瞼を開けた時に見えたのは、古びた洋館だった。
築何十年――否、様式の古風さからして既に何百年は経っていそうだ。崩れかけた壁には蔦が茂り、新たなオブジェと化している。窓ガラスはひび割れていて、屋内は吹き曝しになっているだろう。明らかに人が住んでいないと確信させる寂れっぷりだ。
下に視線を向ければ、私達が乗っているトロッコとレールが見えた。あのレールに従ってステージの中を巡るシステムなのだろう。
「ていうか、これって……」
空は真っ暗だ。時刻はまだ正午を過ぎた辺りの筈だけど、ここだけ夜だ。
蝙蝠が夜空を飛び交い、梟の声が静かに響く。屋敷の窓には白い煙のような人影がこちらを見ていた。玄関の扉に設置された髑髏のオブジェがカタカタと嗤い、どこからともなく子供の笑い声が聞こえてくる。
これって、
「……まあシューティングにお化けは定番か」
某バイオ災害ゲームもゾンビがいっぱい出てくるし。あれは正確には
……あれ? でもゾヘドさんってホラーが苦手だった筈だけど。良いのかな、こんなステージに連れて来ちゃって。
そう思ってゾヘドさんに目を向けると、案の定、彼女は大慌てだった。
「ちょっと待って待って待ってちょっと待って。私、知らない。こんな場所があるなんて知らない。打ち合わせにはなかったよ、こんなの! ちょっとマナ様! ねえ、聞いてない!」
説明を求めてマナちゃんの名前を叫ぶ。姿はここになくともこちらをモニタリングしているのだろう、虚空からマナちゃんの返答があった。
『言ってない! その反応が見たくて黙っていた!』
「マナ様ぁあああああっ!?」
ゾヘドさんの愕然が響き渡る。やっぱり何も知らされていなかったようだ。ゾヘドさんには可哀想だけど、同時にマナちゃんはグッジョブだ。ゾヘドさんは本当に良い悲鳴を聞かせてくれる。
『はい、それじゃあゲームスタート!』
「あああああマナ様待って帰らせてああああああああああ!」
ゾヘドさんの懇願も虚しくトロッコは動き出した。亡者溢るる廃洋館へと無慈悲に近付いていく。
……彼女には悪いけど、これはチャンスだ。彼女が怯えている内に