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瓦解

ーSide『ゲスト』


(ー…参ったな……)

『ゲスト』達の実質的なリーダーであるジャックは、頭を抱えていた。…それもその筈。

『ーあの-船乗り-達を追い出払うように頼んでくれ』

 彼は、同胞達の1グループからそんな事を頼まれてしまったのだ。…まあ、『直接』行動を起こされるよりはよっぽどマシだがそれでも頭の痛い事には変わりない。

(…どうする?…彼らの話では、『内通者』は先程のグループの中に紛れているらしい。それをはっきりさせるまでは、下手に『本隊』と連絡が取れない。…なるべく早く解決し、救助部隊の依頼をしなければサーシェスに捕られかねない。

 だが、グループの頼みを無視すれば我々サイドに『ヒビ』が…。……っ)

 彼は、非常に悩んでいた。…そんな時、ルームに備え付けられている通信端末が無機質なコールを奏でた。

「…はい、どちら様ですか……っ!?」

 とりあえず、通信に出た彼はその相手に驚愕する。…何故ならー。

『ーあ、こちらはカノープスクルーのオットーです。こんにちは、ディノーさん』

 オットーは、オフの時に気さくな表情で挨拶をしてきた。

「…こんにちは。…えっと、何かご用ですか?」

『ええ。…実は、今日のゲストの皆さんの為のランチなんですが-ご迷惑-を掛けてしまったお詫びに、我々で用意させて頂く事になりました』

 オットーは、少し申し訳なさそうにしながら言う。…その事に対し、ディノーもまた申し訳なさそうになってしまう。


「…そんな、迷惑だなんて。…こちらこそ、同胞が失礼な態度をしてしまい申し訳ありません。

 …そして、先に失礼を謝罪しておきますが恐らく同胞達は貴方達の作る料理には手を付けないかとー」

『ーご安心を。その可能性を考慮し、-こういったモノ-をご用意させて頂きます』

 ディノーは恐縮しながら言うと、オットーはニコニコしながら『メニュー』を表示した。

「……な、こ、これは……」

『それ』を見たディノーは、混乱する。…その反応に、オットーは更にニコニコした。

『貴方達から話を聞く中で、幾つかの地元料理が出ましてね。…我々も気になったので、シミュレーション担当のクルーに完成予想図を作って貰い、それを元に再現してみたんです。

 どうですか?何か相違点等はありませんか?』

「…いや、私の見る限りでは全く。……しかし、そんな能力を持った人も乗っているんですね」

 ディノーは、オットーの確認に首を振る。そして、『カノープス』のクルーの層の厚さに驚く。

『まあ、シミュレーション担当はこういった艦隊は勿論割とどの船にも居ますよ。

 何故なら、航海を安全に行う為には必要不可欠ですし航海中のライフワークメニューを作成するのにも、シミュレーションは大事ですからね』

「…言われてみれば……。いや、お恥ずかしい限りです」

 ディノーはそう言われて凄く納得し、自信の無知を恥じた。

『無理もありませんよ。…だって、いきなり必要に迫られて宇宙に出たんですから。

 …それでは、食堂にてお待ちしていますね』

「分かりました。(…さてー)」

 そして、通信は切れ彼は同胞達に連絡を入れた。


『ーっ!?』

 それから少しして、ゲスト達は食堂に集まって来た。…そして、長い事口にする事はおろか見る事さえも叶わなかった地元料理の数々を見て驚愕する。

「…そんな……。…どうして、地元料理が……」

「ーこんにちは、ゲストの皆さん」

 誰かがそう言うと、エプロンを着けたオットー達がキッチンから出て来た。

「まずは、昨日より『ご迷惑』をお掛けした事を謝罪します。…そして、言葉だけでなく態度で示す為にこうして皆さんの故郷の料理を再現させて頂きました」

『……っ!?』

 オットーの言葉に、ゲスト達はまた驚愕した。…すると、彼らの中から1人の鋭い目付きの女性が出て来た。

「…フン。…いくら、『見た目』がそっくりにしたって味はー」

 恐らく、遊撃部隊に反感を抱いているグループの纏め役であろうその女性はジロリと彼らを見た後、スプーンでスープを一口飲む。…きっと、味の違いを指摘しグループの非難の感情を増長させるつもりなのだろうがー。

「ー……っ。………」

 気が付けば、彼女は一筋の涙を流していた。…どうやら、地元民の1人は満たせたようだ。

「……そんな。……っ。……っ」

 記憶の中にしかなかった故郷の味に驚いたのか、はたまた久しく流していない涙に驚いたのかは分からない。…けれど、彼女は無意識に二口目を飲んでいた。

 そして、ガックリとその場で崩れ落ち小さく泣き出した。


「…大丈夫ですか?」

 そんな彼女に、イリーナはそっと近付きハンカチを渡す。…彼女は、それを涙ぐみながら受け取り涙を拭った。

「……。…どうやって、この味を……?」

 そして、彼女はイリーナに純粋な疑問をぶつけた。

「そうですね。…そもそも、トオムルヘ料理に使われてる食材や調味料自体は広く普及しているモノでしたから再現はさほど難しくはありませんでした。

 後は、『経験者の方々』にご協力頂けたのも大きいですね」

「…っ。…そう。

 ー…ありがとう。『この料理達』と再会させてくれて」

 それを聞いた彼女は、イリーナ達の技量と人脈の広さに驚かされた。…そして、彼女はとても嬉しそうに感謝の言葉を述べた。

「…っ」

『……』

「どういたしまして。喜んで頂けて、何よりです。

 ーさあ、どうぞ皆さんも遠慮なく召し上がって下さい」

『……っ』

 イリーナは、微笑みを浮かべながらゲスト達に告げる。すると、彼らは逸る気持ちを抑えながらいそいそと着席していく。

『…いただきます。……っ』

 そして、彼らは故郷の料理を食べ始めた。…直後、彼らは瞳に涙を浮かべた。

『……ううっ、旨い……』

『ああ、これをまた食べれる日が来るなんて……』

『…もう、二度と食えないかと思っていた……』

 彼らは、大粒の涙を流しながらけれども幸せそうに故郷の料理を楽しんだ。

「ー(…なんだか、こっちまで泣きそうになりますね。……?)…アーニャち…先輩、どうかしましたか?」

 その光景を見て、ウェンディも貰い泣きをする。…そんな中、隣に居るアーニャはほんの少しだけピリピリした気配を纏っていたので、小声で聞いてみた。

「…っと、ごめんなさい。『何でもないから』、大丈夫よ」

「…っ(…あ、多分『見つけたんだな』)」

 隣に立つ先輩は、『笑顔の仮面』を張り付けて『何でもない』と言った。…それを見て、彼女は察する。だから、敢えて自分では探さない事にした。

 ーきっと…いや間違いなく、『任務妨害』をしてしまうだろうから。

「ーさあ、我々も食事を済ませてしまおう」

 そんな時、オットーは『少し緊張』しながら言う。…多分、右隣のモンドが『見つけた』事に気付いたからだろう。

『はい』

 そのせいで、多少彼女と戦闘班も緊張しながら頷き自分達の分が置かれたテーブルに向かったー。


(ー…信じられない。…まさか、こんなにも完璧に『再現』してくるとは……)

『内通者』は、懐かしい味を食べながら驚愕していた。…目の前に並ぶ故郷の料理は、どれもかつて『本物』と寸分違わぬ味だったからだ。

(…っ。…って、感心している場合じゃない。…完全に、『先送り』のプランが瓦解した……)

 彼はハッとし、自分に『危機的状況』が迫っている事を理解してしまう。…それは、自分の周囲に居る『グループ』の反応を見れば嫌でも分かる事だ。

 ー彼らからは、完全にオットー達への反感の感情が消えていたのだ。…それはつまり、『内通者』であるその人物とグループの関係が崩れた事を意味していた。

(…このままでは。……っ。…マズッた。…こんな顔してたら……。…いや、既に気付かれているのかも知れないな……。…こうなったらー)

 その人物は、最早諦めの境地に至っていた。…だから、その人物は『イチかバチか』の掛けに出る事を決めた。

『ー…ふう。ごちそうさまでした』

『…いや、マジで旨かった……』

 そんな事を考えていると、同じテーブルに居る同胞達は次々と食事を終えトレーをカウンターに持って行った。

(…とりあえず、とっとと食べて素早く『行動』に移ろう)

 その人物は、目に『決意』を浮かべて前の料理を食べ始めたー。

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