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第127話 再びの

「はあ〜南草さん素敵だったなあ」


お風呂のバスタブに浸かって先ほどのことを思い出す。着物を嫌味なく着こなして所作も綺麗で、お酒にも強い。そして何より優しい旦那様がいる。家では料理教室をしてお金も稼いでいて、理想の女性そのものだった。


「はあ。私も南草さんみたいな淑やかな女性になれたらいいのに…ううん。他人を羨んでもどうしようもないもんね。前向きに!今は累がいてくれるし。私だって十分幸せだよ」


 辛い時期を支えてくれた優しい彼氏。累がいるだけで私は幸せだった。ただ心配なのは累は出来すぎた彼氏なので依存しすぎてしまいそうなところが怖かった。


「万が一累と別れたらもうで誰とも付き合えなさそう」


 考えたくもない事態だが、人生どうなるかわからないのでそれを思うと急に寂しくなった。(累の声が聞きたいな)

 私は急いでお風呂から上がると髪の毛を手早く乾かして累に電話をかけた。

 彼はワンコールで撮ってくれて私は嬉しくなった。


『結菜から電話なんて珍しいね。何かあった?』


「ん。ちょっと声が聞きたくなって」


 そう言うと電話口から息をのむ雰囲気が伝わってきた。


『そんな可愛いこと言われたらすぐに会いに行きたくなちゃうよ』


「ふふ。でも明日も仕事でしょ?週末には会えるんだからそれまで我慢だよ」


 最近毎日が楽しい。週末になれば累に会えるのが楽しみで仕事も楽しくこなせているのだ。倒れてからと言うもの、雑務を押し付けられることもなくなって、特に私に色々押し付けていた先輩は仕事が出来なさすぎて降格し、社内調査で私が代わりに仕事をしていた分が彼の評価につながっていたことがわかり、私の人事評価が大幅にアップした。愛花は今更だと怒っていたが、これで平穏に仕事がこなせるようになったので私は嬉しかった。


「そういえば結菜。そろそろ髪型変えたら?」


 ランチ時、愛花が突然そんなことを言い出した。


「え?どうして?」


「ちょっと長すぎじゃない?前の方くらいまでの長さの方が似合ってたよ」


愛花は外見に関してはズバッといいアドバイスをくれるので私は確かにそうかもと思った。色々あって最近美容室に行っていなかったので、これを機会に変えてみようと思った。


「じゃあいいところ紹介してあげる。この一駅先にある“Ar”(アール)っていうお店なんだけど腕がいい美容師さんがやってる個人店だからおすすめだよ。一見さんお断りだから私が予約しといてあげる。いつがいい?」


「うーん何時までやってるの?」


「開店が13時で閉店が23時。完全に仕事してる人向けの店なんだ」


「じゃあ空いてる一番早い時間と日にちで」」


すると愛花は早速電話をかけて予約をとってくれた。


「ちょうどキャンセルが出たから明日の19時からね。店主ほんとにイケメンだから目の保養になるよ〜」


 ラブラブな夫がいて他に興味のない愛花がそう言うのだからよっぽどなのだろう。累にも一応報告しておいた方がいいかもしれないと思ってLIMEにメッセージを残す。


『明日髪を切りに行くことになりました』


『急にどうしたの?』


『友達に前の髪型の方が似合ってるって言われて』


『確かに前の方が活発な感じが可愛かったね。今は落ち着いたお姉さんって感じだから』


『じゃあ週末楽しみにしていてね』


『わかった!楽しみにしているよ』


そこまでLIMEして休み時間が終わった。


仕事を終えて家に帰るとまた寂しさに襲われる。誰もいない家に帰るのが寂しくてまた累に電話したいと思ってしまったが、毎晩になると迷惑になるかもしれないからグッと我慢した。

簡単にご飯を作ってそれを食べると早めに布団に入って眠ることにした。布団も冷たくて寂しさが増していく。思わず涙がこぼれる。人の肌の心地よさを知ってしまったから。一人寝の寂しさが辛い。

そんな時、累からLIMEが入った。


『結菜泣いてない?』


『え?どうしてわかったの?』


『一人で寝るの寂しいんじゃないかなって』


『…うん』


 私は素直に答えた。ここで気持ちを隠す必要などないと思ったから。


『ねえ。やっぱり一緒に暮らさない?君一人だと心配だよ』


 心臓が跳ねた。累も一緒に暮らしたいと思ってくれていたなんて嬉しい。私の記憶の件とか、懸念点はあるけれど、もうこの寂しさから早く逃げ出したかった。


『うん…一緒に住みたい。おはようとおやすみを言いたい』


『じゃあ決まりだね。今週末からうちにおいで。荷物は少しずつ運び出したらいいから』


 急に決まった同居話に私は浮き足立つ。慌てて荷物をキャリーケースに詰めながらLIMEの返信をした。


『わかった。じゃあ週末はおっきいキャリーケースを持って行くね』


『ふふ。じゃあ車で迎えに行くよ』


『ありがとう。おやすみなさい』


『お休み』


 また累と暮らせる。一緒に眠っておはようと言って起きて、行ってきますもお帰りなさいも言える。すごく幸せだった。私は週末に向けて荷物を厳選してトランクに詰める。洋服に下着に、バッグや小物なんかも。色々入れたいものがあってトランクはあっといまに満杯になってしまった。


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