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#96 瑞加祷城の変

 瑞加祷みずかとう城の前まで行くのは難しい事ではない。場所は分かっているし、特段近付く事を禁止されている訳でもない。ただ常に衛兵が門や城壁を守護していて、中に入る事は出来ないようになっている。

 それが瑞加祷城の通常。けれど、緊急事態の今はそうではなかった。


「衛兵が倒されている……!?」


 門の左右に控えていた衛兵が力なく座り込み、柱に体重を預けていた。近寄ってみるが反応はない。死んでしまったのか、それとも意識がないだけか。


「……多分、大丈夫」


 私の心配を察したルトちゃんが言う。

 王城には私とマイ、ルトちゃんの三人で来ていた。いつものメンバーが一番力を発揮出来ると考えての事だ。他の人間にも声を掛けようかと思ったけど、チクタクマン社の機密に関わる事だし、知らない人に話し掛けるなんて怖かったからやめておいた。

 そういえば、ラトがいつの間にか相撲場所からいなくなっていたけど、どこに行ったのだろう。


「……NPCに死の概念は実装されていないの。だから、どれだけ怪我しても死なないよ」

「そっか。なら良い……のかな?」


 分からない。まあ不幸中の幸いというか、最悪の事態は免れていると思おう。


「倒されているって事ぁ倒した奴がいるって事だよな。それも、この城の中に」

「うん。誰かがここを押し通ろうとして一悶着あったんだと思う」


 一悶着。皆の視線が魔城兵に向かっている間に王城へ襲撃……か。


「もしかして、こっちが本命?」

「……多分。あの魔城兵キャッスルゴーレム達は囮だと思う」

「派手なデカブツで注意を引き付けて、その隙にって寸法かよ」


 開きっ放しの門を潜り抜け、エントランスホールに入る。ホールは死屍累々だった。数十人もの衛兵が倒れているだけでなく、民間人も同じくらいの数で倒れている。ショップやカフェの店員を務めているNPC達だ。何故彼らがここにいるのか。


「……『まつろわぬ民』だよ。わたし達がPCを操っているように、あの人達もNPCの中に入り込んでいたんだ」

「そのNPCを使って攻めてきたって訳か。多分、魔城兵キャッスルゴーレムも同じだな。中に『まつろわぬ民』が入って操っていやがるんだ」

「街中に『まつろわぬ民』が潜伏していたって事?」


 という事は、今日まで『まつろわぬ民』がすぐ近くで私達の事を見ていたのか。そう思うと少し背筋が寒くなる。私達を敵視している人間が店員に扮して接客していたのだから。愛想笑いの裏で一体彼らは何を感じていたのだろう。


「……ううん。それは今、考える事じゃないね。マナちゃんはどこに?」

「……謁見の間だと思う。正面の階段を上がった先にあるよ」


 ルトちゃんが見上げた先には金装飾が立派な門があった。女王の権威を誇る豪奢さ、玉座を治めるに相応しいデザインだ。

 階段を駆け上がり、門を勢い良く開ける。そこには、


「マナちゃん!」

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