「ー…という訳で、向こうから助命を求めて来たんですがどうしますか?」
『………』
船内時間では、そろそろアフタヌーンになる頃。
俺は、ブラウジス閣下に報告をしていた。…そして、最後に『内通者』についての報告をする。…それを聞いた閣下は、呆気に取られてたいた。
…まあ、無理もない。実際、俺も同じ気持ちだ。
しかし、まさかブルタウオで捕まえた幹部の秘書とこんな形で遭遇するとはなぁ…。
ーイリーナ班長からの報告では、秘書は支社に帰国途中で『職を失って』その星系(非加盟)で隠れるように生活していたそうだか、最近になって『本社』のヤツがコンタクトを取り…後は『予想』の通りに事が運び、今の状況になっているのだ。…それにしてもー。
『ー…どうしてこうも、サーシェスの者達はこちらの予想を遥かに越えて来るのだろうな。
まさか、トオムルヘの住人が-侵略者-たるサーシェスに身を置いていたとは夢にも思わなかった。…ましてや、かつて自分達に痛烈な痛手を負わせた者の後継者に平然と助けを求めるとはな……。
全く持って、-恐ろしい-連中だ』
「同意です」
改めて、閣下は心中を吐露する。俺も、その意見に心底同意した。
『…エージェント・プラトー。今一度確認するが、巧妙な-罠-ではないのだな?』
「ええ。『ドラゴンの瞳』は、『問題無し』と判定しました」
そして、閣下は再度『確認』して来る。無論、俺は即座に答えた。
『…そうか。
となると、問題は元秘書の処遇と-発信機-の取り扱いか』
閣下は返答を聞き、次のフェーズ…恐らく今回の件で最大の問題2つについて言及する。
『…処遇に関しては、先の件同様私1人では到底結論は出せないな。
…だが、後者は迅速に対処しなければならない』
「…仰る通りです」
ーちなみに、現在『ゲスト達』のリーダーである『前国家元首』の救助作戦が極秘かつ迅速に進行中だ。
…そして、その極秘作戦の成功率を上げる為には迅速に『発信機』の問題を解決しなければならない。
『…エージェント・プラトーは、-アレ-にどんな罠が仕掛けられていると思う?』
「…そうですね。
ーまず、『カノープス・レプリカ』は間違いなくインストールされているでしょう。
…1つは、『オーナーセンサー』を利用したトラップが考えられます」
『…例えば、オーナー以外が触れると即座に敵に伝わるシステムか?』
「十分あり得ますね。キャンベル少佐も、『それ』を予想し『チルドレン』に一時回収を指示したようです。
…そして、恐らくオーナーと一定以上離れる事でも発動すると考えられます」
『……。…他には?』
「…後は、殺傷能力と効果範囲の広い『トラ』や『ウシ』。あるいは、オーナー『ごと』トバす『トリ』の可能性もあります。
ーただ、あちらの技術レベルから考えて後者は回収した『ショックガン』に仕込まれているでしょう。
あ、念のため『ショックガン』は『コールド処理』はしてあります」
俺は、ウィンドウを展開し『カチコチ』になった『それ』を見せた。…こうする事で、大抵のメカやガジェットは起動出来なくなる。
『…そうか。…ひとまずは、前者のトラップに警戒するとしよう。
ただ、そうなると秘書の処遇をいち早く決める必要がある』
結局のところ、それが決まらない事には発信機の問題もどうにもならないのだ。
『…とりあえず、一旦この件は預かり至急帝国議会にて処遇を決める。
その後、連盟議会にも上げ正式に処遇を言い渡す。
…そうだな。秘書には-前向きに検討しておく-と伝えくれ。それと、向こうを-騙す-プランを考えておいてくれないだろうか?』
「(まあ、やっぱりそうなるか。)了解です」
『頼んだ。ではー』
そこで通信は切れ、俺は再度イリーナ班長に連絡を入れるのだったー。
○
「ー報告しますっ!第1遊撃部隊レンハイム班10名、カノープスに帰還しましたっ!」
「お疲れ様ですっ!」
『お疲れ様ですっ!』
船内時間は、間も無く夕方を迎える頃。向こうの艦隊に短期出向していたオットー隊長達『第1班』がカノープスに戻って来た。
なので、俺とこっちに残ったメンバーは彼らを出迎えた。
「とりあえず、部屋に荷物を置いたらミーティングルームに集まって下さい」
『ハッ!』
俺は戻って来たばかりの彼らにそう告げて、先にミーティングルームに入った。
「ーマスター。準備完了しました」
「いつでも始められます」
ルームに入ると、カノンとクローゼが報告して来る。
「2人共、ありがとう」
『ーエージェント・プラトー。失礼します』
議長シートに座りながら2人に礼を言っていると、直ぐにオットー隊長達がやって来た。
「どうぞ」
「失礼します」
『失礼します』
そして、医療班(『トリ』からリモート参加)を除く遊撃部隊のメンバーが整列しながらルームに入って来る。
「ーそれでは『中間ミーティング』を開始します。
まずは、カノープスサイドからの報告させて頂きます」
メンバーが座ったのを確認し、俺は立ち上がりミーティング開始を宣言する。その後直ぐに、背後にあるモニターには『トレーニング』の中間報告が表示された。
「1つ目は、『トレーニング』についてです。
『トレーニング』は今の所、『概ね順調』です」
俺は、自信を持って報告した。
ー実は、今日初めて『帰り』が上手くいったのだ。…いや、ホント嬉しかったな。
「それは良かった」
『おめでとうございます』
どうやら嬉しさが隠しきれていなかったのか、ユリア副隊長やメンバーは微笑みながら称賛の拍手を送ってくれた。
「ありがとうございます。
ーそして、もう1つは『今後の動き』です」
『……っ』
すると、直前までニコニコしていた彼らは表情を即座に引き締めた。
「既に皆さんにもお伝えしていますが、当船は此処での活動を終えたら『ナイヤチ星系』に向かいます。
…ですが、道中の航海は『ソロ』ではなく尚且つ『幾つか』寄り道する事となりました」
『…っ!』
「……。…まさか……」
その言葉に、メンバーは少しながら動揺した。そんな中、イリーナ班長はふと小声で呟く。多分、『予想』が浮かんだのだろう。
俺は、『それ』を肯定するべく報告を続ける。
「道中は、トオムルヘの『ゲスト』達を警護しながら『とある場所』で彼らと別れます。
勿論、連盟軍に『保護』して貰います。…その方が、『いろいろ』と安全だからです」
『……』
『……』
すると、メンバーの大半は『確かに』といった感じの表情で頷く。…だが、情報班だけは呆気に取られていた。
「お、情報班の皆さんは『びっくり』されてるようですね」
『……?』
その事を告げると、隊長と副隊長や他の班のメンバーは情報班メンバーを見た。
「…どうしたのですか?…今の話しの中で、そんな顔をする内容がありましたか?」
「…ええ。
ー…先ほど、皆さんに報告しましたが『内通者』は『特殊な発信機』を持っています」
「…そうらしいな。…確か、それもまた『レプリカ』だそうだが」
「…はい。
そして、その性質上『所有者』からは引き離す事は難しいのです。…けれど、あくまで『報告』するだけなので機械自体に危険性はないんですよ」
「…そういえば、そうだったな。……あ」
「………。…えっと、つまり『それ』を逆に利用して『連中』を誘き寄せようという事ですか?」
『………』
そこでようやく、彼らは俺のプランに気付き唖然とした。
「その通り。ちなみに、『保護』にはイリタリミの主力部隊が来てくれる手筈になっています」
「…やっぱりですか……」
「…えげつない事考えますね。…イリタリミの主力という事は、すなわち『連盟防衛軍』の主力って事じゃないですか……」
イリーナ班長とレナート班長補佐は、改めて苦笑いを浮かべた。