ーそれから、更に数日後。
「「………」」
カノープスの食堂に入ると、お気に入りのシートでグッタリしているランスター達を見つけてしまった。…どうやら、昨日も相当にシゴかれたようだ。
ー彼女達の『修練』は『適正』を見た翌日から始まっていた。…まあ、俺は別のルームでトレーニングしたり次の目的地の情報を整理したりしてたから、ちゃんとは見てない。
ただ、修練2日目からいっつも2人はグッタリしていた。
一方、指導役達は2人と同じメニューをこなして…いや、2人以上にいろいろと大変にも関わらず、ケロリとしていた。
「ーはあ、コレ凄く美味しいですね…」
「…いや、これ『自家製』のレベルを超えてますよ……」
その証拠に、2人と同じテーブルに居る指導役達は朝から元気にブレックファストを食べていた。
「ーおはよう」
「「…っ。…おはようございます……」」
「「おはようございます、キャプテン」」
とりあえず、カウンターで今日のメニューを受け取った俺は4人の居るテーブルに向かい挨拶をする。…それに気付いたランスター達は、何とか頭を上げて小さな声で挨拶して来た。
勿論、指導役達はしっかりと背筋を伸ばし返事をした。…ホント、凄いな。
「…っと。…昨日も、『大変』だったみたいだな?」
「……」
「…うん……」
すると、姉はコクンとだけ頷き弟は何とか返す。…けれどー。
「ーいえいえ、まだ『基礎』の段階ですよ」
「…まあ、2人共飲み込みが早いのでもう少ししたら『クラフト』に移行しようと思っています」
「「………」」
主任は笑顔で、もう片方の指導役は真剣な顔で、ランスター達にとって結構驚愕発言をした。…多分、『ステージ設定』を知らなかったのだろう。いや、指導役達は意図して教えてない可能性がある。
「…まあ、『俺達』皆通って来たルートだからガンバレッ」
「「…っ。…はい……」」
すると、ランスター達は俺や指導役達を見た後諦めたように頷いた。
ー当然の事だが、俺もミリアムもエリゼ博士も厳しい修練を積み重ねて来ている。
けれど、そのおかげで強くなれた。…そして、ランスター達にも強くなって欲しいから指導役は本気で指導するし、俺も『メニューを軽くして』とは提案しないのだ。
「ー…っと。頂きます」
「「……っ」」
とりあえず、俺もブレックファストを食べ始める。…すると、ランスター達はハッとして食事を再開した。
「ー…あ、おはようございます……」
それから数分後。とある人物が、少し緊張した様子で挨拶して来た。
「っ…。ああ、おはよう」
「「おはようございます」」
俺は、口の中のモノを呑み込んでから『ソイツ』…『プレシャスのニューフェイス』ことヒューバートに挨拶を返す。
それに続いて、指導役達は笑顔で返すのだが…。
「「…おはようございます」」
『加入までの経緯』を知るランスター達は、未だ警戒しながら返した。…はあ、まだまだ時間は掛かりそうだな。
それを見て、俺は内心ため息を吐く。
ーさて、なんで彼も一緒に来ているかと言うと…『傍に置いておきたい』からだ。
いくら『プレシャス』へ加入したとはいえ、1人で行動させる訳にはいかない。まあ、傭兵資格を持ってるメンバーと非戦闘メンバーは行動を共にしているが…。…コイツの場合は、イロイロと『危ない』。
何せ、大の『プレシャスファン』で『サーシェスアンチ』。オマケに端末は『副産物由来』なのだ。
下手すると、報復された上『ヤバいスペック』の端末が連中の手に堕ちる可能性がある。
だからこそ、俺は自信の秘密を彼にも明かしたのだ。…おかげで彼は、嬉々として同行を快諾してくれた。
まあ、本当はランスター達の秘密は(勿論当人達から許可を貰って)話さなくても良かったが…これから先『何があるか』分からないからな。
だから、後で余計なトラブルを発生させない為に先に話しておく事にしたのだ。
「ー…ふう。ごちそうさまでした…」
「…ごちそうさまでした。はあ、ここのゴハンは本当に美味しいです」
気が付けば、指導役達はブレックファストを食べ終えていた。…その顔は、幸福に染まっていた。
「気にいってくれたようでなによりだ」
「ええ…。…では、失礼します」
「…あ、私も失礼します」
「ああ」
そして、指導役達はお辞儀をしてから一足先にテーブルを離れた。…するとー。
「ー…いや、アーツ使いの人って本当『スキ』がないですね。
っ、あ、勿論キャプテンもですけど…」
同じテーブルに座ったヒューバートは、2人の後ろ姿を見ながらそんな事を口にする。…そして、慌てて付け加えた。
「まあ、『そういう生活をして来た』ってのが大きいんだろう。
それに、知ってるかもしれないが俺の場合はー」
俺は、多分彼も知っているであろう地元エピソードを話した。…けれど、彼は非常に興味を持って聞いていた。
「ー…いや、何度聞いてもビックリですね。『駆除業者』が限られた数しかないって、想像も付かないですよ」
「俺も、『周り』の事を調べて初めて『常識ハズレ』だと知ったよ」
「…私達も、『似たような』経験がありますね……」
「…うん」
「…っ」
「…あ、『情報収集』といえば新たに判明した事がありますー」
そんな話をしていると、彼は思い出したようにウォッチ型端末を起動した。
ー実は、彼には『ファインドポイント』について調べるようにオーダーを出していたのだ。
勿論、カノン達によってポイントやその周辺情報は特定済みだが…『ファインドポイント』へのアクセス手段は、公的な情報サイトには記載されていないのだ。
前回の『ドラゴンの寝床』の時は、『ツテ』があったからスムーズに行けたが今回は…というか、大抵そう簡単にはいかないようになっている。
まあ、『手掛かり』と比べると難易度は低いが『ファインドポイント』も到達まで『ハード』である事に代わりはない。
…で、彼に『何』を調べさせているのかというとー。
「ー『ファインドポイント』が、ラバキアの『商業エリア』の『あの施設』にあるのは既に分かっている事ですが…そこのトップが、『キー』を握っていると思われます」
「…ほうー」
彼は、エアウィンドウをこちらに見せながらそんな予想を口にした。…そこには、トップの『ブログ』が記載されていた。
ーその内容は、自身の趣味の話や今話題のニュースに対する独自の見解等だった。…それだけなら、『判断材料』としては弱いだろう。
けれどー。
「ーこの人は、大の『ヒストリーマニア』です。…特に、『古代文明』にご執心なようです」
そのブログの大半は、彼の言うように『古代文明』に対する予想や現時点で解明されている『情報』が記されていた。
「昨日、『専属講師』殿に確認した所記載された情報は全て正確なモノでした」
「…そうか。…なら、ターゲットをその人に絞るのもありだな」
「分かりました。…あ、そういえばー」
すると、彼はついこの間更新された記事を表示された。…そこには、近日中に『イベント』が開かれる事が記載されていた。
「ーこれ、どう考えても『条件』だと思うのですが…」
「…だろうな。となると、場合によっては『勉強』が必要になるだろう」
「…ですよね」
「…っと」
やれやれと思っていると、そろそろ『時間』が迫っている事を思い出し俺は食事を再開するのだったー。
ーこの時の俺は、『あんな出会い』が待ち受けているなんて…ましてやその出会いがきっかけとなり『あんな事』が起きるなんて知るよしもなかった。