『魔法使いはこれで対策を成した。次は貴様だ』
シリウスがマイを指差す。それを合図にテップがマイへと駆け出した。その手に握っているのはかつての安っぽい槍ではない。分厚い刃の
「【剛力】×【怪力】×【頑強】×【瞬発】――【
テップが斧槍を振り下ろす。マイがそれを骨刀で受け止めるが、テップの膂力の方が強い。骨刀ごとマイが叩き潰され、石床が割れて砕ける。
【剛力】は筋力値に数値を加算するスキル、【怪力】は筋力値を倍加するスキルだったっか。【頑強】は敵の攻撃を無視して行動出来るようになるスキル。【瞬発】は【
テップも今日まで何もしてこなかった訳じゃない。きちんと効果的な技を選んで獲得し、強くなっていたのだ。
「マイ!」
『最後に貴様の相手は我がしよう――【
刹那、シリウスが空間を跳躍した。
空間転移のように時空間を越えたのではない。空間転移と思わせる程の高速移動を為したのだ。文字通り瞬きの間に私の背後に回ったシリウスが短剣を振るう。
「わっと!?」
咄嗟に上半身を前に捻じって短剣を躱す。逃げ遅れた髪の毛が斬られ、何房か宙に舞う。危なかった。瞬き一つ分でも回避が遅れていたら首を斬られていた。
【
『躱すか。やはり
「……お褒めにあずかりどーも」
捻じった勢いのまま前転して距離を取る。全身から冷や汗が垂れる。まさかラトがここまでの技を習得しているとは想像以上だった。敏捷値極振りの今の私に追い付きかねない速度だなんて。よくぞここまで練り上げたものだ。
けれど、対処不可能じゃない。影から影に移動するというのなら自分の影の位置を把握していれば良い。それだけでどこから攻撃が来るか分かる。
『――【
……なんて目論見は甘かったという事をすぐに思い知らされた。
シリウスの影が水溜まりのように広がる。直径五十メートル程度の円だ。謁見の間には窓を通じて日光が入ってきているけど、影は無関係に床を黒く染めている。
これはまずい。足場全てが影になったという事は、そのまま【
『――【
シリウスの姿が掻き消え、次の瞬間に目と鼻の先に現れる。あまりの距離の近さに面食らい、咄嗟の反応が遅れてしまう。そんな私の心臓を狙い、短剣が容赦なく
「しまっ――」
血飛沫が舞った。