「ーああ、お待ちしておりました。レーグニッツ様。ブライト様」
『……っ』
そして、俺達が近いて来た事に気付いた壮年は恭しくお辞儀をしてくる。…当然、クルーとSPチームら警戒するがー。
「ーあ、申し遅れました。私、『こういう者』です」
壮年は気にした様子を見せず、予め用意していた名刺入れから1枚の名刺を取り出し…『警戒していない』俺に渡して来た。
『ーっ!?』
次の瞬間、クルーとチームは壮年を見てギョッとした。…『メイドインカノープス』のサングラスによって、壮年の正体を知ったからだ。
「…えっと、それで『ご用件』はなんですか?私達、今急いでいるのだけれど?」
一方、伯母様は話についていけない…と思いきや非常に落ち着いた様子で壮年に先を促した。すると、壮年は直ぐに丁寧な所作で出入口を指し示す。
ー直後、出入口前の道路に『リムジン』が現れた。
「では、どうぞカーにお乗り下さいませ」
「ありがとうございます」
「…っ、ありがとう」
『どうも…』
なので、俺達は礼を言い『リムジン』に乗り込んだ。…そして、最後に壮年がドライバーシートに該当する位置に乗り込む。
『ー先程振リデゴザイマス。マスター、並ビニ皆様。ソレデハ、発進イタシマス』
「ああ、頼む」
『お、お願いします』
それを確認した『エージェント』は、挨拶をした後発進を宣言する。勿論、俺とクルーはきちんと返した。するとー。
「ーお願いするわ」
伯母様は既に慣れたようで、丁寧なお辞儀を添えて返した。
『エエ、オマカセ下サイ』
それを受けた『エージェント』は、なんだか嬉しそうにしながら『リムジン』を発進させた。
「ーで、どうしたんだ?…『マネージャー』である君がわざわざ直接来るなんて」
そして、俺は直ぐに『壮年』…我が船の『マネージャー』に声を掛ける。
「…ああ、やっぱり『カノープス』の関係者だったのね?」
「ー…やはり、『シュザンヌ様』はお鋭くていらっしゃいますね」
直後、カノンは元の姿に戻った。…ああ、そういえば彼女とも顔見知りだったな。
「………ウソ、『カノン』なの?」
「はい、お久しぶりでございます。…叶うなら、このまま再会を祝いたいところですが先にマスターへのご報告をさせて頂きます」
直後、伯母様はかなり驚いた様子だった。…まあ、『凄く久しぶり』に再会したんだから当然か。しかも、カノンの方は『未だ現役』なのだから。
けれど、カノンは再会を喜ぶ前に報告を始める。…直接来た事に加えて、報告を優先する彼女の姿勢に俺は凄く嫌な予感がした。
「…っ。……」
『………』
「まず、何故私が直接来たかをご説明します」
勿論、伯母様もクルー達も緊張してしまう。…そして、彼女は最初に俺達が抱いていた疑問から答えた。
「現在、商業エリア全域と幾つかのブロックは『盗撮・盗聴』されている可能性があります」
『………はい?』
「………」
「…マジか。…いや、本当に『手段を選ばない』ヤロウだな……」
彼女の口から出た到底信じられないワードに、俺達は唖然とする。
「勿論、現地捜査チームには先んじて『注意』を呼び掛けております。…今のところ、『トラブル』は発生していないようです」
「…そりゃ良かった。…まあ、現地の『レプリカ』の『アプデ』は完了しているから大丈夫だとは思うが」
「ーっ!…話を遮って申し訳ないのだけれど、もしかして『幾つかのブロック』の中に『彼女』の自宅周辺も対象ではないかしら?」
すると、ふと伯母様が冷や汗を流しながら確認して来た。…まあ、当然の予想だ。むしろ、その他のブロックは『フェイク』かもな。
そして、カノンは頷く。
「その通りでございます。…ですが、『ご安心』を」
けれど、彼女はいつも通り冷静な様子で伯母様の不安を払拭する。…多分だが、伯母様は此処に来る前に件のご婦人に連絡を入れたのだろう。
「実は、ご婦人の邸宅には強固な『多重バリア』を展開しているのです。
1つは、物理的な脅威から身を守るモノ。もう1つは、『プライバシー』を保護するモノです」
「………」
「だから、『犯人』は伯母様がご婦人と通信していた事は知らないんですよ」
「…一体、いつの間に?」
短い説明の後、伯母様は驚愕しながらも聞いて来た。
「最初の『トラブル』の翌日には、既にバリアを展開していました。
…ちょうどその日、テレビ局の付近で追い詰めれた様子のご婦人を見掛けましてね。そして、同日に『いろいろな情報』を得ていたので、直ぐに1次調査とバリア展開のオーダーをカノンと『サポーター』に出したんです」
「………」
『……』
俺は何でもないように言うが、伯母様も初耳だったクルーも唖然としていた。
「…で、他には?」
「こちらをー」
なので、とりあえず俺は他の報告を促す。直後、仕事用のデバイスにデータが送られて来た。……ほう。
『中身』を確認した俺は、それを頭にしっかりとインプットする。
「…キャプテン、教えて貰っても?」
「ああ。
ーご婦人の邸宅に潜んでいた『盗聴器』から、犯人に繋がる『手掛かり』である『音声データ』が見つかった」
「…っ!」
『……』
「………。…やはり、今回も『レプリカ』が……」
「…それで、その『レプリカ』は?」
案の定、姉は怒りを浮かべる。一方、エリゼ博士は少し気掛かりな様子で聞いて来た。
「大丈夫。『レプリカ』は今、『別の場所』で作業している。…勿論、『管理権限』は上書きしないままで」
「……はい?」
予想外の返答に、博士はキョトンとした。…まあ、当然の反応だ。
「…なるほど。『連中』を欺く策ね?」
「…っ。そうか、いつもみたく『離反』させたら直ぐに犯人に通達が行くかもしれませんか
ね。
だから、『場所』だけ変えるに留めたと…」
「そういう事。おかげで、犯人は勿論『連中』でさえ、こちらが大きく前進しようとしている事に気付いていないのさ」
「…素晴らしいわ。本当に、立派な『エージェント』ね」
すると、伯母様は感心と称賛を送ってくれた。…そんな時ー。
「ーっ!?」
『ー周辺ニ異常発生。走行ヲ一時停止シマス』
雨雲に覆われた薄暗い高級住宅エリアは、ライトニングに似た眩いフラッシュに包まれた。…直後、『ウマ』は路肩に寄りゆっくりと減速していく。
「……っ。…な、なんですか、今のは?」
そして、俺達は恐る恐る目を開ける。すると、カーの中はいつの間にかルームライトが点灯していた。…どうやら、謎のフラッシュが発生に合わせて『遮光』をしたようだ。
下手したら、目に異常をきたしていただろう。
「(『彼女』を生み出しておいて良かった。)
ーどうやら、また犯人が『トラブル』を起こしたようだな」
『……っ』
「…どうして、そう思うんですか?」
「簡単な推察ですよ。
ー『中止しろ』と脅しているのに、テレビ局は一向に脅迫に屈する気配がない。しかも、『ガチ』だと示す為に『実害』を出そうとして結局失敗に終わってしまいました。
そして、遂に『ファーストステージ』が実行に移されとなれば…犯人はより過激な手段に出るのは必然です」
「…なんと……」
推察を聞いた伯母様は、僅かに怒りを浮かべていた。…そういえば、伯母様とカーリー従姉さんって『身勝手なヤツ』、そして『人に迷惑を掛けるヤツ』が大嫌いだったな。
だから、従姉さんがレーグニッツ家に嫁ぐ前には既に意気投合したんだろう。
「ーマスター、周辺状況の確認を完了しました。
現在、大規模なフラッシュ現象は収束した模様。…ですが、イーストエリア全域でライトシステムが停止しているようです。
その影響で、警備部隊から『非常警戒アラート』が発令。…『復旧まで、民間人は無闇に動かないように』との事です」
「…っ!」
「…文字通り、『ライトニング』だったか(…それにしても、何でピンポイントに?まるでー)」
「…あの、オリバーさん。
ーこのトラブルと、私達の行動って関係があると思います?」
『……』
俺は近くに居る『SPチーム』に連絡を入れつつ、考え始める。すると、ミリアム達も同じ考えに至っていたようだ。
「…十分、あり得るだろう。
もしかすると、俺達…いや伯母様はマークされていたのかも知れないな」
ー勿論、今に至るまでに『イレギュラー』はなかった。…いや、敢えてスルーしていたのかも知れない。
「ーっ!報告致します。
地上部隊より、交通誘導の部隊が緊急出動。凡そ、30分で現場到着します」
「そうか。
ーさて、『行こう』か?」
『了解』
それを聞いた俺は、クルーにオーダーを出す。勿論、全員直ぐに頷いた。…まあ、どう考えてもー。
「ー…っ。なんと悪辣な……」
伯母様は、ワンテンポ後に犯人の次の行動を察し美しい顔を歪めた。…そう。絶対に、『妨害』が発生するだろう。
「それでは、伯母様。いってきます」
『…い、いってきます』
「…ええ、気をつけて」
そして、『準備』を整えた俺達は伯母様に挨拶してから『ウマ』の外に出るのだったー。