目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

#78 ホーンテッドハウス・シューティングゲーム

 瞼を開けた時に見えたのは、古びた洋館だった。

 築何十年――否、様式の古風さからして既に何百年は経っていそうだ。崩れかけた壁には蔦が茂り、新たなオブジェと化している。窓ガラスはひび割れていて、屋内は吹き曝しになっているだろう。明らかに人が住んでいないと確信させる寂れっぷりだ。

 下に視線を向ければ、私達が乗っているトロッコとレールが見えた。あのレールに従ってステージの中を巡るシステムなのだろう。


「ていうか、これって……」


 空は真っ暗だ。時刻はまだ正午を過ぎた辺りの筈だけど、ここだけ夜だ。

 蝙蝠が夜空を飛び交い、梟の声が静かに響く。屋敷の窓には白い煙のような人影がこちらを見ていた。玄関の扉に設置された髑髏のオブジェがカタカタと嗤い、どこからともなく子供の笑い声が聞こえてくる。

 これって、お化け屋敷ホーンテッドハウスという奴では?


「……まあシューティングにお化けは定番か」


 某バイオ災害ゲームもゾンビがいっぱい出てくるし。あれは正確には死者ゾンビじゃなくて生きた感染者だけど。

 ……あれ? でもゾヘドさんってホラーが苦手だった筈だけど。良いのかな、こんなステージに連れて来ちゃって。

 そう思ってゾヘドさんに目を向けると、案の定、彼女は大慌てだった。


「ちょっと待って待って待ってちょっと待って。私、知らない。こんな場所があるなんて知らない。打ち合わせにはなかったよ、こんなの! ちょっとマナ様! ねえ、聞いてない!」


 説明を求めてマナちゃんの名前を叫ぶ。姿はここになくともこちらをモニタリングしているのだろう、虚空からマナちゃんの返答があった。


『言ってない! その反応が見たくて黙っていた!』

「マナ様ぁあああああっ!?」


 ゾヘドさんの愕然が響き渡る。やっぱり何も知らされていなかったようだ。ゾヘドさんには可哀想だけど、同時にマナちゃんはグッジョブだ。ゾヘドさんは本当に良い悲鳴を聞かせてくれる。


『はい、それじゃあゲームスタート!』

「あああああマナ様待って帰らせてああああああああああ!」


 ゾヘドさんの懇願も虚しくトロッコは動き出した。亡者溢るる廃洋館へと無慈悲に近付いていく。

 ……彼女には悪いけど、これはチャンスだ。彼女が怯えている内にエネミーを倒しまくって得点を稼がなくては。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?