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第66話 ケーキ

 お父さんとお母さんの家に着くとちくわが尻尾を振って迎えてくれた。


「こんにちは〜。可愛いね!ちくわ」


 お腹を見せて撫でてくれポーズをとるちくわのお腹を撫でていると後ろからお母さんに注意される。


「もう!後ろがつまってるわよ。ちくわとはリビングで遊びなさい」


 子供のような怒られ方。懐かしくて思わずジンとした。

 私はカバンを持ち上げて部屋に運び込むとついてきたちくわをまたワシワシと撫でる。累はそんな私とちくわを見ながら優しく見守ってくれていた。


「写真何枚か撮ったから後で送るね。ふふ。ちくわと結菜、ちょっと似てるんじゃない?目がクリクリなとことか小顔なとことか」


(え?それって私が犬っぽいってこと?)

 言葉の真意は計りかねたが嫌な意味でないことは表情からわかったので気にしないことにしてワシワシとちくわを可愛がる。その時廊下からお母さんの声が聞こえてきた。


「近くにある美味しいケーキ屋さんでお父さんがケーキ買ってきてくれたからお茶にしましょう」


「はあい!楽しみ!」


 すると累はくすくすと笑う。

 何か変なことがあったのかと小首を傾げていると累は答えてくれた。


「ああ。結菜がすっかり子供に戻ってるから可愛くて。いつもしっかりしているけど、子供の頃の結菜は甘えん坊で可愛かったんだろうなって思えて。すごく新鮮なんだ」


 言われてハッとした。確かになんだか言動が幼かったかもしれない。なんだかんだ言って私はいつまでもお父さんとお母さんの子供なのだなと思い知らされる。

(恥ずかしいな。すごく幼い言動してたかも…累の前ではちゃんとしたかったのになあ)

 でももう遅い。がっつりと子供っぽい私を見られてしまっていて、それは累の記憶にしっかり残っているだろう。

(しかも累。私に関してすごく記憶力いいから…)

 悶々と考えていたら累が優しく頭を撫でてくれる。


「気にしないで。俺だけでなくお父さんもお母さんも素のままの結菜が好きなんだから。変にかえる必要はないんだよ」


「うん…そうだよね。ちょっと恥ずかしいけど、子供っぽくても笑わないでね?」


「わかった。可愛い結菜が沢山見られるなんて嬉しいから笑わないよ。それよりお父さんとお母さんを待たせてはいけないから早く行こう」


「あ!そうだった。ケーキ楽しみだなあ。きっと前きた時に出してもらったケーキ屋さんだと思うの。甘いんだけどすっごく美味しいんだよね」


 ポヤポヤと幸せに包まれながら累の手を取って部屋を出てリビングに行くと、お父さんとお母さんはニコニコ微笑みながら私と累を見てお皿に盛り付けたケーキを見せてくれた。


「仲がいいわね。懐かしいわ。私も若い頃はそうやってお父さんと手を繋いで歩いたものよ」


「あ!つい…。というか。お母さんとお父さん今もいつも手を繋いでるじゃない」


「ふふ。そうだったわね。そうだケーキどれがいい?4種類買ってきたから好きなのを選んでちょうだい」


 机には綺麗で可愛いケーキが4つ並んでいた。

(うーん。やっぱりラズベリーのケーキが食べたいけど累はどれがいいのかな?)

 私は一度食べたことがあるので、累に選んでもらうことにした。


「累はどれが食べたい?」


「そうですね。ではこのピスタチオのケーキをいただいてもいいでしょうか?」


「あら!私の思った通りのチョイスだわ。やっぱり私の見たてに間違いはなかったわね。それに結菜はラズベリーのケーキが食べたいんでしょう?」


「すごい!どうしてわかったの?」


「そうねえ。長年培ってきた観察眼のおかげかしら?」


「さすがお母さんですね。俺はまだ結菜が食べたいものわかりませんでした」


「ふふ。これでも結菜のお母さんだからね。あ。ちなみに累さんのピスタオ味は完全にイメージよ」


「イメージ通りで良かった。俺、ピスタチオ好きなんです」


「まあ!良かった。ふふ。新しい家族の好きなものが知れて嬉しいわ。好きな食べものは何かしら?食事を作る時の参考にしたいの」


「俺はなんでも食べられますしアレルギーもないんです。ただ。家庭の味に飢えているので図々しいお願いで恐縮ですが、お母さんの手料理が食べたいです」


 累は子供時代不遇な生活をしてきたので普通の家庭に強い憧れを抱いてることを知っているから私は胸が苦しくなる。

(ハワイにいる間は家族を満喫してもらおう)

 私は累の手を強く握った。


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