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 ーサプライズ的なランチタイムも終わり、2日目の…そして、第1陣メンバーにとっては最後の午後の時間が始まる。

 …勿論、彼らにとってこの時間はかなりピリピリしたモノになるだろう。

「ーそれでは、我々第1陣による最後の『一次調査』を始めます」

 とあるルームで、イリーナは通信越しに宣言した。

『了解』

『ーこんにちは。ゲストの皆様にお知らせします。

 今から、名前を呼ばれた方々はー』

 メンバーは頷き、通信をオンにしたまま離席する。…そして、直後艦の通信兵がアナウンスを流してくれた。

(ーさて、『相手』はどう出て来るでしょうか?)

 彼女は、冷静さを維持しつつ『内通者』の出方を予想する。…彼女は、前もって通信担当に『該当者』を自分の元に通すように頼んでおいたのだ。

『ー…スイませーん』

 それから少しして、彼女の居るルームのインターフォンが鳴る。…同時に備え付けのモニターには、浅黒い肌の女性が映し出された。

「どうぞ」

「…失礼しまス」

 彼女が許可を出すと、女性は緊張した面持ちでルームに入って来た。

(…あまり、ガチガチにはなっていない?…それどころか、この期に及んで『何か』を企んでいる様子だ)

 彼女は、女性の様子を瞬時に分析し当人に見えないように『サイン』を出す。…すると、ルーム内に居る『サポーター(インビジブルモード)』達は警戒を始めた。


「どうぞ、お掛け下さい」

「…はイ」

 だが、彼女は穏やかな顔で彼女に柔らかいシートのチェアに座るように促す。…そして、当人はゆっくりと座った。

「…さて、まずは自己紹介から始めしょう。

 ー私は、カノープス『サブクルー』のイリーナと申します」

「…ご丁寧に、ドウモ。

 私ハ、『マリアベル』と言イます」

 彼女は、そう言って自ら名乗った。…そして、女性も名乗った。

「マリアベルさん…ですね(…本当に、驚きましたね。まさか、『ブルタウオ』の件に関わっていた彼女とこうしてまた相まみえるとは)。

 宜しくお願いします」

 ー…そう。内通者の正体は、かつて『セサアシス』の一件で逮捕されたとあるサーシェス重役の秘書であり、オールドバンデット達との連絡役を担っていた女性だったのだ。

「(…確か、『海賊達』の話しによるとブルタウオでは見掛けない『美白な美人』だったそうですが…。…今考えてみると、『身バレ』を考慮して『ヘビ』で変装していたんですね)

 …では、マリアベルさん。まずは、貴方の『前職』を教えて頂けますか?」

 報告書と目の前の女性の余りのギャップの差に内心驚きつつ、彼女は真面目な顔でいきなり切り込んだ。

「…分かリましタ」

 すると、女性は驚くほど素直に頷き…おもむろに艦から支給された予備のフライトジャケットのポケットに手をー。


『ーBMO!』

「…っ!?」

 その直前で、女性の『背後』から1つの鳴き声が聞こえた。そして、直後にインビジブルは解除され『アサルトチルドレン』が姿を現し『フィールド』を発動する。

 …当然、彼女はなす術なく身動きが取れなくなった。

「ー甘いですね。…『私』相手に、そんな手が通用すると思っているんですか?

 ー元『サーシェス』重役付きの秘書さん?」

 彼女は、淡々とした口調で言いつつ『バード』由来のアームカバーを装着し女性が取り出そうとしていたモノを引っ張り出す。

 ー…それは、一見すると護身用サイズのショックガンのようなモノだった。

「…ふむ。…『イーグル』」

『PYE!』

 彼女は、『レスキューチルドレン・Type-WARP-』…『イーグル』の名前を呼ぶ。すると、彼女の後ろに居た『イーグル』は姿を現し『ワープホール』を発動した。

 それを確認し、彼女は手に持った『ショックガン』をそこに投げ入れた。

「ー…フフ。ホント、『忌々しいまで』の迅速カつムチャクチャな対処でスネ……」

 それを見ていたマリアベルは、陰のある微笑みを浮かべた。

「どういたしまして(…どうやら、最初から『隠す気』はなかったようね。…それなら、どうして『こんな事』を?……っ)。

 ー…なるほど。…『対処』させるつもりで、無謀な行動に出た訳ですか」

 彼女は、至って冷静に事実を告げる。すると、マリアベルはますます陰を強くした。


「…ハあ。タダでさえチートじみた戦力があるノに、アンタ達みたいなムカつく程優秀な『サポーター』まで加わってるとハネ。

 ーこりゃ、ますマス『カンパニー』に勝ち目はないなァ…」

「……。…『グラビティ・オフ』」

『BMO!』

 彼女は、その表情を見てチルドレンに解除のオーダーを出した。

「…どういうツモり?」

「だって、『そのまま』じゃ話し辛いでしょう?

 ーそれに、『別の手』を持ってようともさほど問題ありませんから」

「…っ。…大しタ自信ね。まあ、他にモ『無力化』の手段があるカラ当然か。

 …けど、そレハ『無駄』になるワね。

 ーだって、私は今カラ『カンパニー』を見限るのダカら」

「……っ。…賢明な判断ですね。

 けれど、『それをした後』どうするつもりですか?…そもそも、『それ』をどうやって証明してくれるのですか?」

 突然の『退職宣言』を聞いて、彼女はまず称賛の言葉をマリアベルに送る。…だが、彼女は油断する事なく『事後処理』と『証明』の事を質問する。

「…そウね。

『隠れてるヤツ』に『マジックアーム』持ちが居たラ、ソイツに『この中』に入ってるモノを出して貰えるカシら?」

 すると、マリアベルは慎重にさっき『ショックガン』を取り出したポケットとは反対側のポケットを指差した。

「……(…『トラップ』では、ないようですね。)。

 ー『アドベンチャーチルドレン』、『キャプチャースタート』」


『ーKYUKL~』

 彼女は念のため『ゴーグル』で判断し、それから隠れていた『ドラゴン』にオーダーを出す。すると、独特な『鳴き声』で返事をした『ドラゴン』は姿を現した。そして、マリアベルの背後に回り込みオーダー通り反対側のポケットに『アーム』を入れた。

『ーKYUKL~』

 数秒後、『ドラゴン』は何らかの小型機械をポケットから取り出し迅速にイリーナの元に戻りアームで掴んだそれを目の前にぶら下げた。

「ー…これは、『コネクター(通信機)』ですか?」

「いヤ、『提携企業』にそんナ小さなコネクターを作るノウハウなんてなイワよ…。…はあ、言っテテ悲しくなるワね……。

 …それハ、発信器よ」

「…っ(…やはり、技術のほとんどは『兵器』に回しているようですね。それ以外は、ほとんど『進歩』がないのでしょう。)。

 なるほど、『これ』で位置を把握されていたという訳ですか。…っ、これ、ひょとして『マニュアル(手動)式』ですか?」

 彼女は発信器を良く観察し、小さなボタンを見つけた。…すると、マリアベルは頷く。

「正解。…ンで、『それ』を渡すノト引き換えに私の『身の安全』をどうニカしてくれるヨウ、アンタ達のボスに頼んでクレない?」

「……(…やはりそう来ましたか。…まあ、確かに『これ』を渡すという事は一定以上の『証明』になるでしょう。

 それに、『他人頼み』ではありますが『後の事』もちゃんと考えているようですね。…というか、かつて自分の足場を奪った人物に平気で頭を下げて来るって、どういう事なんでしょうか?)。

 …分かりました、一応キャプテンに相談してみます。…とりあえず、『コレ』は一旦返しておきますね」

 この展開予想していた彼女は、冷静に返事をした。…けれど、あっさりと『決断』をした事に関しては少しその神経を疑った。


「…え?何デ?」

 一方、当人は彼女が異様な者を視る目で見ている事に気付かず呑気に発信機を返された事に疑問を抱いていた。

「まだ、キャプテンが『助ける』とは言ってませんからね。

 ーそれに、万が一『こういう事態』が起きた時の『仕込み』をしていないとも限りませんから。…まあ、今のところ『貴女以外』が触れてないのでなんともいえませんが」

「……っ」

 ハッとしたマリアベルは、若干青ざめた。…多分、リスクを想定していなかったのだろう。

「……(…やれやれ。…はあ、今から気が重いですね。)。…それでは、一度『お話』は中断しましょう」

「…分かッタ」

 彼女がそう言うと、当人はチェアから立ち上がりルームから出て行った。それを見届けた後、彼女はカノープスに連絡を入れるのだったー。

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