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#103 白く長い何か

 シリウスの頭上に目掛けて跳躍する。空中を踏んで方向転換し、シリウスの後方に着地する。三角跳びだ。間髪入れずにシリウスに肉薄し、未だに後退ノックバックから立ち直れていないシリウスにアッパーを入れる。

 まだ終わらない。アッパーで浮いたシリウスの背にフックで襲う。殴り飛ばされたシリウスの体が床にバウンドする。シリウスが立て直す前に更なる追撃をせんと、彼の下へと跳躍する。


『この……【影抉カゲエグリ】!』


 床に落下すると同時にシリウスがスキルを発動した。私の進行方向に交錯する形で影の槍が顕現し、私をモズの早贄はやにえにしようとする。

 だけど、私はシリウスが右手で床に触れた時点で、その技を使ってくると想定していた。


「【浮遊】――!」


 強引に床を蹴って宙に躍り出る。影の槍を何とか躱すが、代わりに無理な姿勢になってしまった。本来であればそのまま転倒必至だけど、今の私は空を走れる。宙を二度蹴ってバランスを取り戻し、前進する。


「これで、トドメ――!」


 渾身の力を込めて右手の矢で殴る。敏捷値極振りの上、筋力値に敏捷値が上乗せされた一撃。一方のシリウスは床に伏した状態ですぐには動けない。防御も回避もままならない状態だ。これ以上ないタイミングだ。決まった。そう確信していた。


 だけど、それは驕りだった。

 矢が届く寸前、私とシリウスとの間に白く長い何かが伸びた。


「ぐっ……!?」


 白いそれは私の首に巻き付くと、締め付けてきた。何事かと白の出所を見る。触手だ。白海月の傘の下から生えている触手、その一本が私の喉を捉えていた。触手と私の腕では触手の方が長く、矢はシリウスの肌に触れてさえいない。


『――恐れ入ったぞ。我が主であれば今ので負けていただろうな』


 ゆっくりとシリウスが立ち上がる。


『だが、我は我が主ラトではない。我にはこの触手がある。あるからには当然、戦いに用いさせて貰う。我を人と見誤ったが貴様の詰みよ』

「くっ……!」


 触手を引き剥がそうとするが、元より私の筋力値は最低。近接攻撃時でなければ敏捷値は上乗せされない。素の私では触手の筋力に抗う事は出来ない。ゲームだから窒息する事はないけれど、私の体は首を起点に宙ぶらりんにされていた。


『さて、このまま締め落とさせて貰うか。……いや、悠長な事をしている場合ではないな。ここは短剣で心臓を一突きして、早々に殺すとしよう』

「…………っ!」


 短剣を手にシリウスが一歩一歩と迫る。短剣の刃が照明の光を返す。近付く刃に今の私に逃れるすべはなかった。

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