「んだテメー、そのザマは?」
「
「? そうかよ? ……まあいいや」
ラトのやや後ろにはあの筋肉男――テップがついてきていた。服飾品は増えているが、黒牛の面と開放感溢れる胸板は相変わらずだ。
「俺、VTuberを始めたんだ。こいつが
「へー。あ、可愛い」
ラトが親指で示した先には白いクラゲが浮いていた。生物そのものではなく、ぬいぐるみのクラゲだ。大分デフォルメがされていて、大変愛らしい。
「俺、もう登録者数四〇〇〇人超えているんだぜ。始めて五日間でこの数だ。どうだ、凄ぇだろ」
「四〇〇〇人! それは確かに凄いね」
「おうよ、俺は凄ぇんだ!」
あからさまに嬉々として豊満な胸を張るラト。
一八〇日前後も掛けて五〇人も集まらなかった私に比べれば破竹の勢いだ。このゲームをやっているからという理由もあろうが、彼も個人勢だろうに大した記録だ。
「お前に負けた日からお前を負かす事だけを考えて生きてきた。今日のイベントでは俺の配信で俺がお前に勝つ所を流してやる。覚悟しやがれ」
「そんなに私の事を……?」
成程、何をしに来たのかと思ったら宣戦布告に来たのか。
胸の奥に火の熱が灯る。普段は強い戦意なんて懐く私じゃないけど、彼は別だ。私が最初に戦った人間。私が最初に勝った相手。そんな彼に私はほんの少しだけライバル心を懐いてきた。
けれど、それは一方的なものだと思っていた。私が一人で彼をライバル視しているだけだと。
だというのに、そんな彼に「私を負かす事だけを考えていた」なんて言われた。そりゃあ戦意が燃え上がるというものだ。
「……いや、でも私は」
私はこれからゾヘドさんとの一大決戦をしなくてはならない。ラトに注力する訳にはいかないのだ。彼に悪いけど、今日は都合が悪いのだと告げようとする。しかし、
「お前が嫌だって言っても俺はお前に付き纏ってやるからな。お前が参加するミニゲームに逐一顔を突っ込んでやるぜ。……じゃあまた後でな」
私が何か言う前に、ラトはそう言い捨てて去ってしまった。
えー。ちょっとどうしようこれ。
「まあ、
「そうだね……まあ、仕方ないか」
ゾヘドさんとの戦いをメインにラトとも戦っていくしかないか。
そうと決まれば、気合を入れなくては。
「……それじゃあ、わたしは自分の
「あっ、うん! 頑張ってね!」
「……ん。すのこも頑張って」
マイから降りたルトちゃんも立ち去る。私もいい加減マイから降りて自分の足で立った。盛り上がっている雑踏に目を向け、足を進める。
「それじゃあ、イベント始めていこっか!」