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#98 ドッペルゲンガー

『先の相撲から察するに、油断ならぬ実力者だと見受ける。であれば、生半可な者をぶつけても意味は薄かろうな。

 ……奴らは我が相手をする。お前達は女王に仕留めろ』


 白海月――シリウス・マギとテップが私達と対峙する。どうやら彼は戦況を二局面で同時進行するつもりのようだ。民間人NPC達がマナちゃんへと押し寄せる。


「マナちゃん!」

「すのこちゃん、駄目! そいつに集中して! そいつ、かなり強い!」


 マナちゃんの方を行こうとしたら、そのマナちゃんに制止された。シリウスが私とマナちゃんの間に立ち塞がる。無言でありながら全身から発する威圧が「ここは通さない」と雄弁に告げていた。


「……玉座の裏には地下に続く階段が隠されているの。『まつろわぬ民』の狙いはそこを下りた先にあるサーバーを破壊する事だと思う」

「誰か一人でもマナちゃんを突破して、地下に着けばあの人達の勝ちって魂胆ね」

「シリウスはそれまでオレらの足止めって訳か」


 マナちゃんはああ言ったけど、だからといって拘泥している暇はない。彼女の大鎌ははやく鋭く、リーチが長い。大勢を相手にするには良い武器だ。実際今もその大鎌で玉座に近付くNPC達を牽制している。だけど、それでもやっぱり多勢に無勢だ。早く加勢しなくてはいけない。


「……だったら、わたしが一掃する!」


 ルトちゃんが一歩前に出る。

 彼女のレベルは30。私より10レベルも高い。当然、習得しているスキルは私よりも多い。その中には、


「【上級火炎魔術プロミネンス】――!」


 上級スキルも入っている。

 天にかざしたルトちゃんの手から巨大な炎の球体が現れる。直径十メートルはあるだろうか、天井が高い謁見の間でもギリギリ入る大きさだ。

 ルトちゃんの手の動きに合わせて炎球がNPC達へと落下する。彼らの強さがどれ程かは分からないけど、元は民間人だ。この大きさの炎を防ぐ術などある筈がない。そう思っていたのだけれど、


『【上級流水魔術メイルシュトローム】――!』


 水壁が炎球を防いだ。

 突如として現れた水壁はシリウスを中心にして渦を巻き、炎球の進路を塞いだ。炎球が水壁と衝突して相殺し、掻き消される。


「上級魔術……! シリウスの奴も魔法使いだったのか!?」

「……ううん、違う! あれ見て!」


 シリウスの隣には人形が立っていた。身長四〇センチメートル程度の日本人形だ。あれは見た事がある。先のアイテム比べでラトが出してきたレア物――『受肉人形・にる』だ。


『キ、キキキャハハハハハー……!』


 似が甲高い声を上げたと思ったら、溶解した。一旦ぐちゃ混ぜにした絵の具のようになり、みるみる内に肉体を再形成していく。そうして完成したのはルトちゃんそっくりの女の子だった。

 だけど、色が違った。ルトちゃんの髪は真珠パール色、瞳は蒼玉サファイア修道シスター服は黒色だ。けれど、この女の子は逆だ。髪は黒く、修道服は白い。瞳はまるで紅玉ルビーのようだ。ルトちゃんを白黒モノクロにして、更に反転させたかのような配色だ。


「ルトちゃんが二人……!?」

「……【生き写し魔術ドッペルゲンガー】!」


生き写し魔術ドッペルゲンガー】――NPC専用のスキルだ。効果はPCに変身する事。変身したNPCは見た目もステータスもPCと同一となる。敵に回すと非常に厄介なスキルだ。似はそのスキルを持っていた人形だったのだ。

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