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『希望-文化の銀河編』

適正

 ー『遠征PR』より、数日後。現在、『カノープス』はルリームイール…通称『文化の銀河』に進路を取っていた。

 目的は、この間のイデーヴェスでランスター姉妹のアインが入手した『ファインドポイント』の調査だ。…当然、移動中は暇になると思いきやそんな事はなかった。


「ーさて、全員集まった事ですし始めるとしましょう」

「「「はいっ!」」」

『ドラゴン』にあるトレーニングブロックの1つ…ナイヤチの道場のような、フローリングの床にウッド素材の壁で構築されたトレーニングルームには、この間『ライトクルー』になったばかりのミリアムと普段は『科学調査』を担当しているエリゼ博士。

 そして、今日から『修練』を始めるランスター姉妹が集まっていた。…俺は、その様子を少し離れたところから見守っていた。

「では、初回の今日はアイーシャさんとアインさんの『適正』を見たいと思います」

「「お願いします」」

『ドウギ』姿のミリアムが今日やる事を告げると、同じく『ドウギ』姿のランスター達はペコリと頭を下げる。…うん、女史に『礼儀作法』を教わっていた経験が生きてるな。

 ーちなみに、ランスター達の『正体』については帝国を出て直ぐに当人達から『インストラクター』達に直接説明している。…多分、2人なりの『誠意』とか『覚悟』の表れなんだろう。

 …だから、今2人は俺やカノン達とかの『信用出来る方』以外の人に『素顔』で対面しているのだ。


「ーそうですね。…とりあえず、『私』のほうから始めましょう。

 エリゼ『指導役』も、それで宜しいですか?」

「あ、はい」

 すると、『指導役主任』はそう決めた。勿論、きちんともう1人の指導役に確認する事も忘れない。…いや、非常に気配りの出来る人だ。

「では、2人共こちらをー」

「「ありがとうございます。…っ」」

 そして、主任は予め用意していたトレーニング用の『フェン』を2人に渡す。…それを受け取った2人はちょっとビックリした。

 ーまあ、トレーニング用とはいえ『本物』に近いウェイトはあるのだろう。

「フフ、やっぱり重たいようですね。…でも、私も少し『驚き』ました」

 2人の気持ちを予想していると、主任はニコニコしながらそんな事を言った。…なんで?

「だって、『練習』用のそれは『実物』より『重く』してあるのに2人共ちゃんと持っているんですもの」

「「………はい?」」

「……」

 …うわ、マジか。

 衝撃発言を聞いた2人は唖然とし、横に立つもう1人の指導役はちょっぴり引いたような視線を向けた。…勿論、俺もそちらの方向をガン見してしまった。

「ああ、勿論『成長』する度に軽量していく予定ですので安心して下さい」

 …いや、何の説明?しかも、『進捗』に合わせるって事はつまりー。


「「………」」

 2人も俺と同じ事を考えたのか、ちょっと引いてしまう。…どうやら、クロフォード流はなかなかの『スパルタ方針』のようだ。

「…さあ、2人共。構えて下さい」

「「…っ」」

 そんな事を考えている内に、主任は自分のフェン…ミルキーカラーの『白羽扇』を構えてから2人に告げる。…その、有無を言わせないプレッシャーに2人は意を決して同じ構えを取った。

 当然、片手でそれを持つのだがウェイトがあるので少しばかりプルプルしていた。

「まずはー」

 まず、主任は胸の高さにあるフェンを頭上に掲げる。…2人は、利き腕腕をプルプルさせながらトレースする。

「次」

 それを確認した主任は、頭上でフェンを3周させた。

「「…っ」」

 2人は、何とかそれもトレースする。…ふむ。

 その際、『姉』のほうが若干早い事に気付いた。

「次」

 そして主任は、フェンを頭上から足に向かって『ゆっくり』と下ろして行った。…うわ、アレ負荷が掛かるからキツいんだよな。


「………。………ー」

 その動作を、姉はキツそうにしながらもトレースしていく。…だがー。

「ー……っ!」

 妹は限界が来たのか、途中で力が抜けフェンが見本より早く足に到達してしまった。…やっぱり、『差』が出たようだ。

 姉の方は、元はキャプテンとドライバーを兼任していたから一見女性的な身体に見えて、結構鍛えている。

 片や、妹はメカニックと武装管制に加えて『戦闘員』の3役をこなしていた。…勿論、彼女も日々トレーニングはしているがどうしても『時間』が取れないので、姉に比べて『量』は低い。

 まあ、今はトレーニング量に差が出ないようにスケジュール調整しているが…。…差が埋まるのは、もうちょっと先だろう。

「ーなるほど。…では、一旦小休止としましょう。あ、『それ』は回収しますね」

「「…は、はい……」」

 そんな事をぼんやり考えていると、主任は短い休憩の許可を出しながら2人の持っていたフェンを一気に回収する。…うわー、軽々持ってるよ。

「「…ふう……」」

 そして、主任が離れている間に2人は背中を丸め小休止をする。…やっぱり、まだスタミナは全然だな。

「…大丈夫ですか?」

 それを見て、もう1人の指導役はちょっと心配そうに声を掛けた。…どうやら、片方は優しい人のようだ。


「…まあ、なんとか……」

「…まあ、『以前のまま』だったらアレを持つ事も難しかったでしょうね」

「ーほう…」

 2人はなんとか顔を上げ苦笑いしながら答える。…すると、フェンをケースに戻した主任が興味を示した。そして、こちらを見る。

「…じゃあ、『担当』にオーダーを出しておきますね。あ、エリゼ博士はどうします?」

「…えっと。……お願いします」

 聞かれた当人は、少し悩んだ後ペコリと頭を下げて来た。…尚、主任の方は既に深々と頭を下げていた。

「…っ。それでは、後半に移りましょう」

「「はいっ!」」

 そして、主任は頭を上げると共に気持ちを切り替え再開を宣言する。すると、ある程度回復した2人はしっかりした返事をした。

「エリゼ指導役、お願いします」

「…あ、はい……」

 主任がそう言うと、エリゼ指導役はちょっと緊張した様子で前に進み出る。…多分、『指導』するのはこれが初めてなんだろう。

「……。……ー」

 けれど、ちっとも不安は感じなかった。…だって彼女は直ぐに瞑目し呼吸を整え始めたのだから。そしてー。



「ー……。…すみません、お待たせしました」

「「……」」

 目を開けた彼女からは、緊張が消えていた。…それどころか、纏う空気が一変していた。

「では、『適正』を見させて頂きます。…そうですねー」

 そして、彼女はゆっくりと姉の方に近いていく。…当然、当人はちょっと緊張した。

「…ちょっと、失礼」

「……」

 一方、指導役は姉の右腕に触れていく。…そのまま、肩、反対の肩、左腕を確認していく。

「…っ」

 それだけではなく、指導役は軽く足全体をも確認していく。…いや、なんか本当『同性同士』で良かったな。

 なんとなくホッとしている内に、指導役は姉の確認を終え…今度は妹の身体を確認していく。

「ーはい、ありがとうございます。

 …では、失礼します」

 それが終わると、指導役は姉に頭を下げる。…そして、次に妹に頭を下げ彼女に近く。

「…っ」

 妹は、姉以上に緊張していた。…まあ、同性とはいえ姉や女性親族とか以外に身体を触られるのに慣れていないのだろう。

「……」

 指導役も、それをなんとなく察しているのか姉より少し気を遣いながら確認していった。

 そして、それが終わると指導役は彼女から離れ再び姉妹の前に立つ。

「ーどうでしたか?」

「…そうですね。

 ー私は、アインさんに『適正』を感じました」

「…っ!」

「……」

 その言葉に、当人が一番驚いていたし姉は妹をガン見した。…一方、俺はなんとなくそんな気がしていたのであんまり驚かった。

「なら、アインさんの『指導』はエリゼ指導役が。私は、アイーシャさんの『指導』を担当しましょう」

「「……」」

 そして、主任はあっさりと決定した。…勿論、言われた当人達はポカンとするのだったー。

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