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難関

 ー…はあ、今日もダメだったな。

 船内時間で、間も無く夕方になる頃。俺は、早めにシミュレーションを切り上げため息を吐つながら、ディナータイムの準備をしていた。

 結局、今日も『帰り』の工程は上手くいかなった。…まあ、まだ時間はあるし明日頑張ろう。

 俺は気持ちを切り替え、手早く自分とクルーの分のディナーを準備していく。

 ーちなみに、遊撃部隊の第2陣(ユリア班)と残ってる人達の分は仕込みだけやってある。

「ーお疲れ様です、マスター。…お手伝いしましょうか?」

 そんな中、1番最初にカノンが食堂にやって来た。

「大丈夫だよ。朝の時点で、仕込んでおいたからな」

 時折、彼女はこうして自分の当番でない家事も手伝いたがるのだが俺はやんわりと断る。…いくら『疲れにくい身体』とはいえ、仕事を終えた彼女に手伝わせるのは流石に良心が痛む。

「…っと。良し」

 そうこうしている内に、キッチンタイマーが鳴ったので鍋を開ける。すると、優しい香りが鼻をくすぐった。

「…本当に、手慣れてますね」

「まあ、ファームの家庭生まれだからな。12を過ぎれば男女関係なくキッチンに入って、食事作りを手伝うからな」

 彼女は何度目かの感心と…ショボンとした表情を見せ、大人しくカウンター前に座る。…本当に、家事大好きだよな。

 俺は、やれやれと思いながら味見用のカップにスープを注ぎ彼女前に置く。

「…味見、頼めるか?」


「…っ!はい、お任せ下さい」

 仕方ないので、簡単な『手伝い』を頼む。すると、彼女は瞬時に明るい表情を取り戻しゆっくりとスープを飲んだ。

「……ふう。…本当に、マスターにはいつも驚かせられます。…一体、どんな『レッスン』を受ければこれ程『感動的』な味を生み出せるのでしょうか」

 そして、味見を終えた彼女は相変わらず大げさな感想を述べた。

「…まあ、バトンアーツもそうだが『師匠』がスパルタだったからかな」

 その反応に、やれやれと思いつつそういえば理由を言ってないと思い彼女の分のディナーを皿に盛り付けてながら語る。

「…ミラ様やアンナ様ですか?…とても、厳しい方々だったとは思えないのですが……」

「…ああ、そういえば時々『観てた』んだったな。…まあ、流石に家の外では滅多に『そんな顔』はしないだろう。

 …いや、本当に『凄かった』ぞ……。…っ、…?」

 俺は当時の事を思い出し、若干身体が震えた。そんな話しをしていると、誰かの視線を感じそちらを向く。

「ー…っ。…あ、お疲れ様」

「「…お疲れ様です」」

 すると、ティータとランスター姉妹の『メンテチーム』がドアに突っ立っていた。どうやら、話しを聞いていたようだ。


「よ、お疲れ。…ほい」

「お疲れ様です、皆様。ありがとうございます」

 とりあえず、俺は挨拶しカノンにディナーセットの乗ったトレーを出した。彼女も、直ぐに挨拶をしてそれを受け取り直ぐにカウンターを離れ近くのテーブルに座った。

「ーっ。…ごめん。会話遮って」

「気にしなくて良いよ。…てか、良く考えたら君達にもほとんど家族の話はしてなかったな」

 ティータとランスター姉弟は、ハッとして素早くカウンター前に来るが…3人共申し訳なさそうにしていた。

 なので、俺は明るく軽い口調で返しつつ3人のディナーセットの盛り付けを始める。

「それは私達もですよ。…まあ、オリバーさんの場合は初代様の日誌やカノンさんから聞いてるかもですが」

「いや?初代ランスターの事も、そんなに聞いてないぞ。『実は2人だった』てのも、つい最近知ったし」

「…なるほど」

「…何処で?」

「…へ?そうなの?…あ、でも考えてみればそいうか」

 すると、3人はそれぞれの反応を見せる。

「ほら、イデーヴェスの最終試練の『最後』って『オマージュ』だっただろう?

 それのオリジナルに参加した人のリストに、2人の『初代殿』の事が記載されてたんだよ。

 あ、勿論そのデータは『ブラウジス閣下名義』の貸金庫に保管してあるから安心してくれ」


「…マジですか……。本当、オリバーと閣下には感謝しかない」

「ですね」

「…話には聞いてたけど、2人も結構な身の上だよね」

 その流れで、ティータは真剣な顔で言う。

「…というか、それを言ったらこの船の『ライトクルー』は相当な身の上の集団だろうよ。

 …っと。ほい、お待たせ」

 そんなツッコミをしつつ、俺は3つのトレーをカウンターに置いた。

「ありがとう」

「「ありがとうございます」」

 それを受け取った3人は、カノンの近くに座った。

「ーこんばんは、お疲れ様です」

『お疲れ様です』

「あ、お疲れ様です」

 そうこうしている内に、ユリア副隊長率いる第2班に属するフィオナ曹…准尉(ついこの間昇進の辞令が来た)と情報班と支援班の少尉陣が入って来た。

「失礼します。…あ、すみません。また仕込みをやって頂いたようですね」

『ありがとうございます』

 そして、遊撃部隊側の当番である彼女達はキッチンに入って来る。すると、仕込みに気付き彼女達は礼を言って来た。

「なに、『時間が余ったから』やっただけですよ」

「…いやはや、敵いませんね。…流石は、ファーム家庭育ちといったところでしょうか」

 准尉は、手を洗いつつ感心していた。…しかしー。


「ーいやいや、ウチの『女性陣』達や近所の奥様方はもっと早いですよ。特に、『祝いの席』の時なんかは大人数相手に一切不満の声を出させませんから」

「……なるほど」

 俺は首を振りながら、ご婦人達の凄さを語る。…いや、何が凄いって事前の打ち合わせを綿密に行い当日はびっくりするど見事な連携でやり遂げるんだよなぁ~。

 それを聞いた准尉は、唖然としていた。

「「ーこんばんは」」

「おぉ、お疲れ様」

 そして、そんな会話が終わり遊撃部隊側のディナー作りが始まる。…ちょうどその時、セリーヌとシャロンが入って来た。

「ほい」

 俺は、会話しつつ準備しておいたセット2つを彼女達の前に置く。

「「ありがとうございます」」

「ーこんばんは~っ!」

 2人がそれを受け取るのと同時に、アンゼリカが元気良く現れた。

「おう、お疲れっ!ほい」

 そんな彼女に、こちらも元気良く返し今日も『サポーターの遊び相手』というハードな当番

 をやってくれた彼女に、『ボリュームの多い』セットを渡した。

「ありがとうございます、マスター」

「こっちこそ、ありがとうな」

「「「ーこんばんは」」」

 そして、それから少ししてクローゼとメアリーとロゼもやって来た。

「お疲れ。…ほい、どうぞ」

 俺は、素早く丁寧に3つのトレーをカウンターに置く。

「「「ありがとうございます」」」

 …ふう。これで良し。

 ライトクルーの配膳が終わったので、俺は最初に用意しておいた自分の分のトレーを持って彼女達の座る長テーブルにある、『特等席』に座った。

「いただきます」

『いただきます』

 そして、俺達は揃ってディナータイムを始めたー。   



『ーごちそうさまでした』

 その後、また全員で挨拶をした後それぞれトレーを持ってキッチンに向かい、自分の分を食洗機に入れ洗い始める。

 …これは、イデーヴェスを旅立った直後に発生した事なのだが俺が食事当番の時カノンと共に皆の分をやろとした際、他のライトクルーが非常に申し訳なさそうにしたのだ。

 だから、急遽『誰が当番の時も自分の分は自分で洗う』というルールを作ったという訳だ。

「ーじゃあ、私はこれで」

「ああ」

「…っと。あ、どうも」

 少しして、一番量の少ないアイーシャが最初に終わりキッチンから出て行った。すると、レナート補佐がやって来た。

「お疲れ様です、レナート大尉」

「ええ。…『向こう』も今頃は、こちらと同じような光景でしょうかね?」

 ふと、大尉はポツリと呟いた。

「そうでしょうね。

 ー…ただ、こちらのように『和やか』な空気は流れてないでしょう。

 特に、オットー班と『ゲスト』の間では」

「…やはりですか。

 ……このままだと『一次調査』に影響が出るかも知れないですね」

 大尉は、少し憂鬱な表情で言った。…確か、報告だと『こちらに反感を抱くグループ』が居るんだったな。

 もし、俺が『内通者』だったらそのグループに溶け込んでやり過ごすだろう。…まあ、とりあえずー

 そんな事を考えてる内に、食洗機は止まったので俺は大尉に告げる。

「ー大尉、この後時間の余裕のあるメンバーをミーティングルーム集めて頂けますか?」

「…っ!分かりました。

「では、また後ほど」

 俺は大尉と分かれ、食器を持って棚に向かったー。

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