それからすぐに両親から航空券が届いて荷造りも完了して私は累とハワイに降り立った。
空港には懐かしい顔が2つ。お父さんとお母さんが迎えにきてくれていたのだ。
「結菜!会いたかったわ。でも意外ねえ。てっきり…」
「初めまして。沢村累と言います。建築士をしています。よろしくお願いします」
累はちょっと緊張気味に挨拶すると両親は笑顔で答える。
「累さん。いつも結菜がお世話になっています。建築士をされているなんてすごいわあ。それに優しそうでイケメンだなんて結菜はいい人を見つけたわね」
「そうだな。どうかこれからも結菜のことをよろしくお願いします」
お母さんとお父さんがそれぞれ累に話しかけると、累は嬉しそうだった。
(良かった。第一印象はお互いいいみたい)
両者ともにいい感じに対面できたことにほっとする。累は早速両親と馴染んでくれているし、心配は要らなそうだ。
「今日はこれからどうするの?」
私が聞くと両親は笑顔で一度家に戻って荷物を置いてから観光に行こうと言ってくれる。
「ああ。でも移動で疲れているなら今日は家の周りを散歩しながらゆっくりするのもいいかもしれないわね。最近犬を買い始めたからその子の散歩をお願いできたら嬉しいのだけど」
「ええ!そんな素敵なことはもっと早く教えて欲しかったなあ。なんていう種類の犬なの?」
「チワワよ。そういえば良平くんのお家もチワワを飼い始めたって言っていたわね」
「うん。すごく可愛いの。お母さんたちには写真を送ったよね」
すると両親はスマホを操作してそれぞれお気に入りらしい犬の写真を見せてくれた。
「ちくわっていう名前なの。可愛いでしょ」
そこにはまろまゆの黒と茶色の混じった可愛いチワワが映っていた。見た感じとても小さな子犬で、最近飼い始めたのだということがわかる。
「可愛いですね。動物が好きですので会えるのが楽しみです」
累はニコニコしながらその写真に見入っていた。
その時お母さんがコソコソと耳打ちしてきた。
「結菜はてっきり良平くんと結婚するのかと思っていたいけど、累さんもいい人ね。チワワ好きには悪い人はいないもの。ふふ。次に会うのは結婚式かしら?」
「お母さん気が早いよ。まだ同棲の許しを貰いにきただけなのに…」
「あら?そう?でもこういうことって決まる時はあっさり話が進むから。結菜がドレスを選ぶときは一緒に選びたいから日本に一時帰国しちゃおうかしら。それより家はどうするの?」
「それなんだけど、累の家で同棲しようということになって、今住んでいる実家をどうするか相談したくてきたの」
手放すのは忍びないけど、見ず知らずの人に貸し出すのも気持ちが重い。思い出の詰まった実家だから尚更だ。
するとお母さんは意外なことを言った。
「あら。別に無理して手放したり人に貸す必要はないんじゃない?色々費用はかかるけど残しておいてくれたら私たちも気兼ねなく一時帰国できるし」
なるほどと思った。私は家に残すものをレンタルボックスに預けようと思っていたからその手間も省ける。
「そっか。そういう方法もあるんだね」
「そうよお。それにね。あまりいいことではないけど、逃げる場所を確保しておくのも大切なのよ。一緒に住んだら今まで見えなかったことも見えてしまう。喧嘩に発展することもあるかもしれない。そんな時逃げる先がある方があなたも心の負担が軽くなるでしょ?」
確かに逃げ場はあったほうがいいかもしれない。特に累さんのように私を盲信して束縛する傾向にある人のそばにずっといたら、愛しているけど息苦しさを感じてしまうかもしれないから。
「お母さんありがとう。やっぱりきてよかった。私一人で考えてたら思いつかなかった」
「今でこそラブラブだけど私とお父さんも若い頃は色々あったからね。しょっちゅう実家に帰っていたのよ」
今のラブラブぶりからは想像できないことを告白してくれた。これも私が大人になって冷静に話を聞けるようになったからだろう。
でも希望も見えてきた。今の落ち着いたラブラブ夫婦であるお父さんとお母さんですらすれ違うことがあって、それを乗り越えてここまできたのだ。だから私と累も色々あったけど、これから先。お父さんとお母さんと同じように仲睦まじい夫婦になれるだろう。
(やっぱり困った時には人生の先輩に聞くのが一番だよね。これからも困ったことがあったらお母さんに相談しよう)
未来が少し明るくなった。これも全て累が企画してお父さんとお母さんに会う機会を作ってくれたおかげ。私は改めて累に感謝をした。