ーSide『ガーディアン』
ー艦隊に来て2日目。『オットー班』の面々は、朝のトレーニングが終わるとミーティングルームに集まった。
「ーさて、今日もまた『アレ』をやる訳だが少し趣向を凝らす事になった」
『……?』
開口一番、オットーは妙な事を言う。…当然、班員達は頭に疑問符を浮かべた。
「…まあ、いきなりそんな事を言われても分からないのも無理はないだろう。
ーこれを見てくれ」
彼が一呼吸置いたタイミングで、イリーナはカノープス…オリバー達から送られて来た『プラン』を表示する。
「……。…あの、イリーナ少佐。質問宜しいですか?」
「どうぞ、ユーリ中尉」
すると、ユーリは『内容』を見て真っ先に挙手をする。勿論、彼女は直ぐに許可を出した。
「…ありがとうございます。
えっと、要するに『このプラン』で『ゲスト』の大半を味方に付けるという事ですか?」
「その通りです」
『……』
「…ありがとうございます」
すると、彼女は確信を持って肯定した。…それを見てメンバーは『そんな簡単にいくのだろうか?』と思った。
「まあ、皆の疑問の分かる。…だが、立案したのはエージェント・プラトーなのだ」
『…っ』
(……。…どうして、あの人は『こんな事』を?)
実はオットーは、イリーナとは違ってメンバー同様『このプラン』にやや懐疑的だった。…そして、遊撃部隊の中で一番最初にオリバーの『凄さ』を見たウェンディもまた、理解が及ばなかった。
「…『彼』が言うには、『彼らは急迫不正的に国を追われた人達です。…そして、その大半は宇宙生活なんてする必要のなかった人達です。
故に、ロクな準備なんて出来なかったでしょうし逃亡の最中マトモな物資なんて、手に入れる余裕はなかったでしょう。
…そんな生活の中で、果たしてちゃんとした-食事-が出来るでしょうかね?
勿論、今の環境でようやくマトモな生活が出来ているでしょう。…でも、-食べ慣れた故郷の料理-だけは-戻って来ない。
…だったら、せめて我々の手で-故郷の食事-だけは取り戻してあげましょう』…とな」
『………』
(…どうして彼は、『その気持ち』に気付けたのだろうか?…いや、もしかすると『プレシャス』に答えがあるのかも知れない)
その言葉を聞いて、メンバーはハッとさせられた。…そんな中、ウェンディはより一層『プレシャス』をハートとソウルに染めようと決意した。
「…ふむ。どうやら、私と君達とでは少し考え方が違うようだ。
いや、ようやく『多国籍部隊』を率いる難しさの『1つ』が知れたな」
その反応を見て、オットーは少し嬉しそうに言う。…どうやら、今回の事を『得難い経験』だと考えたようだ。
「ー注目!」
そして、彼はスイッチを切り替えメンバーの視線を集める。
「『プラン』実行はランチタイムからだ。それまで、各位『担当するレシピ』を頭に入れておけ」
『サー、イエッサーッ!』
「…イリーナ少佐からは、何かありますか?」
「大丈夫です」
「分かりました。
では、これより担当レシピを各端末に転送する」
彼がそう言った直後、メンバー全員にレシピが転送された。
「では、一旦解散だ」
『はっ!』
そして、彼らはミーティングルームから出て借りているルームに向かった。
(ー…さて、私の担当は…。『スープ』か。)
ルームに戻ったウェンディは備え付けのチェアに座り、早速確認する。
(…へぇ、彩り豊かな品ね)
レシピには、ありがたい事に完成品の『イメージ画面』が添付されていた。…それは、なんとも目に鮮やかな品だった。
(…他の品も、こんな感じなのかな?)
そんな予想を立てながら、とりあえずオーダー通りレシピの内容を記憶していく。
(ー…うーん。それにしても、手が込んでるように見えて以外と簡単な工程だな。
もしかして、『前の』トオムルヘって皆忙しかったのかな?)
少しして、一応レシピを記憶した彼女はふとそんな事を考えた。
『ーウェンディ少尉。今、大丈夫か?』
その時、通信端末が鳴りユーリの声が聞こえた。
「(…あ、皆居る。)はい、問題ありません」
エアウィンドウを起動すると、彼だけでなくゼノとミハイルとミントも居た。
「えと、『レシピ』関係の事ですよね?」
『その通りだ。
それでだな、もし良ければ皆で-バーチャルトレーニング-をしないか?』
彼女が確認すると、彼は頷き提案をする。
『賛成ですっ!』
『自分もです』
『いや、実は中尉に-レンタル-をお願いしよとしてたんですよ』
「(…ホント、気が回る人だな。)是非、お願いします」
すると、戦闘班メンバーは即座に賛成した。
『分かった。それでは、トレーニング用のマシンを借りて来るのでー……ん?』
彼がそう言っていると、ふと『割り込み』が入った。そして、エアウィンドウにイリーナが追加される。
『あ、ミーティング中失礼します』
『いえ、大丈夫ですよ。どうかされましたか?』
『…えっと、実は先程艦のキッチンリーダーの方から-トレーニングマシン-をお借りしたのですが、良ければ全員でバーチャルトレーニングをしませんか?』
『……はい?』
彼女は、少し疑問を抱かせるような感じで提案して来た。…当然、戦闘班メンバーは揃って疑問符を浮かべた。
『…いや、実はちょうど今こちらでもそんな話をしていたのですよ。
…というか、キッチンリーダーの方は-お願いする前-に貸し出て下さったのですよね?』
『…ええ。ちなみに、その方は-事情-も把握していました。
どうやら、エージェント・プラトーが前もって話を通していたようですね』
『…なんと』
『……』
(…やっぱり、あの人は凄い。…『こうなる事』を予想していたんだ。
…多分、直接言わなかったのは『いろいろ』とかを配慮してだろう)
報告を聞いた戦闘班メンバーは、手回しの速さと配慮に感謝しっぱなしだった。…一方、ウェンディはそんなオリバーの少しオーバーな心遣いに嬉しさを感じていた。
『…それでは、今すぐ班の者に届けさせましょう』
『お願いします』
『「お願いします」』
イリーナも感謝の表情をしながらそう言った。そして、通信が終わった直後ー。
『ーおはようございまーすっ!ウェンディ少尉、お届け者でーすっ!』
ルームのインターフォンが鳴り、デスクに取り付けられたモニターにカリファが映し出された。
「はーいっ!」
彼女も元気良く応え、ドアに向かう。
「ーどうもーっ!はい、こちらをどうぞっ!」
「ありがとうございます、カリファ少尉」
「いえ。
それじゃ、また『向こう』で」
「はい。
…さてとー」
ドア口でトレーニングマシンの受け取りを済ませた彼女は、またデスクチェアに座った。そして、『ダイブ』の準備を素早く済ませた。
(ー…よし。…しかし、『このタイプ』のマシンは原隊以来だな)
ふと、セサアシスでの日々を思い出しつつ彼女は本体…特殊な形状のヘッドギアを頭に装着した。
『ーStandby……。Count30。
30、29、28、27、26、25ー』
すると、内部モニターに表示が出た。…そして、直ぐにカウントダウンが始まる。
『ー10、9、8、7、6、5、4、3、2、1。
START!』
やがてカウントは終わり…直後、いつの間にか彼女は『バーチャルキッチン』に居た。
「ーあ、少尉だ。お疲れ様ですっ!」
「お疲れ様です、ミント准尉」
ふと、後ろから声を掛けられた彼女はそちらを振り向く。…すると、そこには私服の上にエプロンを身に付けたミントが居た。
「お疲れ様」
「お疲れ様です」
すると、右からゼノとミハイルがやって来た。彼らもまた軍服ではなく私服だった。
「お疲れ様です。…じゃあ、とりあえずー」
なので彼女も直ぐに着替え、この場にふさわしい格好になる。
「ー皆、揃ったようだな」
すると、オットーとユーリ。それに、イリーナ率いる情報班メンバーも集まって来た。
「それではこれより、ランチ作りのトレーニングを始める」
『はいっ!』
そして、オットーは直ぐに号令を出しトレーニングは始まるのだったー。