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第103話 大好きだから

翌日会社に着くと愛花が私に抱きついてきた。


「結菜!無事感情が戻ったんだね!おめでとう!」


「愛花!うう〜ありがとう」


 私は愛花に喜んでもらえたことが嬉しくて思わず涙が出た。それをメイクが崩れないように愛花がそっとハンカチで拭ってくれる。


「でもどうして急に?何かきっかけがあったの?」


「それがね…」


 私は昨日の出来事をかいつまんで話すと愛花は目頭を摘んでため息をついた。


「結菜って本当に…変人ホイホイだよね。ほんとに気をつけなよ?」


「あはは…はい」


 変人ホイホイ。言われればそうかもしれない。昔から私に言い寄ってきてくれるのはなんだか癖の強い人ばかりだった。だから長続きしなかったし、身体を許す前に別れてしまっていた。

 そして累は歴代でダントツに変な人だった。だけどそんな彼と長続きするどころか一時は婚約までしていたことが本当に驚きだった。

(でも仕方ないじゃない。好きになっちゃったんだから)

 惚れた方が負けなのだ。たとえ相手がどんな人でも。

 私は累に惚れてしまったから。たとえ累が変人でも構わない。いや。ストーキングや盗聴は嫌なのでそこはしっかり叱るつもりだが、それでも別れるつもりがないので自分の神経の太さに驚く。

(もう累は反省もしたし、きっとこれからは大丈夫だよね)

 私はそう思いながら仕事を始めた。


 それからは忙しくてあっという間に約束の日が来た。蓮花に着くと累はすでにカウンターに座ってマスターと楽しげに話をしていた。


「マスター!入院中はお見舞いに来てくださってありがとうございます」


「結菜ちゃん!元気な姿を見られて嬉しいよ。さあ座って。1杯サービスさせてね。あ、おつまみもつけるよ」


 結菜は累の隣に座ると蓮に声をかける。


「そんな…悪いですよ。気にしないでください」


「いいのいいの。ここは甘えてくれた方が嬉しいんだけど…」


「じゃあ…いただきます」


 蓮はささっと綺麗なカクテルを作っておつまみにナッツの盛り合わせを出してくれた。私はカクテルと一口飲み、感動する。


「美味しい!さすがマスターおすすめのカクテルですね」


「これは恋に効くおまじないが入ってるカクテルだよ。二人がうまくいくように願いを込めて作ったから」


 普段踏み込んでこない蓮が私と累のことを心配してくれていることがわかって、私は嬉しかった。みんなが私と累の関係を気にしていてくれて、応援してくれていることが心強かった。

(こんなに私のこと心配してくれているのだから。累とのこと。頑張らなきゃ)

 私はそう決意しておつまみのナッツを齧った。

 累はそんな私を愛おしいそうに見つめ、そっとテーブルの下で手を握る。わたしはそれだけで胸が高鳴る。累の暖かい手で私の手が包まれて。幸せで仕方なかった。


「会いたかった。結菜との約束のおかげで今週は頑張れたよ」


「私も。累に会えるの楽しみにしてたから仕事を溜めないように頑張れた」


 蓮は私達が話し始めると他の客の接客に行ってしまった。二人だけにしてくれたのだ。本当にできたマスターだなと改めて感心した。

 それは累も同じ思いだったようで目配せをして二人で微笑みあった。

 累が隣にいると、愛が溢れて止まらない。今まで感情がなくなっていた分さらに愛おしい。こんな素敵な感情が消えてしまっていたなんて、ゾッとした。

 もし戻らなかったら、この胸の高鳴りも愛おしさも全て感じずに生きていかなければならなかったのだ。そんなの寂しすぎる。


「本当に感情が戻ってよかった。累とこうして幸せに過ごせるようになって。幸せ」


「それは俺も同じだよ。戻ってきてくれて嬉しい。結菜が愛おしくてたまらない気持ちがようやく受け止めてもらえて。これで心置きなく結菜のこと思うことができるよ」


 累が喜んでくれてよかった。今まで辛い思いをさせてしまったので累に沢山愛情を注ぎたかったから。私はそっと累の指の間に自分の指を絡ませてきゅっと力を込めた。すると累も力をこめてくれる。それだけで二人の間には甘い空気が漂い幸せだった。


「累…大好き…」


 口をついて愛を告げてしまって思わず赤面してしまった。赤い顔を見られるのが恥ずかしくてフイと横を向くとくくっと累の笑い声が聞こえてきた。


「結菜はかわいいね。耳まで赤くなってる」


「累の意地悪。気付かないふりしてよ」


 私は累から顔を逸らしてナッツを齧って落ち着こうとした。だが累はそれを許してはくれない。ちょっと意地悪に私の頬を突いた。


「ねえ。こっち見て結菜の顔見たいな…」


「だって今赤くなってるから…恥ずかしい」


 本当に恥ずかしかったのだ。なのに累は意地悪に言う。


「その顔が見たいの。ねえ。今までずっと我慢してたから…お願い」


 我慢させていたのはわかっていたから私は覚悟を決めて累の方を向くと急に累の顔が近づいてほっぺにキスをされた。


「累!!」


 私は驚いて累を軽く睨んだが累は全く動じず楽しそうに微笑んでカクテルを飲んだ。

 あまりにも自然な累に私はちょっと悔しくなったが嬉しくもあったので私も黙ってカクテルを飲んだ。


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