めず二度三度と狼は牙を剥くが、敏捷値極振りの私には届かない。段階ごとに狼は足に力が入らなくなっていき、やがて横に倒れた。
毒だ。【血紋の手袋】により矢には毒が塗られた状態になっていたのだ。魔術による毒なので時間経過で効果は消えてしまうが、それまでは本物同様に被毒者を蝕む。毒によって狼は体力を零にまで削り切られたのだ。
『二倉すのこのレベルが5に上がりました。パラメーターポイントが10ポイント付与されます。
条件:「戦士・弓兵の職業でレベル5に到達する」を達成。
スキル【
ファンファーレと共に機械音声が私のレベルアップを告げる。機械とはいえマナちゃんの声を耳にする度、私は何度でも幸福を覚える。次の音声を聞く為に無限に頑張ろうという気になれる。
今、私達はガタノソア遺跡に来ていた。
昨日の四本腕のゾンビと戦いの後、「もう無理」とすぐさま撤退したのだが、そこはVTuber。やられっぱなしではいられない。リベンジしなければ配信が盛り上がらない。
という訳で、今度こそ攻略しようとまたガタノソア遺跡にやってきたのだ。あの地下ダンジョンをクリアする為に。パーティーメンバーは私とマイとルトちゃんの三人。ロンちゃんは収録があるとの事で来られなかった。残念。
たった三人で挑むのは少々不安だが、今回は装備品も充実しているし回復アイテムもいっぱい持ってきた。だから、前回とは違う結果を残せる筈だ。
それに、
『ワールドニュース! ラトさんとテップさんのパーティーがボスエネミー【海月魔ロイ・ホワイト】を初討伐しました! ダンジョン「ゴツウド森・廃村エリア」の最速攻略者として記録されます!』
こういう事情もある。
このゲームでは特定のモンスターやダンジョンを最初に攻略すると、その功績を称えて簡易AIがゲーム中の全プレイヤーに告知する。一〇〇〇人のテストプレイヤーの先駆けになった事が周知されるのだ。配信者であれば自分のリスナーにもだ。これ程名誉欲を刺激される事はない。
ていうか、ラトとテップってあのPKコンビか。あの二人、PCの
私とマイが初めて戦闘した他PL。私が初めて勝利した相手。私が極振りの本気を出すきっかけとなった出来事。彼には少しだけどライバル意識がある。これはますます負けられない。私達も早くこのガタノソア遺跡をクリアして、ゲーム中に名前を喧伝しないと。